【“夜のまち”からの提言】徹底した取り締まりで緊急事態宣言100%遵守を 福岡・中洲「クラブうるわし」
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新型コロナウイルスの感染拡大が続く福岡県は先週20日、緊急事態宣言の対象地域となった。前回、5月12日~6月20日までに続く4回目の「緊急事態」地域となる。期間は9月12日まで。
宣言にともなって県内全域で飲食店の酒類提供が停止され、酒類を提供しない飲食店は午後8時までの時短営業が要請される。しかし、「感染拡大の温床」とやり玉にあげられることも多い歓楽街・中洲の関係者からは緊急事態宣言“慣れ”を指摘する声もあがっており、国や県の要請に従う店舗とそうでない店舗の間に軋轢(あつれき)が生まれる事態にもなっている。中洲で50年以上にわたってクラブ「うるわし」を運営してきた(株)ヤマシタの山下俊也氏は、「9割が守っているからOK、では意味がない。100%の店舗が(要請を)守るのでなければ、正直者が馬鹿をみる事態になってしまう」と訴える。
「1店舗でも開けていては意味がない」
――中洲の某有名クラブ(RB)がつい最近も感染者を出したことで、批判を浴びていますね。
山下俊也氏(以下、山下) 今回新型コロナウイルス感染者を出したRBは前回の緊急事態宣言中にもお店を開けていました。あえて言わせていただければ、そうした危機感が欠如したなかで新たな感染者を出したわけで、まったく同情の余地はなく、むしろ他店が被った迷惑のほうが大きいと思います。RBはお客さまに地元経済界や政界関係者が多いので、行政が忖度しておとがめなしではないかとか、いろいろな声がありますね。
――「クラブうるわし」は、新型コロナウイルス感染防止のための国や県からの要請にはすべて従ってきました。その間、従業員の女性に対してはどのような補償を行ったのですか。
山下 基本的に、従業員に対しては1日1万円を支給してきました。それでも足りないという場合には、店から無利子の貸付を行っています。ここまでするのには理由があって、女性たちの生活を守るのはもちろんですが、要するに他店舗への移籍を防ぐためなんです。女性たちには生活があるので、困窮すれば働かざるをえません。そんななかでうちが閉めていて他店が開けていれば当然、他店の誘いに乗る可能性が高まります。
私が、「国や県の要請には全店舗が足並みそろえて従うべき」と主張するのは、店舗間の軋轢をなくすためでもあるんです。1店舗でも開けていればお客さまはそこに流れますし、そうなると他店も開けざるをえません。それが続けばだんだんと開けている店のほうが多勢になってきて、正直に閉めている店のほうが馬鹿を見ることになってしまう。「9割が(要請に)応じているのだから、それでいい」とおっしゃる方がいますが、それは甘いと思います。100%要請に応じるのか、あるいは100%応じないのか。その二者択一しかないのです。閉めている店は赤字を出し続け、開けている店は大繁盛で売上は前年比300%……なんていう悪循環を断ってくれない限りは、なんのための緊急事態宣言なのでしょう。
風営法を使った規制が必要~応じない店舗は風俗営業許可の取消も
――要請に従わない店舗はそうした業界事情を知ったうえで開けている。
山下 はっきり申し上げて「火事場泥棒」と呼んで差支えないのではないか。それくらい私は怒っています。正直者が馬鹿を見るという状態が、最もあってはならないと思うのです。他店がどれだけ売上アップしているかという話は入ってきますので、正直言えばうちだって開けたいです。しかし、小さいながらも守ってきた「のれん」がありますし、老舗という自負もあります。そして何よりお客さまを守るという義務がありますので、ここはこらえるしかありません。いま開けたら、これまで守ってきたものがすべて無に帰してしまいますから。幸い、常連のお客さま方からは「さすがだね」というお言葉をいただいていますし、ここで信用をなくすわけにはいかないのです。
――同業者からの反発も覚悟したうえで、そこまで言わざるをえないくらい追い詰められている。
山下 うちだけでなく、要請をきちんと守り続けているオーナーママさんたちからよく電話をいただくんですが、皆さん私より怒っていますよ。「開けている店をずっと張り込んで、誰が店に来てるか公表してやる!」って息巻いているママもいるくらいですから(笑)。
――組合や団体などをつくって統一した対応をとらせる、あるいは現場の声を国政に届けるなど、まとまった動きが必要だという声もあります。
山下 30年ほど前までは組合があったので、それで動くこともあったのですが、いまはもうなくなってしまいました。もともと、誰かが頭に立ってまとめるというのが難しい業界なんです。たとえば中洲で当店はおそらく2番目に古いクラブなので、私が立ち上がれば半分は聞いてくれるかもしれませんが、半分は絶対に反発するんです。全員がライバル同士ですから、それはむしろ当然です。
小さなスナックさんとかは、店を閉めて給付金をもらったほうがかなりプラスになるという話も聞きますね。逆にうちのような大店だと閉めている期間が長いほど苦しくなっていく。それぞれの店舗で状況はかなり異なります。
――たとえば、要請を守っている店に対してより手厚い補助を出すというやりかたで100%に近づけるというやりかたはどうでしょうか。
山下 それも考えたんですが、現実的ではないと思います。福岡県には飲食店が4万6千軒あるらしく、そのなかには月の経費が約1,000万円かかるところもあれば、家賃を含めて10万円しかかからない店もあります。そうした店舗ごとの細かい状況を県や国がどう把握するのか。守っている、守っていない、という基準をどこにおいて、細かく調査できるのか……とても無理だと思いますね。当店でも感染拡大防止協力金を5期から7期まで申請しましたが、いまだに入金がありません。県の職員も一生懸命やっていると思いますが、こんな状況下でそこまで細かな給付判断はとても無理でしょう。
――店舗独自の判断に任せるのば無理なら、たとえば酒類の卸元を断つとか、あるいは銀行など金融機関からの「圧力」を利用すべきなどの乱暴な意見も出ました。
山下 やろうと思えばどこからでも仕入れは可能なので、お酒の供給を断つことは不可能です。銀行を抑えに使う案だって、たとえばキャバクラはそもそも国の支援などを受けられず、セーフティーネットをあてにしていないから痛くも痒くもないでしょう。
最も効果的なのは、風営法を使って規制するやりかたです。要請に従わない場合は風俗営業許可を取り消せばいい。ひどい店舗では灯りを消して闇営業したうえで、給付金の二重取りしているところもあります。本当に「ふざけるな!」という話です。だから、1回でも開けた店に対してはきちんと調査に入って営業許可を取り消すと。一番怖いのは警察なわけですから、効果てきめんでしょう。徹底するためにも、そこまでやるべきだと思います。
中洲のニュースタイル~高性能なフェイスシールドで清潔に、さらに美しく
――ワクチン接種が進んでいますが、早くも3回目のワクチン接種が必要になるという見方が出ています。「対コロナ」の戦いはかなりの長期戦になるとみられますが、中洲の夜のまちは今後どのように変わっていくので
しょう。山下 女性たちが着用するフェイスシールドは間違いなく必需品になります。もはやそれが「ニュースタイル」として定着せざるをえないでしょう。当店ではおそらく中洲で初めて、昨年6月1日にフェイスシールドを取り入れました。シールドに使うプラスチックも女性がより美しく見えるように透過率が高いもの、曇りやゆがみが少ないものを採用し、あえて高級志向のアイテムに統一しました。今では従業員もお客さまもシールドに慣れて、違和感がなくなっています。さらに手の消毒とマスクを徹底することで、おかげさまで当店では昨年来、誰1人としてコロナにもインフルエンザにもなりませんでした。防御がいかに大事か、身をもって知ったわけです。こうしたことさえ守っていけば、それなりに店はやっていけると感じています。
――他店舗からの反発も覚悟のうえでここまで大胆な発言をするのは、それだけ危機感があるからですね。
山下 その通りです。当店がここまで言えるのは、徹底して従業員とお客さまを守っているからです。一度でも闇営業していたか不正な補助金請求をしていたらできませんから。新聞社やテレビ局などのメディアの方も、ぜひそういう視点で「夜のまちのリアル」を伝えてほしいです。正直者が損をする世の中にだけはしてほしくないのです。メディアは行政のおしりをもっと叩いて、取り締まりを厳しくしようという環境をつくっていただきたいですね。
【中洲クライシス取材班】
<INFORMATION>
クラブうるわし
所在地:福岡市博多区中洲2-6-12 第5ラインビル5F関連記事
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