2024年11月17日( 日 )

小売こぼれ話(5)オンラインと宅配(前)

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躍進するアマゾン

 この数年、DXという文字がビジネスの世界を駆けめぐっている。それまで人が担っていた仕事を機械が代行するということだ。インターネットの普及と相まって、新たな感染症の流行や商環境の変化が小売業界の変貌に拍車をかける。まさに従来型小売業受難の時代だ。

 人が生きていくためにはモノがいる。補い合い、届け合いながらそれぞれの手にモノは届けられる。その根本は変えようがない。だが、提供の方法や商品は変化する。

宅配 イメージ 変化の波に乗ったアマゾンの拡大が止まらない。先日ニューヨークタイムズの電子版が、アマゾンの売上が世界最大の小売業ウォルマートを抜いたと報じた。直営ネット通販部門だけだと、まだウォルマートの売上が30%程度大きいものの、出店企業の売上を合わせた推計だと、すでに小売の頂点に手をかけたことになる。

 近い将来、いずれアマゾンがウォルマートの売上を抜くというのはアナリストの共通した予測だったが、2025年あたりというのが大方の見方だった。コロナという追い風があったものの、まさにあっという間のキャッチアップだ。

 20年前、アマゾンは書籍・CD・家電を売るありふれたオンライン小売業者だった。その後、短期間で姿と規模を変貌させた。ホールフーズなどのリアル店舗、直営オンライン、マーケットプレイス、海外オンラインを合わせると、アマゾンは近いうちに名実ともに世界最大の小売業の座に就くはずだ。

 アマゾンの戦略は通常の小売とは違う。違うというより異色である。大きな売上にもかかわらず長い間、小売部門で利益を出せずにいた。その間にあえて実行したことがある。

 その1つが、フルフィルメントセンターと呼ばれる在庫と配送のための新型倉庫の建設だ。ドライブと呼ばれるロボットで商品の入出荷を管理する。ルンバ型ロボットが商品棚を自在に運搬して最も効率の良い配置を行い、ピッカーの指示でその手元に商品を運ぶ。

 人の代わりにロボットが動くから、オペレーションコストが安い。複雑なソーターや付属設備が不要だから、工期も短く、建設費も安い。そんな施設を世界の主要国の各地に建設し続けてきた。このシステムを他社に販売することで、そのメリットも手にする。

 もう1つは、運営するマーケットプレイスを利用した戦略だ。人気商品が出ると、その出品手数料を値上げし、さらに類似商品をPBでつくり、出品者の売上を奪う。最終的には出品者を廃業に追い込むというやり方だ。

 トイザらスのような大手専門企業もこれをやられると、あっという間に廃業に追い込まれる。

 その一方、高品質スーパー最大手だったホールフーズを傘下に収め、自らも「アマゾンゴー」などのリアル店舗を手がける。

 そんなアマゾンだが、純粋なオンライン小売企業ではない。意外と知られていないが、アマゾンの稼ぎ頭はAWSというクラウド会社だ。AWSは自社サイト用に開発したシステムを進化させ、他企業に販売し、今や専業のマイクロソフトやGoogleをしのぐクラウド会社である。これも他企業に販売するというやり方だ。

 コンパクトで腐ることもなく、限りない商圏を持つ書籍の通販にアマゾンが取り組んだのは、最もオンラインになじむ商品だったからだ。高価な本も、なかなか売れない珍しい本も全国が商圏ならば何の問題もない。

 その結果、当初のアナリストの予測に反して、既存の大手書店は大きな影響を受けた。書籍チェーンでアメリカ首位のバーンズ・アンド・ノーブルは業績が低迷し、第2位のボーダーズはあっという間に倒産した。そこでアマゾンはオンラインにさらに大きな可能性を見出したはずだ。

 かつて売れ残りの時計を安く仕入れ、そのカタログ販売でスタートし、アメリカ最大の小売業となったシアーズと基本的には同じ構図だが、同じ通販スタートでもカタログとオンラインでは文字通り世界が違う。

 取扱商品数3万5,000アイテムあまりの本格的な通販でスタートしたシアーズが、全米一の小売業になるまでに100年の時を要したが、半ば書籍ブローカーのようなかたちでスタートしたアマゾンは、わずか25年でその地位に並ぼうとしている。

 アマゾンが顧客の支持を集めるのは、低価格や数億アイテムともいわれる品ぞろえだけが理由ではない。迅速で割安な宅配サービスを提供しているからだ。そのアマゾンが宅配料の見直しを始めた。これまでアマゾンはプレミアム会員への無料配送で、顧客の強い支持を得てきた。ここにきての見直しは、アマゾンがすっかり消費者の暮らしの一部になり切ったことが背景にある。

 今やアマゾンなしでは日常生活に不便をきたす消費者はごまんといる。多少の配送料見直しで大きな客離れは起きないと踏んでのことだろう。

 配送コストは人手不足と労務環境の変化により、今後ますます高騰することは必至だ。そんな現状を見て、アマゾンが手がけたのが「アマゾンフレックス」という個人請負の配送方式だ。

 個人事業だから、直接雇用のように労務問題が起きにくい。保険などの関連コストの負担も少ない。しかし、配送事業者がこの仕事で稼げる金額は小さい。極めてうまく行っても、時給に直すと2,500円程度だろう。

 それでもこの不況下、アマゾンの宅配事業に参加する人は少なくないだろう。もしそうなら、ローコストの配送委託と宅配料金の見直しはアマゾンにとって小さくない。

(つづき)

【神戸 彲】

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(5)-(後)

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