【企業研究】旅行業界国内トップのJTB 復活か濁流に飲まれるかの岐路に立つ(前)
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JTBグループ
国内旅行取扱業者としてトップに君臨し続けるJTBグループ。売上規模は1兆円を超え、政府主導による観光立国とともに業績を拡大し続けてきたが、コロナ禍で一転、2021年3月期は過去最大の赤字を計上した。22年3月期で黒字回復を狙うが、コロナ禍以外の課題も浮き彫りとなっている。
厳しい観光事業 コロナ禍による深刻なダメージ
コロナ禍による人流抑制とこれにともなう不況は、各方面に甚大な影響をもたらした。とくに旅行業界が受けたダメージは極めて大きい。
感染拡大による緊急事態宣言は観光業を直撃。2020年4月7日に首都圏を中心に1回目が発令され、16日には対象地域を全国に拡大。21年1月7日、4月25日、7月12日(9月12日解除予定)と計4回発令されている。
その間、一時的なカンフル剤の役目をはたした「Go Toトラベル」による需要拡大があったものの、旅行業界では厳しい状況が続いた。また、収益の柱だったインバウンド事業は、特需が期待された東京オリンピックの延期と無観客開催、収まる兆しが見えないパンデミックによって壊滅的なダメージを受けている。
コロナ禍以前のインバウンドを中心とした観光事業は日本の基幹産業の1つであり、小泉純一郎首相(当時)が03年に掲げた「観光立国」にともない、市場を拡大させてきた。その後も円安やアベノミクス政策の下、訪日外国人旅行者は年々増加していく。さらに東京オリンピック開催が決まったことで訪日外国人旅行者数の増加の勢いは止まらず、15年には約1,974万人となり、同年の日本人の出国者数(約1,621万人)を大きく上回った。観光庁によれば、19年の訪日外国人旅行消費額は4兆8,135億円。インバウンドを中心に観光業が栄えるとともに、日本の旅行取扱業者の業績も大手を中心に急伸し、市場規模も拡大を続けた。
しかし、景気の波はコロナ禍によって急速に低迷することとなる。観光庁が5月21日に発表した「令和2年度主要旅行業者の旅行取扱状況年度総計」(20年4月〜21年3月分集計)によれば、海外旅行は前年度比97.7%減、前々年度比97.9%減と壊滅的な状態。外国人旅行はそれぞれ96.0%減、96.1%減、国内旅行も63.1%減、66.1%減に落ち込んだ。総取扱額は78.4%減、80.3%減と激減している。
コロナ禍以前の主要旅行業者の上位5社【表1】を見ると、トップのJTBグループの旅行取扱額(合計)は4,215億4,536万円で、前年度比・前々年度比はともに30%を下回っている。そのほかの企業も業績が大幅に低下し、同20%前後。とくにエイチ・アイ・エスグループは同10%以下となった。
過去最大の赤字大規模なリストラ
JTBの歴史は、1912年に創設されたジャパン・ツーリスト・ビューローから始まる。15年に外国人を対象に鉄道院委託乗車券の販売を開始、25年には邦人旅客への国内鉄道切符販売に乗り出した。その後、社団法人、財団法人へと姿を変え、63年に資本金8億円で(株)日本交通公社が誕生した。業績は好調に推移し、海外法人を含む子会社の設立とM&Aを繰り返し、グループ全体の売上は1兆円を超え、名実ともに国内トップの旅行業者となった。
コロナ禍以前の業績となる2020年3月期の連結売上高は1兆2,885億6,900万円、経常利益は25億4,800万円。16年3月期の経常利益223億5,300万円から減益が続いているが、グローバル化の進展にともなう市場拡大と東京オリンピックによる特需への期待もあり、同社の未来は明るいとみられていた。しかし、21年3月期の連結決算は、最終損益1,051億5,900万円の過去最大の赤字となった。
同社の業績悪化は、大規模なリストラとともに注目を集めた。21年3月期の販管費・一般管理費は2,056億7,300万円。全国各所の店舗閉鎖とリストラなどにより、前年から約700億円の減少に成功しているが、営業損失975億5,600万円と厳しい状況となっている。
貸借対照表を見ると、19年3月期から21年3月期にかけて流動資産や固定資産に大きな変化はないが、借入金を中心に負債額は膨れ上がっている。流動負債の短期借入金と1年内返済予定の長期借入金の合計は、19年3月期が178億6,400万円、20年3月期が177億1,200万円に対して、21年3月期は549億8,500万円と約3倍以上に増加。また、固定負債のうち長期借入金は19年3月期の4億7,900万円から20年3月期には700万円と改善していたが、21年3月期は526億5,300万円となった。21年3月期の借入金額は、短期・長期を合わせて約899億1,900万円増加した。借入先は三菱UFJ、みずほ、三井住友といったメガバンクが中心とみられる。
勘定科目を見ると、現預金は20年3月期の1,762億8,500万円から21年3月期には3,692億3,900万円、有価証券は321億6,600万円から11億7,500万円、短期貸付金は661億1,500万円から400万円となり、資産を現金化する動きがうかがえる。
同社は21年3月期決算で資本金を1億円まで減資し、税制上の中小企業として税負担の軽減を図っている。これに加えて21年5月、早期退職によるグループ全体で約700人の追加削減を発表した。20年11月にも大規模なリストラを行っており、今回の発表でコロナ禍を理由とした人員削減は全体の約25%にあたる7,200人規模となった。
(つづく)
【麓 由哉】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:山北 栄二郎
所在地:東京都品川区東品川2-3-11
設 立:1963年11月
資本金:1億円
売上高:(21/3連結)3,721億1,200万円法人名
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