【BIS論壇No.351】アフガニスタン問題について
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NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
今回は2021年9月3日の記事を紹介。(1)米軍アフガニスタン撤退における日本政府の対応
2001年以来、実に20年の最長期の戦争を継続してきた米軍、およびNATO軍が8月30日にアフガニスタンから撤退。米国にとっては史上最長の戦争に終止符が打たれた。しかし米国軍の退却に際し、その混乱は世界から非難されている。
とくに日本大使館の現地職員などの協力者約500人を放置したまま、大使館員が英国軍用機でドバイに逃げ出したことは世の批判を浴びている。米国、英国の大使は最後まで現地にとどまり、米国、英国人、現地協力者の脱出に尽力。最後に軍用機で脱出した。
これに引換え、日本大使館員は大使以下、現地に1人も残らず、現地協力者を置き去りにしたことは大いに批判されるべきだ。
一連の日本政府、外務省の対応を見ていると、危機管理がお粗末すぎることがわかる。鳴り物入りで米国NSA(国家安全保障局)を真似して創設された日本のNSAは外務省の元次官が局長であるが、今回のアフガニスタン危機に際し、一体いかなる役割をはたしたのか。
日本の自衛隊輸送機3機を現地に派遣したが、手遅れで、カブール空港での自爆テロのため、共同通信の日本人1人と米国に依頼された米国政府への協力者アフガニスタン人14人をパキスタンのイスラマバードに搬送しただけで引き揚げた。米国が関係者8万人弱、英国が1万5,000人、ドイツが約5万人、フランスが2,700人、韓国も現地人390人の脱出に成功しているのに、日本はわずかに15人では話にならない。今回の日本の現地関係者の救出失敗は日本の危機管理体制、情報の収集、分析、活用が誠にお粗末なことを具現している。
朝日新聞は「日本出遅れ、退避失敗」「現地スタッフら500人運べず」(9月1日)、日本経済新聞は9月3日の社説で「政府の迅速な意思決定や他国との連携が明暗を分けた」「瞬時の判断を支える情報収集と協力者を含めた退避の備えが十分だったかは検証の必要がある」「アフガン情勢では首相官邸を中心に政府全体でどこまで危機感を共有できていたかは疑問だ。新型コロナウイルスへの対応に追われていても、同時多発で起きる懸案に対処するのが我が国の危機管理である。政府は在外邦人らの保護の在り方を急いで点検すべきだ」と強調している。この機会に政府に我が国の情報収集、分析、活用について徹底した対応を官民で真剣に検討することを強く求めたい。
危機管理にあたっては最悪を想定し、情報を迅速に蒐集、分析し、対策を練ることが必須である。国内における暴風雨、洪水対策の出遅れはいうにおよばず、コロナ対策での世界的な出遅れなど日本の危機管理対策の貧困さは目を覆うばかりだ。
9月1日から菅政権の鳴り物入りで、デジタル庁が開設されたが、マイナカードの不徹底など日本のデジタル改革は世界でも大幅に出遅れている。デジタルトランスフォーメーション時代を迎え、官民協力して全力で巻き返すことが必要だ。
(2)米へのアフガニスタン戦争批判が相次ぐ
「水泡の20年」「米に無力感」「撤退前倒し大混乱」(朝日新聞9月1日)、「米市民残したまま批判集中」「米世論混乱した撤退は望まず」「軍事力背景にした民主化幻想」(同9月2日)と米国の20年のアフガニスタン戦争について批判が相次いでいる。
筆者はかつてニューデリー駐在中、アジア開銀の資金援助でアフガニスタン北部、中国に近いクンドゥズ州ガワルガン・チャルダラ地域の灌漑プロジェクトへの建設機械、ブルドーザー、トレンチ機械など国際入札で、初の日本製建機の落札に成功した。この商談で、アフガニスタンのカブールや灌漑地域の現地に十数回、出張した経験がある。
あるときは空港が雪に閉ざされ飛行機の発着が不可能で3日待ったが、見通しが立たなかったため、バスで千尋の谷を通る難所のカイバル峠越えを思い切って決行した。このカイバル峠はかってアレキサンダー軍も苦難した。後に英国軍もアフガニスタン攻略に苦労した峠として有名だ。1979~89年のソ連軍のアフガニスタン侵攻、また2001年以来の米国軍やNATO軍の戦争でも苦労した峠だ。
(3)難攻不落のアフガニスタン
アフガニスタンはこのように難攻不落に近い地勢を有しているが、米国やNATO軍が20年かかっても統治できなかったのは、モスリムを信じるアフガニスタン最大民族のパシュトゥーン人が人口の4割を占め、勇猛果敢なためであると考えられる。信心篤いモスリムの勇猛な山岳民族を、キリスト教徒の米国やNATO軍が十字軍のように攻撃屈服させるのは至難の業であることは、20年におよぶ戦争に敗退した米国をはじめ、NATO軍の今回の退却が証明している。20年もの間、異教徒の外国軍に占領されていたアフガニスタン人の辛苦は理解できる。
94年にオマル師とバラダル師はイスラム神学校をつくり、若者の育成に乗り出した。「タリバン」とは「学生たち」を意味するという。彼らがムジャヒディン(聖戦士)としてジハード(聖戦)を掲げて、異教徒占領軍に対して20年もの戦いを挑んできたのである。
筆者はかつてバグダッドに3年駐在した。豊富な石油埋蔵量を誇るイラクの石油は国際石油資本のセブン・シスターズに所有され、現地人は旧態依然たる貧しい生活を強いられている様をみて、西欧資本主義の搾取の実状に憤慨したことを思い出す。
アフガニスタンは中央アジア、ユーラシアの戦略的交差点にあり、今後、パキスタン、インド、中国、ロシアなどとの利害が動き出す。レアメタルなど鉱物資源も豊富にあり、有望だ。
米国は20年間のアフガニスタン占領に2兆ドル(約220兆円)以上を費やし、80万人もの米国軍がアフガニスタンに従軍。2万744人が傷つき、2,461人が命を失った。アフガニスタン難民は年末までに50万人に達すると国連は予測している。米国はアフガニスタンからイラクへも戦火を広げ、80万人の命を奪い、700兆円を費やした。米国はテロ容疑者をキューバのグァンタナモ基地に送り込み、拷問をしていたと人権問題になった。
20世紀型の武力での解決ではなく、交渉と話し合いで平和的な解決を模索することが必須である。聖徳太子は1400年も前に「和をもって尊しとなす」と喝破された。長年無私の精神でアフガニスタンの平和希求に命をかけて貢献された故中村哲医師の遺志を次ぎ、日本政府も米国に盲従するのでなく、アフガニスタンの平和構築に貢献すべく尽力願いたいものだ。
<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)関連キーワード
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