2024年12月22日( 日 )

【衆院選2021】2千回超の辻立ちで原点回帰、国政復帰めざす~福岡9区・緒方林太郎氏

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次期総選挙における福岡県内の選挙区で、与野党候補が競り合う“激戦”区は、2区、9区、10区の3選挙区とされる。そのなかで9区(※)は「鉄のまち」として基幹産業を数多く擁し、かつては現・北九州市長・北橋健治氏の地盤として知られていた。同区で現職の三原朝彦氏(74/自民)に挑むのは、前・衆院議員で民進党の県連代表も務めた緒方林太郎氏(48)。前回2017年選挙では「小池劇場」に翻弄されるかたちで希望の党から立候補するも、小池百合子氏の「排除」発言が大きく影響して落選。一時は政界引退説も流れたが緒方氏本人が直接「引退」という言葉そのものを口にしたことはないといい、活動再開後から始めた朝夕の辻立ちは2千回を優に超える。頭脳明晰さは誰もが認めるところ、豪放磊落な人柄に加え、官僚機構を知り尽くしたうえで数字の裏まで読んで質問できる“戦闘力”の高さに国政復帰を期待する声は多い。

※福岡9区(有権者数約38万3,700人/北九州市若松区、八幡東区、八幡西区、戸畑区)

■菅首相には労いの言葉も、国会を開かない「怠慢」は批判すべき

 ――9月3日、菅(義偉)首相が突然、自民党総裁選に出馬しないと表明。就任から約1年で突然の菅内閣終焉に、自民党では混乱が広がっています。

福岡9区で立候補予定の、前衆院議員・緒方林太郎氏。
連日の辻立ちで、真っ黒に日焼け

 緒方林太郎(以下、緒方) 菅さんについては、厳しい状況のなかで頑張られたことをまずは労(ねぎら)いたいと思います。ただ、それと菅さんが首相に足る器だったかどうかは別の問題です。私は菅さんが自民党総裁になった当初から、SNSでその言葉の貧弱さと抽象的思考の欠如を指摘していました。自民党関係者に「残念ながら、いずれあなたたちは『なぜこの人を選んだのだろう』と後悔する日が来ると思う」と伝えていました。1年前は派閥間の力関係のなかで一番収まりが良いということで菅さんが総理総裁に選ばれましたが、では選んだ人たちの責任はどこにいったのでしょう。自民党は岸田(文雄・前政調会長)さんや石破(茂・元幹事長)さんを押しのけて菅さんを圧勝させました。

 今回、突然の不出馬により、10月21日の衆議院任期満了を徒過して総選挙が行われます。与党総裁選という事情によりこのような事態になるのは、「憲政の恥」とでも呼ぶべきものです。これらはすべて菅総理の意思決定に起因しているものであり、その責任をどうとるのかということです。

 菅さんが辞意を表明したことでテレビや新聞が総裁選一色になり「メディアジャック」の状態になっているのは、ある意味、仕方のないことです。与党第一党のトップはほぼ確実に総理大臣になる人ですから、そのような注目を浴びるのは与党の特権ともいえます。ただし、この時期、コロナ禍対応で法改正を必要とする事があるにもかかわらず、国会を開いていないことについて“けしからん”と言うのは当然で、憲法53条に書いてあるのに何をやっているのだと批判すべきです。実際、総裁選候補者が掲げるコロナ対策のなかには法改正を要するものがかなりあります。「そこまでの思いがあるなら、なぜ、これまで党内で国会開会を主張しなかったのか」と思いますね。

 ――コロナ対策の不十分さが菅政権の命とりになった。

 緒方 誰がやっても難しいことなので、あまり批判的になり過ぎるのもどうかとは思います。新型コロナ対策について、ワクチン接種を増やそうとした菅さんの取り組みは正しかったと思います。コロナが感染拡大した当初から、ワクチン接種率が社会的にさまざまなことを再開させる基準や指標となるのはわかっていました。惜しむらくは、ワクチン接種への取り組みのスタートが遅かったのだと思います。また、コロナ病床確保について、国内の医療リソースをフル活用してコロナに立ち向かうという取り組みはいまだ不十分だと思います。

 そして、一番問題だと思っているのは、科学的知見が不足しているケースが多々散見されたことです。昨春、習近平・中国国家主席の国賓訪日と中国からの入国規制を天秤に掛けるやり方には唖然としました。

■無所属で挑む5回目の選挙

 ――福岡9区では緒方さんが無所属で立つほか、自民党の三原朝彦さん(74)、日本共産党の真島省三さん(58)などが立つ予定です。現時点での手ごたえは。

 緒方 私の立ち位置は現時点で「無所属」です。経緯としては、前回は希望の党に移らされて、その後に希望の党がなくなって、その瞬間に無所属になりました。政党所属ということだけでいうと、私はその後特段のアクションを起こすことなく現在に至っています。

 選挙情勢でいえば、相手の背中を必死に追いかけているというのが実感・現状認識です。今回はどこの政党の推薦もいただいていませんので、現在、お支えいただいている皆様ととにかくこれから約2カ月間を戦い抜きたいです。今回落選したらもう後はないわけで、自分が最初に政治を志したときの志を思い返しながら、清々しい気持ちでやっています。今回はコロナの影響もあってたくさん集会を開くような選挙戦にはならないと思いますし、ブレずに、着実に、前を向いて歩いていくという選挙になります。

2017年選挙での落選以来、朝と夕方に欠かさず続けてきた「辻立ち」

■河野太郎は自民党内の「危機感バロメーター」

 ――自民党は新総裁で選挙に臨みますが、以前ほど盤石ということはない。不安定な政権になる可能性があり、野党側はチャンスともいえる。

 緒方 財政は悪くなり、人口が減り続けている中で強いイニシアチブを打ち出すことは容易ではありません。ただし、自民党に対抗するためには1つの世界観を打ち出さなければならない。我々はこういうことがしたいのだ、という強いメッセージや世界観が見えないと政権奪取には至らないと思います。

 野党的質問をするのって実は楽なんです。なぜならシングルイシューで粗(あら)を突けばいいから。でも与党になって政権についた途端に、自分がまったく知らない、全然関心がないこともすべてやらないといけなくなります。たとえば、菅さんは総理になるまでほぼ外交に携わったことがなかったのに、総理になったらいきなり「G20」や「G7」で各国首脳のど真ん中に放り出されたわけです。「コーンウォール(G7サミット)でボリス・ジョンソン英首相が待っています」と言われて、「え? おれがやるの?」と面食らってしまったわけです。コーンウォールでの菅総理の顔からは怯(おび)えと戸惑いが見て取れました。

 じゃあ、今の野党が政権を取ったときに、誰が習近平との会談に臨むのか。プーチンと北方領土問題について話せるのか。外交は政府の専権事項であるのは仕方ありませんが、野党時代から外交に対するたしなみを身に付けていない人が政権につくのは恐ろしいことだと思います。

 ――自民党には次の総理総裁をじっくりと育てるシステムがあったが、最近は機能していないようにもみえる。

 緒方 今回の総裁選に出るメンバーでいうと、河野太郎さん(58)は国家公安委員長と外務大臣をやった後、防衛大臣もやっている。党内で嫌われているので党の要職には縁がありませんが、閣僚経験は十分です。高市早苗さん(60)は、内閣府特命担当大臣と総務大臣を経験しています。なお、高市さんの思想は保守系と言われますが、古き良き保守政治家と比べると「重心が高い」と思います。深い歴史観をあまり感じさせません。あと、岸田さんは政調会長、外相などを歴任して、経験値としては十分でしょう。廃(すた)れたとはいえ総理育成システムは残っているし、「その程度の役職が務まらないで総理になれるわけがない」という真っ当な相場観は残っていると思いますね。

 ――本命は岸田さんか。

 緒方 総裁選の行方は見通せませんが、注目しているのは河野太郎さんの「位置付け」です。河野さんの自民党内におけるポジションは、自民党内の「危機感バロメーター」だと思えばわかりやすいのです。河野さんについて「彼だけはダメだ」という声が政界、経済界のなかにあります。そうした批判にもかかわらず彼が総裁になるということは、こと「うちの党はこのままだとヤバイぞ」という危機感の現れと見るべきものです。ただし、今、そこまでの危機感が自民党で共有されているかというと、野党が弱いので、「そこ(河野総裁)までしなくても政権を失うことはない」という結果になるのでは。

 ――石破氏は河野氏支持を打ち出しました。

 緒方 自民党は「一度でもケツを割った(逃げた)奴を許さない」というところがあるように見えます。私はそういう文化は好きです。たとえば自民党内で隠然たる力を持つ森喜朗さんからすれば、自分が幹事長のときに石破茂さんから離党届を受け取っているわけで、恐らくいまだに「石破は絶対に許さない」と思っているはずです。そこを忘れるってことはありえない。

 個人的に石破さんのことは政策やキャラを含めて嫌いではありませんが、自民党内の「組織の掟」というか、本流意識という筋の通し方からすれば、石破さんが自民党内で浮き上がるのは難しいのかもしれません。ただし、それを言い出したら二階さん(俊博・幹事長)だって出戻り組なんですけどね(笑)。

■自民党に対抗する世界観を打ち出す

 ――野党にとっても正念場の選挙になる。

 緒方 野党はもっとソリッド(堅固)な組織になるべきです。合従連衡といえば聞こえはいいですが、「自民党が嫌いだ」ということを唯一の結節点にすることには限界があります。1回目の政権交代のときは「not自民党」で成功しました。しかし「not」をベースとしても脆弱なことは歴史が証明しました。つまり次は「~ではない(not)」だけでなく「~である」ということ、つまりは“世界観”を打ち出すことが大事になると思います。

 安倍晋三さんはアベノミクスという名のもとに、バブルを起こそうとする政策を打ったんですね。その政策は持続可能性がないのですが、短期的には良くなったように見える。それで何が起きたかというと、政治全体が「バナナの叩き売り」のような状態になってしまったんです。つまり、安倍さんが「ほら良くなったぞ」と自慢すれば、野党側もそのテーブルに乗って「いや、こちらはもっと良いぞ」とやる。結局「こっちの水は甘いぞ」という政策ばかりで、持続可能性を持った将来のことなんて知らないよとなっている。

 その究極が、高市早苗さんが主張している「インフレ率が2%になるまでバラ撒き続ける」という政策です。あんなことが政治の中心でまかり通ることは、日本の政治劣化と表裏一体です。かつて赤字国債を発行するとき、当時の大蔵大臣だった大平正芳さん(68、69代首相/1910~1980)は「万死に値する」と言ったわけです。岸田さんなどは自民党の古き良き部分、保守本流である宏池会で受け継いできた良識を心の中に持っているのでしょうが、それを出すと選挙で負けてしまうので言えない。そういう良識がだんだん通用しなくなっているところに、政治の劣化があるのかなという気がします。

 ――自民党に対抗しうる世界観とは。今回の選挙で訴えることなど。

 緒方 キャッチフレーズ的にまとめることはできませんが、菅さんはワクチンにかけたエネルギーの一部でも、少子化対策に投じてほしかったですね。ワクチン供給について、菅さんはじつは役所のセオリーを無視してかなり強引なことをやっています。少子化対策だってそれくらいの必死さで取り組まないと、このままでは取り返しのつかないことになります。

 今、1億2,500万人の国民がいて、これが将来的に8,000万人まで減るとすら言われています。将来のどこかで8,000万人台で落ち着いてしまえば楽なんです。問題は下り坂の部分で、ここが地獄のように苦しい状態になる。日本はこれまで人口が増え続けてきて、日本人のほとんどが気づいていませんが「人口増ボーナス」を享受してきました。だから下がるときは逆にマイナスのボーナスが出続ける(払い続ける)ことになります。

 少子化対策、人口減対策に加え、増え続ける国の借金をどう解決するのか。耳あたりの良い政策ばかりでなく現実に向き合う道を示すことが、たとえ遠回りに見えても自民党に対抗しうる世界観になると信じています。

 日本社会は、これまでと同じやり方を続けていくことが難しい時代に入っています。だからこそ大胆な再生にひるまない、揺るぎない思いで挑戦したいと思います。そのなかでも大きな課題が少子化対策であり、地球温暖化対策、さらに自分の専門分野である外交です。外交は政権の専権事項的な所がありますが、当選したら自分が持っている独自のルートと知見をいかして外交分野でも貢献したいと思います。

【まとめ:データ・マックス編集部】

〈プロフィール〉
1973年、北九州市八幡西区鉄王生まれ。市立萩原小学校、穴生中学校を経て県立東筑高校卒業。現役で東京大学文科1類に進学し、法学部3年時に当時最年少で外交官試験に合格、1994年に東京大学を中退して外務省入省。在セネガル日本大使館勤務や条約課課長補佐などを歴任した後の2005年に退官。09年の総選挙で初当選(民主党)、12年には落選するも14年には比例九州で復活当選。16年に民進党に参加し、17年の総選挙では希望の党から立って三原朝彦氏に約1万2,500票およばず落選した。父親は経済的理由で大学進学を断念し、新日鉄八幡製鐵所に勤めていた。13歳から始めた柔道は3段の腕前。外務省で同僚だった妻と娘の3人家族。

おがた林太郎公式サイト (rinta.jp)

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