2024年11月24日( 日 )

壱岐、そして日本の未来のために 事業多角化を推進(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
(株)なかはら

 建設業を手がける(株)なかはらは、壱岐島内でトップクラスの企業。なかはらグループとして、生コン製造販売、風力発電、太陽光発電、養殖など多岐にわたる事業を手がけている。

雇用・移住。観光を促進し壱岐の活性化を

 17年4月1日、「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法(有人国境離島法)」が施行された。同法の下で、民間事業者の創業や事業拡大に必要となる資金を援助する雇用拡充支援制度が設けられているほか、離島住民向けの航路・航空路運賃の値下げ、物資の輸送コストの低減、滞在型観光の促進などが行われている。

 雇用拡充支援制度では、創業または事業拡大を行う場合の設備投資資金、人件費、広告費などの運転資金の支援を最長で5年間受けられる(創業支援は事業費600万円まで、事業拡大支援は最大1,600万円まで)。また、島内の事業者がUターン、Iターンする人などを新たに雇用する場合、雇い入れを支援し、定住・定着を促進している。
 中原会長によると、一度島外に出た若い人が壱岐に戻り、同制度を利用して事業を興すという動きが少しずつ増えていて、実際に「ウニの養殖をしたらどうか」といったアドバイスも行っているという。

 壱岐の魅力をアピールしてUターン、Iターンする人を増やすことで、高齢化や人口減少の食い止めを図る考えだ。さらに、有人国境離島法の滞在型観光促進策を利用して観光客を増やす。なかはらグループの1つ「壱岐マリーナホテル」は、そうした観光振興の一翼を担うことができる。

成長率170% トラフグの養殖を手がける

なかはら鎌崎陸上養殖場
なかはら鎌崎陸上養殖場

 同社は郷ノ浦町の「なかはら鎌崎陸上養殖場」でトラフグとヒラメの養殖を行っている。この養殖場の最大の特徴は、生態環境水(低塩分)を使用している点だ。地下70mから地下水(低塩分に精水)から採水して海水と淡水をブレンドし、塩分濃度1.5%程度の生態環境水をつくる。同社は「海水・淡水両方を地下水で利用する陸上養殖施設はおそらく世界初」としている。

水槽の清掃
水槽の清掃

 同社課長で水産工学技士の村川浩一郎氏によると、「生態環境水は生理食塩水に近く、一般的な生物の体液と同等の塩分濃度になっている」という。海水魚は通常、体液の浸透圧を調節するためにエラを用いて塩分濃度3.5%の海水を調整している。生態環境水を使用することで体液の浸透圧を調節する必要がなくなり、魚の成長エネルギーへと転換される。地下水を利用することで年間を通して20度前後の魚類の成長に適した水温を保つことができ、その結果、魚の成長率は170%になると説明している。

 さらに、地下水の利用により雑菌が通常の海水に比べて極端に少なく、病気などに罹りにくいため、薬品を使わなくてもよいという利点もあると村川氏。水槽からの排水は、微生物濾過槽を通して酸素発生機によって酸素を加えることで約80%が再利用できるため、環境への配慮も怠っていない。

 生態環境水で育ったトラフグと通常の養殖トラフグの試食会を行ったところ、9割の人が「見た目・食感ともに生態環境水で育ったトラフグのほうが上」と答えたそうだ。

 長崎県総合水産試験場はオスのトラフグのみを生産することに成功。これにより、市場価値の高い白子の量産が可能となる。「なかはら鎌崎陸上養殖場」で養殖されているトラフグもすべてオス。トラフグは白子をもつオスが人気で、メスに比べて高い価格で取引されているといい、養殖により今以上にオスのトラフグが市場に流通するようになれば、低価格化につながる可能性もある。同社ではトラフグの通販も準備中で、「お歳暮シーズンには間に合う」(中原会長)見込みという。

食料自給率の向上を

中原 達夫 氏
中原 達夫 氏

 中原会長が養殖などに力を入れているのは、「日本の食料自給率を上げなければ、近い将来、深刻な危機が訪れる」という危惧を抱いているからだ。中原会長の幼少期は食料不足で、朝食はメザシとイモだった。当時は魚と農作物との物々交換が日常的に行われていたというが、中原会長の家は戦後引き揚げてきたためそうしたことも難しく、食料の確保には苦労したという。そうした経験から同社の食品事業部では田畑を所有し、米の栽培や牛の飼育なども行っている。ちなみに、「松坂牛」「神戸牛」といった高級ブランド牛のなかには壱岐生まれの牛が多数存在すると言われていることからも、壱岐の牛の品質がいかに高いかがわかる。

 同社はこれまでさまざまな事業を通じて壱岐の産業を活性化させ、雇用を創出してきた。さらに次の世代のために「壱岐をCO2排出ゼロの島に」を目指して太陽光、風力発電を建設するなど、同社が壱岐で担っている役割は大きいといえる。

(了)

【新貝 竜也】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:中原 達夫 ほか2名
所在地:長崎県壱岐市芦辺町箱崎中山触828-1
設 立:1971年9月
資本金:5,000万円
売上高:(20/5)28億8,097万円

(前)

関連キーワード

関連記事