政治屋が目をそらす日本の「不都合な真実」に対する処方箋(後)
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前衆議院議員 緒方 林太郎 氏
現在、日本が抱える危機といえば「COVID-19(コロナウィルス)」ですが、それ以前から確実に進行して日本を蝕んでいるのが「少子化・人口減少」と「財政危機」です。この2つは密接に絡み合っています。そして、あまりに病理が深く進行し過ぎて、その解消のため今からどの程度のことができるのかについてすら不安になる所があります。政治は今、この2つの課題から目を逸らすことなく解決策を提示する義務があります。
胡散臭い理屈~現代貨幣理論
また、現代貨幣理論(MMT)を持ち出して、物価上昇が達成されるまでは現在の債務と日銀引き受けが正当化されるとする議論があります。まず、それらの方に言いたいのは「MMTの本を読んだことがありますか?」ということです。
私は原書で読んでみましたが、とてもまともな議論に堪えられる内容ではありませんでした。簡単にいうと「通常の経済理論によると現状は危機的だと言われているけど、危機的に見えないように見方をずらしてみよう」という言い訳だけがひたすら書いてあります。つまり、MMTとは何か革新的な出来事を起こす理論ではなく、「現状を危機的に見えないようにするための言い訳講座」でしかありません。理論的に見ると、とくに「金利上昇のリスクと公的債務危機」といったことについては極めていい加減です。現状正当化のために「MMT」を持ち出す論者については、すべて眉に唾を付けて聞くべきです。
今後については、改革をしたからノーマルな状態に戻れるかどうかについて、私は100%の確信はありません。しかし、手をこまねいて、ただ事態が悪化するのを放置することはできません。最大の課題は社会保障制度改革です。これについて論じ始めると切りがありません。よく「世界に冠たる国民皆保険制度」と口にする方がいます。私も日本の皆保険制度は貴重な財産だと思っていますが、現在のように、公的債務に依拠しながら継続している制度は持続可能性がないというのが諸外国の見方です。日本の国民皆保険制度や年金がうまく行っていたのは、人口増加と経済成長が揃う局面においてのみであり、極めて特殊事情によるものです。人口ボーナスを享受できた時代はとっくに終わり、現在は人口オーナス(負担)の時代です。その点を踏まえた改革が必要となってきます。
危機管理の在り方~悲観的に予測、楽観的に行動
私は経済における危機管理が日本ではいい加減にされていると思います。危機管理の要諦とは「悲観的に予測し、楽観的に行動する」です。最もダメなのが「楽観的に予測し、悲観的に行動する」事です。見通しは厳しく見ることが重要です。楽観的に見通しを立てたことによる失敗の例としては、2011年以前、原子力発電所において「全電源喪失」の可能性を排除していたことがあります。
また、安全保障法制の検討に際しては「想定外を想定する(Think the unthinkable)」という前提の下で、極めて例外的な事態でしか起こらない集団的自衛権についてまで盛り込みました。主として前者では左派のほうが、後者では右派のほうが危機管理の重要性を訴えていました。
日本の不幸の本質は、「真の意味で危機管理を考えている人が少ない」ということです。自分の信条と親和性の高いテーマについては「想定外は許されない」と言い、そうでないテーマでは「そんなことは起こらない」と言って可能性を視野から外すというのは、真の意味での危機管理ではありません。そもそも「起こらない」というのは単なる希望であり、客観的な分析に堪え得ません。
本稿との関係では、経済において「長期金利が上昇して、公的債務危機が起きたらどうするか」という可能性を厳し目に見積もって、その危機管理をどうするかが大事です。しかし、今、この可能性から目を背け、「起こらない」という情緒的な立場に立つ方が有識者の間に増えています。
日本人の知恵、能力の可能性を信じて
私の言っていることはすべて人気のない話です。ただ、その話から目を背けてきたからこそ課題の先送りと現状の苦境があります。現在の政治は、ともすれば「こっちの水は甘いぞ」のセールス合戦になっています。誰も真実を語らず、誰も責任ある姿勢を取らず、ただただ「今だけ、自分だけ」の政治屋に堕しています。
しかし、先人が築き上げてきた日本経済の基盤はすばらしいものがあります。日本人が持つ知恵、能力の可能性を私は信じています。私は1990年代の後半、ずっと海外生活をしていました。「私は日本から来ました」と自己紹介するとき、誇らしい気持ちになったものです。その感性を次の世代にも引き継ぎたいです。だからこそ、これまでにない政治の姿が問われています。私自身、その先頭に立たなくてはならないと改めて決意しているところです。
(了)
<プロフィール>
緒方 林太郎(おがた・りんたろう)
1973年北九州市八幡西区生まれ。福岡県立東筑高校を経て東京大学入学。94年に東京大学法学部を中途退学、外務省入省。2005年外務省退職。09年衆議院議員初当選。14年衆議院議員2期目当選。17年落選。関連記事
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