2024年12月26日( 木 )

自民党総裁選、新総理の内政・外交にどのような変化が想定されるか?(後)

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国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸

 日本を取り巻く内外情勢が厳しさを増すなか、9月17日告示、29日投開票の自民党総裁選挙は実質3人の候補者で争われることになった。自民党が衆議院の過半数を押さえていることから、自民党総裁が自動的に次期総理に就く。第100代目となる新総理の座を射止めるのは誰だろうか。また、新たな体制の下で、日本はコロナ禍を乗り越え、経済発展を取り戻すことができるだろうか。

自民党若手議員が立ち上がる

自民党 イメージ 要は、自民党内の4大派閥(96人を擁する安倍晋三元総理の細田派、53人の麻生太郎副総理の麻生派、47人の二階俊博幹事長の二階派、46人の岸田文雄前政調会長の宏池会)をまとめるような力量や構想、資金力を持つ候補者は不在ということだ。3人のうちの誰が総裁に選出され、総理の座に就いたとしても、毎年のように短期政権がコロコロ入れ替わるという、かつてよく見た状況に逆戻りする可能性が高くなるに違いない。

 こうした自民党内の「コップのなかの嵐」によって総裁選が落ち着いたならば、一般有権者の政治不信は一層加速されるに違いない。総裁選後に実施される衆議院議員選挙において、はたして新たな総裁の下で自民党がどこまで議席を維持できるのか。

 万が一、自民党関係者が危惧するように単独過半数を割り込むような大幅な議席減となれば、公明党との連立で辛くも政権維持が可能となるわけであり、今以上に不安定な政権運営も想定される。そうなれば、誰が総理になっても、公明党との政策のすり合わせが不可欠となり、3人が総裁選で主張したようなタカ派的な政策は軌道修正を余儀なくされることになる。

 そんななか、危機感を強める自民党の1~3回生議員が「党風一新の会」を発足させた。彼らは「派閥一任」の従来型の意思決定プロセスに異を唱えている。

 代表世話人を務めるのが福田達夫衆議院議員である。祖父は福田赳夫元総理、父親は福田康夫元総理という政治エリートにほかならない。現在は細田派に属している。彼らの呼びかけで90人が入会。派閥横断的なグループが誕生したわけだ。何しろ、自民党所属の衆議院議員のうち、3回生以下は126人であるため、90人をまとめたことは7割超の勢力を意味している。

 こうした若手議員は安倍政権下で当選してきたわけで、いわゆる「安倍チルドレン」と呼ばれてきた。しかし、安倍元総理の隠然たる影響力の楔(くさび)を断ち切らねば、国民の信頼を得られないとの危機感に突き動かされたのであろう。9月10日に開かれたオンライン設立総会では、総裁選候補者と若手の意見交換の場を設定するといった提言を採択した。

 いわゆる「派閥一任」による従来型の選挙から脱却しようとする動きであり、注目に値する。とはいえ、代表世話人の福田氏は同じ3代目政治家の河野太郎候補と近いことで知られており、安倍元総理とすれば、自分の推薦する高市早苗候補が不利になるのではと懸念しているようで、若手の動きを切り崩そうと水面下で圧力をかけている模様だ。しかし、自民党を覆ってきた「安倍一強」体制が徐々に崩壊し始めていることは確実である。

中国をめぐる課題とどう向き合うか?

日中関係 イメージ 菅義偉総理(72歳)はバイデン大統領からの要請で、今月末にワシントンで対面開催されるQuad(クアッド)の首脳会合に出席する予定だ。すでに退任が決まっているにもかかわらず、菅総理を招くバイデン大統領の意図はどこにあるのだろうか。おそらく「次の総理に対するメッセージ」を託すのが狙いであろう。その主眼は対中政策におけるすり合わせである。なぜなら、Quadそのものが、アメリカ・インド・オーストラリア・日本の4カ国による「増大する中国の脅威」をどう封じ込めるかを議論、調整する組織であるからだ。

 現在、立候補中の3人はいずれもアメリカの政策に同調する意向を示している。岸田候補は従来の親中路線から、急遽「台湾重視」路線に乗り換えた。「台湾有事は日本有事」というわけだ。高市候補は以前から反中路線を堅持しているが、最近はとくにアメリカ政権の対中政策の流れを受け、「中国脅威論」を振りかざしている。

 そして、河野候補であるが、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)のオンライン会議に参加し、「中国は日本にとって安全保障上の脅威である」と明言。バイデン政権にとって「3人の候補はいずれも与(くみ)しやすし」と受け止めているようだが、なかでも河野候補は長年アメリカで過ごした経歴の持ち主でもあり、アメリカ流の価値観を体現し、コロナ感染予防のマスクにもアメリカ国旗をデザインしたものを愛用するなど、親米ぶりを発揮している。

 防衛大臣を務めていた当時には、「省内の公用語は英語にしてはどうか」とまでアメリカ寄りの姿勢を見せていた。また、外務大臣になると「外務大臣専用機をアメリカから買ったらどうか」と要求し、周囲を唖然とさせた。

 トランプ前大統領の時代にも、対北朝鮮政策で日本人拉致被害者に言及したトランプ氏を持ち上げるなど、親米姿勢が鮮明であった。しかし、ご自慢のアメリカ国旗をデザインしたマスクも、総裁選出馬宣言を機にごくありきたりの白いマスクに変えてしまった。「機を見るに敏(さと)い」というべきか、「変わり身が早い」だけなのか。

 その意味では、バイデン政権も河野候補が最も扱いやすい相手と受け止めているふしがある。今月末のワシントンでのバイデン・菅会談でも、「タローへのメッセージ」が託される可能性が高い。菅総理が親中派の重鎮である二階幹事長に引導を渡したのも、アメリカから対中強硬路線を強要されてのことと推察される。

 いずれにせよ、総裁候補3人による政策論争においては、コロナ対策や景気回復策とともに、対中政策の絡みで「台湾問題」も外交テーマとして俎上に上るだろう。折からの米中対立という国際環境の下、アフガニスタンからの撤退を実行したバイデン政権は「アフガンの重しから解放されたので、今後はより深刻な脅威である中国と向き合う」との姿勢を打ち出している。バイデン政権が日本に対して、これまで以上に中国封じ込め政策に協力するように求めてくることは必至であろう。

 はたして、アメリカの要求に唯々諾々と応じることが日本の国益にかない、またアジアやインド太平洋地域の平和と繁栄に結びつくものなのか。歴史的観点も踏まえ、日本は独自の外交、経済安全保障政策の推進に心を砕くべきである。たしかに、アメリカと日本は同盟関係にあるが、アメリカの対外政策や軍事的な世界戦略は必ずしも日本の国益と合致せず、世界を対立に追い込み、不安定化させている面も否定できない。

 他方、中国とは摩擦や意見の違いはあるものの、アメリカとは比較できないほど歴史的な政治・経済・文化のつながりをもつのが日本である。中国をめぐる課題に対して、アメリカ式の対決手法一辺倒ではなく、「Win-Win」の相互依存関係を育むような仕掛けを構築するのも日本的アプローチとして重要と思われる。その意味でも、日本の新総理には内政、外交ともに創造的なアプローチを期待したい。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

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