2024年11月23日( 土 )

日本もカモにされた米軍によるアフガニスタン統治の失敗(後)

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国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸

アメリカ軍 イメージ それとの対比で考えれば、米軍はアフガニスタンを20年に渡り占領し、日本円で250兆円近くの復興資金を投じながら、アフガン社会の治安回復や経済の安定にはまったく貢献できないまま、タリバンに追い出されるという不名誉な終わり方をしてしまった。この違いは何だったのだろうか?

 アフガン人と日本人の国民性の違いも大きく影響しているだろうが、最大の違いはマッカーサー元帥のような使命感と指導力をもった統治責任者が不在だったことに尽きるだろう。その点、アメリカ政府がまとめた124ページにおよぶ最新の「アフガン復興計画評価書」を読むと愕然とせざるを得ない。

 なぜなら、そこには先に述べたように、アメリカ政府の資金の半分近くが、アフガニスタンではなく、ワシントンのロビー団体や軍需産業に流れていることが明示されているからである。そうしたアフガンの実態は現地のアメリカ軍や復興支援組織の内部告発を通じて問題視されてきていたのだが、誰も本気で向き合おうとしなかったわけである。

 こうした状況が20年の間に当たり前になっていた。たとえば、ロッキードマーティン社の株価は2001年では1万ドルであったが、今では13万3000ドルにまで高騰している。正に「戦争ほど儲かるビジネスはない」ということに他ならない。歴代の大統領も国防長官も見て見ぬふりをしてきたのだろうか。

 残念なことに、そんなアメリカ政府の要請を受け、繰り返すが、日本もこれまで2兆5,000億円を超える復興資金を提供してきたのである。「アメリカや世界をテロから守るための戦争」といった、都合の良いワシントン発のウソに、これ以上騙されることがないようにしたいものだ。

 今後のアフガニスタンにおける復興や治安回復には国際社会の関与が欠かせない。しかし、タリバンによる新政府を承認するかどうかで世界は二分されている。中国やロシア、トルコなどは融和策を模索するが、アメリカやヨーロッパ諸国は厳しい姿勢を崩していない。

 とくに、20年にもおよぶ最長の戦争に敗退したアメリカはタリバンへの不信や怒りを露わにし、アフガン中央銀行がアメリカに保管している94億ドルの外貨を凍結してしまった。また、バイデン政権からの圧力を受け、国際通貨基金(IMF)もアフガン向けの経済復興とコロナ対策資金4億5,000万ドルの提供を中止した。

 アメリカ主導の下、ヨーロッパ各国はアフガンへの人道支援も停止することになった。これでは、疲弊の極みに陥っているアフガニスタン経済の再生は至難の業と言わざるを得ない。結果的に、タリバン新政権はさらなるテロ活動や麻薬ビジネスによる資金確保に走ることになるだろう。

 そうした先行き不透明感が漂う中、中国は独自のタリバン懐柔作戦を展開している。王毅外相は素早くタリバン幹部を中国の天津に招き、アメリカ軍の撤退後の国家再建に協力する姿勢を明確に打ち出した。実は、カブールには有名な「チャイナタウン」があり、多くの中国人が商売に熱心に取り組んできており、アフガン政府ともタリバンとも人脈をつくり上げてきていたのである。

 カブール陥落後も中国大使館は閉鎖されず、中国人ビジネスマンも「今こそチャンス」とばかり、アフガニスタンの資源開発や復興ビジネスに邁進する意欲を見せている。タリバン側もチャイナタウンに集う中国人に対し「困ったことがあれば、いつでも連絡してほしい」と優遇措置を明らかにしており、中国政府の進める「一帯一路」計画にパキスタンと同じようにアフガニスタンを位置付けるように協議を進めている模様である。アメリカやヨーロッパが撤退した後、中国とロシアによるアフガンの資源争奪戦が始まるに違いない。

 日本企業が描いた320兆円のアフガンの地下資源開発計画は中国に“おいしいとこ獲り”されそうである。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」。日本人をたった1人しか救出できないまま、自衛隊機をカブールから撤退させる日本政府ではアフガンに眠る宝の山を手に入れることは無理筋の話であろう。

(了)


浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

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