2024年12月26日( 木 )

小売こぼれ話(11)ニッチという生き方(後)

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ワークマン

 大手ホームセンターのカインズが新たな試みの1つとして始めたのが、フランチャイズチェーン・ワークマンだ。サラリーマン店長と違って稼ぎはコンビニのように結果で決まるから、販売姿勢が違う。商品と立地と経営を限定するのも草創期のコンビと同じだ。

 商品内容は作業着の範疇にとどまらず、幅広い。その中身はユニクロよりもおもしろく、しまむらよりも楽しいという評価がある。

 当初、ユニセックス型でスタートしたユニクロはその後、レディースや子ども服、雑貨、肌着を加えている。レディースの市場はメンズの4~5倍もあるからだ。さらに、より多くのお客を取り込むために、女性客の支持は不可欠だ。そうすることで夫婦やカップルの客を集めることに成功した。

 開業当初の1万円出せば上下2枚ずつ買ってもおつりがくる価格設定は、現在いささか高めになってはいるが、基本は大きく変わっていない。商品価格のハンディを選択肢の拡大でカバーしたユニクロは、ある意味、創業者が標榜する「国民服」という着地点に近づいているのかもしれない。

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 ワークマンはその名前に「プラス」や「女子」といった文字を加えた新たな試みも始めている。キャンプ用品から機能性を備えたカジュアルウエアというかたちを加えれば、作業着ショップだから女性が入りにくいといったイメージが消える。しかも、それまでほとんどの女性が経験したことのないテイストの商品があるから、彼女たちにとって斬新な売り場だ。そんな見方をすれば、巨大化していささかマンネリ感も漂うユニクロやしまむらにとっては今後、容易ならぬ相手になるのかもしれない。

ハローデイ

スーパーマーケット イメージ アメリカに「スチューレオナルド」というスーパーマーケットがある。食の遊園地ともいわれるこの大型スーパーは、その独特な経営形態で知られる。店内のいろいろな仕掛けで子どもにも人気があるが、独特なのは従業員が自分の子どもを入社させたくなる経営だ。だから、親子2代で就労している従業員が少なくない。

 もう1つは、ニューヨークと隣接するニュージャージー州に展開する大型の高質店「ウェグマンズ」だ。生鮮の売り場はすばらしい。さらに、消費者からの人気と同業者の評価が極めて高いデリカ売り場をもつ。

 そんな店を志したのがハローデイ。ハローデイは高質スーパーだ。高質というのは高級とは違う。店内でつくる商品にコストはかけるが、売値が高いということではない。しかし、質を上げればコストはかかる。自然と売値は高めになる。

 しかし、食というコモディティー商品は高いと売れない。だから、店内加工の生鮮4品が高めの価格になるのを勘案して、仕入れ商品は安く売る。ナショナルブランドは価格比較が容易だから、それを安く売れば、安いというイメージが生まれる。「高級で安い」とお客は感じる。だが、消費者が支出する食費は無限ではない。メイン顧客の主婦は日々の支出をこまめにチェックし、調整する。家族1人あたりの年間の食費はあくまで30万円前後。だから、ナショナルチェーンと比べて買えない客層が生まれる。

 それをカバーするのが商圏の拡大だ。我が国の消費者は生鮮にこだわる。そのなかには、価格よりもその価値を重視する客層がいる。普通、自宅から近い店を通り越して遠い店に行くお客は極めて少ない。しかし、何らかの目的があると近い店を通り越して遠い店に行く。高質店はそんなお客でもっている。その割合はナショナルチェーンよりも20~30%高い。買い上げる単価も同じだ。

 このため、店舗売上がナショナルチェーン店の1.5~2倍になる。その代わり経費効率は悪く、足元商圏が薄いと物理的に成立しない。ここが高質店の泣き所だ。そのハンディをクリアできないと、ホールフーズの轍を踏みかねない。

ヤオコー

 埼玉を中心に北関東を地盤にするヤオコーはクオリティー経営で有名だが、潤沢な商圏を念頭に置いた戦略が際立っている。その経営手法は、加工センターを利用した高質標準化と売り場の感動型陳列だ。

 商品はあらゆる視点からより良いものをつくろうという姿勢が顕著で、ナショナルチェーンにありがちな単なるプライベートブランド(PB)商品とは一線を画す。店内でも主婦のパートタイマーのアイデアによるユニークな商品づくりとマネキン販売など、他店とはまったく違う手段で顧客志向を図る。その結果、大型ショッピングセンター(SC)のメインテナントとして招聘されるだけでなく、自らもSCを主催する。

 ヤオコーの凄さは異業態に挑戦する勇気だ。2017年、自社とはまったく業態が違うディスカウントスーパーマーケット「エイブイ」を傘下に収めた。エイブイは店内BGMもコストとして省くリアルローコスト志向だ。ヤオコーとは対極にある。

 ヤオコーの社員はエイブイへ研修で派遣される。しかし、エイブイの社員には逆のケースがない。エイブイのシビアな販売管理は、ヤオコーの社員にとって目からウロコだ。だが、エイブイにはヤオコーの高コスト経営は何の参考にもならない。それを切り分けているのがヤオコーの凄いところだ。通常のM&Aは吸収した側の価値観を押し付ける。しかし、ヤオコーは冷静だ。

 冷静な経営は自分の力に酔わない。だから、難しい局面に遭遇しても経営判断の誤りが少ない。

 合わせて、商社系の大手スーパーと提携する。その奥深い戦略はなかなかのものだ。クオリティー型で生き残るには、そんなしたたかな戦略が必要となる。その意味でヤオコーの強さは特筆すべきである。

 立地的には、潤沢な消費地を抱える北関東と東京、神奈川を中心に順調に店数を伸ばしている。しかし、高質店の成立立地の問題はヤオコーにしても例外でなく、売上が現在の1.5倍程度にまでくると顕在化してくるはずだ。

(了)

【神戸 彲】

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