2024年11月17日( 日 )

地域中間流通(卸)と今後の戦略(前)

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流れは変化する

物流イメージ 戦後の流通業界に一石を投じた林周二氏が今年6月に亡くなった。高度経済成長が本格化する1960年代初め、その始まりに合わせるように彼が唱えたのが「流通革命」だ。いわゆる問屋不要論だが、正確にいえば「問屋機能疑問論」である。

 安売りを前面に出したダイエー創業者、中内功氏の店を見て彼は考えた。問屋(卸)という中間経費を省けば、もっと安く売ることができるはずだと。しかし、彼の理論が実を結ぶことはなかった。それは長い歴史をもつ我が国の卸が、広範な機能と地域的な特性に沿った小売サポートシステムをもっていたからだ。

 アメリカにはかつて、スーパーバリューやフレミングなどの大手卸が存在していた。しかし、70年代以降、巨大小売チェーンの登場で主要顧客だった中小小売店が衰退すると、そのポジションが揺らいだ。

 彼らは生き残り策として、M&Aや大手スーパーとの統合を図ったが、その努力もむなしく、今ではかつての姿を見ることはできない。

 今日のアメリカでは大手卸に代わって、ブローカー、地方集荷業者、メーカーの代理人など、多様な中間流通者が小売のバイヤーに情報を提供し、売り込みを図る。もちろん、バイヤーも自らの眼鏡にかなう商品を必死に探す。

 彼らは多様化、小回り、積極的な顧客対応といった厳しい競争を繰り広げる新たな中間流通業者だ。そして、いずれもフレミングなどの大きな企業ではない。消費者と生産者をつなぐ小回りの利くフレキシブルな仲介者である。

オンラインの進展でライフスタイルが変化

 今注目されるのは、我が国の大手卸がアメリカと同じような軌跡をたどるかどうか。量をまとめてその有効性を目論む欧米企業と、中小顧客にもきめ細かく対応する集約的な我が国の卸とでは、生い立ちも歴史も育ちも違う。

 だが、ここにきて変化を始めた。小売の統合が進み、ただでさえ厳しい卸の利益がさらに深刻になる。このままいくと、林氏の理論が50年の時を経て、彼の死とともに現実のものとなるかもしれない。その理由は、消費者のライフスタイルの変化。いうまでもなく、オンラインの進展によるものだ。

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 オンラインは単にモノを買うためのツールではない。そこにはあらゆる情報があふれている。「ほしいものがある、好きなものを選べる、価格が安い」。消費者の求める条件は多岐にわたる。商品選択、品質と価格の比較、支払い方法、ユーザーの評価など、ネットを利用すれば自宅に居ながら手軽により効率的にそれらが可能となる。自らの足と時間を使って多くの店を回る必要もない。

 お客に商品を届けるのに欠かせないのが、集荷と在庫と配送だ。小売のニーズを予測し、事前にメーカーから集荷して、それをストックしておかなければならない。それには小さくないコストと情報収集能力が必要となる。もし、この機能を小売がもつとなると、莫大な投資とオペレーションコストを覚悟しなければならない。巨大な配送センターと多くの車両、それに関係する少なくない人員が必要で、しかもそれらをよりローコストで実行することが求められる。

 売上総利益の不振に苦しむイオンなどの大手小売は、自社PB(プライベートブランド)の拡大と卸などの中抜き戦略を試みたが、なかなかうまく行かなかった。その理由には、卸とNB(ナショナルブランド)をつなぐ伝統的な強固なつながりだけでなく、メーカーからの直接調達機能の構築に莫大なコストとノウハウが必要なことがある。卸が長い間、我が国の流通に欠かせない存在であり続けられたのは、この非効率な部分を創意と熱意で磨き続けたからだ。

 小売は今、かつてない厳しい競争下にある。独自の顧客目線でその満足度を高めるためのPB商品政策などの差異化戦略は、一部のスーパーマーケットとコンビニに限られる。

 たとえばPBだが、我が国の消費者のNB志向は価格だけを訴求するPBにとって難敵だ。このため、PBに注力する小売企業のほとんどが、NBを模した商品を少し安い価格で店頭に並べる。本来、消費者が求める高品質で低価格のPB商品を提供できているとはいえない。

 欧米のように自社PBが80~90%を占め、顧客から圧倒的支持を受ける企業はほぼ皆無だ。原因は同質化と均質競争という構図のなかにある。この点も大手卸に有利に働いてきたが、ここにきてその構図が変わり始めた。

(つづく)

【神戸 彲】

(中)

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