2024年12月23日( 月 )

ストラテジーブレティン(293号)サプライチェーン混乱とインフレの展望、日本への影響(中)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年11月1日付の記事を紹介。

(2) 原油ガス高騰をもたらした投資不足、エネルギー事情は楽観できず

化石燃料不足、積年の投資不足に脱カーボン運動が拍車

 なぜエネルギー関連の供給制約だけは元に戻らないのだろうか。それはコロナパンデミックとはまったく関係ない2つの要因が天然ガス・石油・石炭市況高騰の背後にあるからである。第一は2015年以降の投資不足である。石油・ガスの川上投資は5年ほどのラグをもって供給力に結び付くといわれるので供給力は当分高まらない。ポスト石油戦略研究所代表大場紀章氏は「エネルギー関連の調査を行っているライスタッド・エナジー社によると、20年の石油ガス上流投資は、ピークだった14年に比べ55%も少なくなった。」しかしこの減少の大半は脱炭素とは関係なく、原油価格が100ドル/バーレルから40ドルへと急落した16年にかけて起きた、と説明している(Wedge 2021年11月号)。

図表8: 石油・ガス上流投資額推移

 第二に脱カーボンの圧力から、石油ガス川上投資が大きく絞られようとしている。WSJ紙は次のように説明している。「Rystad Energy社によると、シェールガスを除く世界の石油・ガス探査費は、2010年から2015年まで年間平均約1,000億ドルだったが、原油価格の暴落により、その後約500億ドルに落ち込んだ。」そこからさらに2021年、投資は大きく落ち込んでいる。IEAは2021年の世界の石油・ガス投資総額は、パンデミック前の水準から約26%減の3,560億ドルになると予想している。それなのにIEAはパリ協定の目標を達成するためには、今後10年間この低い水準をキープすべきと主張する。IEAはクリーンエネルギーへの投資を、今年の約1.1兆ドルから2030年までに年間3.4兆ドルに拡大する必要がある、と主張している(10月17日WSJ)。環境派が主導するIEAの石油ガス投資抑制、クリーエネルギー投資促進の姿勢が非現実的であることを示唆している。一方、グラスゴーでのCOP26を前に、クリーエネルギー投資を促進するために、カーニー前BOE総裁などが中心になって、金融機関への融資促進を働き掛けている。金融をめぐって激しい論争が展開されている。

性急な脱カーボンはロシア・中国へのギフト(by WSJ)

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 また金融市場に多く存在する環境派が石油ガス企業に大きなプレッシャーを与えている。たとえば今年に入りエクソン、シェル、シェブロンに対してプロキシーファイトが勃発し、環境派取締役の選任、CO2排出に結びつく投資の抑制、CO2排出部門の分社化、などを求めている。ESG投資の隆盛による石油会社の株価低迷も加わり、これらの民間エネルギー企業の資本コストが著しく高くなり、投資意欲をさらに殺いでいる。となると投資不足のギャップは資本コストに配慮する必要がない国有資本や専制国家(ロシア、中国、一部中東諸国など)が埋めていき、それらの国がエネルギー供給力のキャスティングボードを握る可能性が出てくる。WSJ紙は「脱炭素は米国から中国・ロシアへの贈り物」(6月11日)との社説により早くからこの点を指摘している。「進歩派は気候変動対策の名の下に、米国の主要な戦略的経済優位性を放棄しようとしている。だが米国の化石燃料を廃止しても、炭素排出量が消えるわけではなく、別の場所で生み出されるだけだ。」それは専制国家中国ロシアへの贈り物だ。

(つづく)

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