2024年11月22日( 金 )

出会い、つながり、奥田流~北九州・希望のまちプロジェクト(1)

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 北九州市を拠点にホームレスなどの生活困窮者の支援を続けてきた認定NPO法人抱樸(ほうぼく)の活動が新たな段階に入った。特定危険指定暴力団・工藤会の本部事務所跡地(同市小倉北区)を購入し、ここに誰もが利用できる全世代型の福祉拠点をつくる計画を進めている。名付けて「希望のまちプロジェクト」。個々の出会いを基点に、人と人とのつながりを育んできた抱樸理事長の奥田知志氏(58)がホームレスを生み出す社会そのものの変革を目指し、まちづくりに挑む。“伴走型支援”の伝道者は今、分断と孤立が深まる時代の苦難のなかに光を探している。ポストコロナに見出すべき希望とは何かを問う。

偲ぶ会

偲ぶ会で話す奥田氏
偲ぶ会で話す奥田氏

 不思議なほど温かい空間だった。10月初旬の東八幡キリスト教会礼拝堂(北九州市八幡東区)。壁にも床面にもふんだんに使われた木の香りが漂い、天窓から差し込む日の光は柔らかく祈りの場を包む。建築家の手塚貴晴、由比夫妻が設計を手がけ、2015年度のグッドデザイン賞を受賞した。だが、温かさの理由はそれだけではない。なによりここに集まった人々の表情が、思いが、温かいのだ。

 「偲ぶ会」。元ホームレスで自立を目指す人やすでに自立した人たちでつくる互助会が主催して年に1度開き、亡くなった人々を悼む。この1年に10人が死亡し、累計では187人との報告があった。しかし、これはNPO法人となった2000年以降の数字であり、それ以前にも無論、死亡した人は少なからずいた。奥田氏によると、路上死が20人を超えた年もあったといい、それを合わせるとホームレス支援を始めた時からの死者累計は優に200人を超える。そのほとんどは身寄りがないか、あっても引き取りを拒否された人たちである。そうした人々は“互助会葬”で弔い、遺骨は礼拝堂とつながる記念室に納められている。

 礼拝堂にはこの日、これまで亡くなったすべての人たちの名前と没年が壁に掲示され、遺影が前面に並べられた。そして生前、彼ら彼女らと出会い、人生の時をともにした縁ある参列者が次々に“偲ぶ言葉”を述べた。

 「最初は怖い感じでしたが、話してみると優しい人で、兄貴のような感じでした」。
 「世話好きな方で、いつも話しかけてくれました。長生きも楽じゃないけれど、私はもう少し頑張ってみますね」。
 「月1回のお見舞いの日は私にとっても癒しの時間でした。ありがとう」。
 「100円貸してってよく言われましたねえ。でも、いいところもあったんですよ」。

 皆、決まり文句ではない自らの言葉で語る。語る人も聞く人も、今は亡き人に思いをはせ、時に涙をぬぐい、あるいは笑みを交わした。

「希望のまち」が整備される予定の工藤会本部事務所跡地
「希望のまち」が整備される予定の工藤会本部事務所跡地

「大きな家族を」

 奥田氏の表情は明るかった。参列者を前に身振りを交えて話した。

 「心を込めたメッセージ、すごくいいですね。家族を超えていると思います。赤の他人が出会って、家族になろうっていう決断があったからこそ、家族を超えていくんですね」。

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 抱樸の活動は包括ケアである。縦割り行政のように、ここからここまでという区切りはない。まず対象者を限定しない。抱樸のケアを受けるのに資格はいらない。また、そのケアの内容は高齢者福祉でもあり、障害者福祉でもあり、子どもの教育でもあり、必要があればその都度つくっていく。だから現在、抱樸は27もの事業を展開している。

 さらに地域も限定しない。インターネットでいかなる地域ともつながることができる時代である。そして時間をも超えていく。人と人とが出会えば、つながりができる。そのつながりに終わりはない。「出会いから看取りまで」というキャッチフレーズがあるが、もっといえば「看取った後も」、つまり死後もつながり続けるという発想なのである。

 こうした考え方を奥田氏は言葉にして確認していった。そして亡くなった人たちの遺影に視線を向け、こう語った。

 「看取る、そして死んでも忘れない、そのことは家族がやってきた。でも、この人たちは残念ながら家族が来なかった。戸籍上の家族は来なかったその分、新しい家族が集まった。歩んできた道のりの答えがここにある。誤りはなかった。さらに前に進もう」。

 声に力がこもる。「大きな家族をつくりたい」。それが“希望のまちプロジェクト”だ。

(つづく)

【山下 誠吾】


<プロフィール>
奥田 知志
(おくだ・ともし)
奥田知志氏1963年生まれ、滋賀県出身。日本バプテスト連盟・東八幡キリスト教会牧師。認定NPO法人抱樸理事長。関西学院大学神学部大学院修士課程修了、西南学院大学神学部専攻科卒業、九州大学大学院博士課程後期単位取得。(公財)共生地域創造財団、ホームレス支援全国ネットワーク、生活困窮者自立支援全国ネットワークなど代表。第1回(2016年度)賀川豊彦賞、第19回(2017年度)糸賀一雄記念賞受賞。著書に『もう、ひとりにさせない』(いのちのことば社)、『いつか笑える日が来る』(同)、『ユダよ、帰れ』(新教出版社)など。

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