2024年11月24日( 日 )

COP26へ向かう岸田総理、地球温暖化に歯止めをかけられるか(中)

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国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸

「中小国」へも目を向けることが必要

赤い地球 イメージ コロナ以前には世界のトップリーダーとして最も頻繁に海外訪問を重ねていたのが、習近平主席でした。年平均14カ国を訪問、34日間は国外に滞在し、オバマ元大統領やトランプ前大統領を圧倒していました。

 ところが、急に海外訪問を止めてしまったため、さまざまな憶測が飛び交っています。健康不安説も聞かれますが、来年の党大会に向けての基盤強化に忙殺されているというのが実態でしょう。何しろ、さらなる任期の5年延長がかかっているのが来年の党大会ですから。G20やCOP26での「対面外交」よりも、国内での「終身国家主席」への道を優先しているに違いありません。

 実は、この11月8日からは北京で共産党幹部による重要な非公開会議が予定されているため、北京を離れるわけにはいかないと思われます。とはいえ、アメリカに対抗するうえで、習近平主席が力を入れているのは「電話外交」なのです。しかも、岸田総理などとは対照的に、電話の相手は開発途上国が中心となっています。

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 たとえば、先週もパプアニューギニアの首相との電話会議を行ったばかりです。マラペ首相いわく、「COP26でバイデン大統領と挨拶はできるかもしれないが、実のある話し合いは期待できません。しかし、習主席との電話会議ではじっくりと話し合うことができました」。

 バイデン大統領も岸田総理も「価値観を共有する国々と連携を強める」との姿勢ですが、QuadにしてもAUKUSにしても「大国中心」です。「独自外交」というのであれば、今こそパプアニューギニアのような水没の危機に瀕している「中小国」へも目を向ける必要があるでしょう。

 思い起こせば、2014年3月の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の総会では、今後の世界が直面する8つの主要なリスクが公表されたものです。第1に指摘されたのが、高潮や海面水位の上昇により、沿岸の低地や小島嶼国(しょうとうしょこく)での死亡や地域の経済が破壊されるというリスクでした。パプアニューギニアはまさにそうした危機に直面しています。

 加えて、洪水による大都市住民への生命・健康被害。異常気象による社会インフラの機能停止。極端な寒熱期間における脆弱な都市住民や野外労働者の死亡および罹病のリスク。温暖化や干ばつによる食料不足や食糧システムの崩壊。水資源不足と農業生産性の低下による農村の崩壊。陸域および内水の生態系と生物多様性の損失など、人類全体を飲み込みかねないリスクが網羅されていました。

 こうした損失と被害の可能性が世界的な懸念材料となっており、今回のCOP26のホスト役であるイギリスのジョンソン首相も「地球環境問題こそ人類にとって最大の脅威にほかならない」と危機感を強めています。とくに開発途上国では、不利な地理的条件や技術資金の不足による適用能力の低さなどが災いし、対応策を実施しているにもかかわらず、気候変動のもたらす自然災害に十分な対処ができないままです。

開発途上国への支援体制

 16年11月に開催されたCOP22以来、こうした開発途上国において深刻さが拡大するリスクに対し、どのような支援体制を構築できるのかが主要な議題となってきました。これまでも、堤防や作物の品種改良など構造的かつ物理的な手法をはじめ、国家や地域が策定する総合的な水資源管理などの制度的手法、さらには住民の意識向上や教育などを通じての社会的手法が試みられてきたわけですが、事態は悪化する一方です。

 こうした問題に対応するため、国連が音頭を取り、開発途上国への適応支援を行う資金メカニズムが設立されました。たとえば、「特別気候変動基金(SCCF)」「後発開発途上国基金(LDCF)」、京都議定書の下に設置された「適応基金(AF)」などです。

 これらは日本を含む先進国が自主的に供出した資金で運営されています。そして、運営に当たっては世界銀行、国連環境計画(UNEP)、国連開発計画(UNDP)が共同で設立した「地球環境ファシリティ」が関与します。こうした基金に加えて、15年には新たに途上国における気候変動対策を個別具体的に支援するための「緑の気候基金(GCF)」が発足しました。日本も15億ドルの拠出金を出しています。

(つづく)


浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

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