COP26へ向かう岸田総理、地球温暖化に歯止めをかけられるか(後)
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国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸
「攻め」の地球温暖化外交戦略を
一方、我が国は福島の原発事故以来、それ以前の温室効果ガス削減目標の達成が難しくなっており、環境大国とは言い難い状況に置かれています。というのも、原発事故の影響で、石炭、石油、天然ガスの輸入量が増え、温室効果ガスの排出量が増え続けているからです。そのため、日本が検討している削減目標はアメリカ、ヨーロッパ、ロシアと比べて低いとみなされています。日本では省エネ対策が進んでいると言われてはいるものの、温室効果ガスについていえば、世界第5位の排出国なのです。
しかも、これまで日本は新たに43カ所の石炭火力発電所を計画または建設中でした。その背景には、我が国は最新鋭の石炭火力発電の技術を有するとの自信があったようです。そのために「緑の気候基金」による融資を生かして、日本製の石炭火力発電所を途上国に建設する計画を進めている、との国際的な批判も受けていたほどです。
というのも、日本はすでにインドネシアの石炭火力発電に10億ドル、インドやバングラデシュの石炭火力発電にも6億3,000万ドルの融資を行ってきたからです。2009年のコペンハーゲン・サミット以降、国連に報告された300ほどの環境対策融資案件で、石炭火力発電を対象にしていたのは日本だけでした。
我が国の外務省は「高効率の日本製石炭火力発電は、地球温暖化対策上も効果が高い」とし、「日本が技術移転をしなければ、効率の悪い石炭火力発電によりいっそう温室効果ガスが排出される危険がある」と主張してきたのですが、国際的な理解は得られませんでした。
地球環境の先行きを考えれば、いくら効率が高いとはいえ、「化石燃料に依存する現状から再生可能エネルギーへの移転を促す融資に重点を置くべきだ」というのが、世界の主流派の意見となっているからです。そうした世界的な潮流を受け、今年4月、秋田市で予定されていた石炭火力発電所の建設計画を断念。その結果、日本国内の石炭火力発電所の新規建設計画はゼロになりました。
幸い、日本には究極のクリーンエネルギーと目される水素燃料の技術もあります。今こそ技術と資金の組み合わせで、日本独自の「攻めの球温暖化外交戦略」を推進する時でしょう。加えて、日本では世界を驚かせるような技術が生まれようとしています。何かといえば、風力発電です。すでに各地で稼働している風力発電装置とは大違いで、台風がもたらす運動エネルギーを使って発電に生かそうという画期的なものです。
このところ、日本を襲う台風の数や規模は拡大する一方です。日本各地に甚大な被害をもたらしています。そこで、「ピンチをチャンスへ」と日本のエンジニアたちが立ち上がったわけです。これまで自然再生エネルギーとしては太陽光や風力が利用されてきましたが、日照時間や風向きなどの制限があり、なかなか主流派にはなれませんでした。
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地域の市民主体による太陽光、風力などの再エネ発電所~全国の市民発電所は1,000カ所以上に太陽光発電に関していえば、政府の買取価格が投機的な受け止め方をされた側面もあり、思ったようには機能していません。日本では太陽光よりも風力のほうが豊かであることに着目すべきであったのです。とはいえ、風力発電にも問題がありました。
現在稼働中の風力発電のタービンがすべて欧州製をモデルとしており、日本の状況に適合していなかったのです。そのため、台風というまたとない風力源がありながら、これまで設置されたタービンはその力を生かすことなく、逆に台風によって破壊されてしまうという状況すら頻繁に起きてきました。
日本は「風力大国」を目指す時
こうした事態を憂慮し、新たな発想で問題を解決しようとする動きが具体化してきたのは頼もしい限りです。その中心となるのが、13年に誕生した「(株)チャレナジー」という会社です。
同社が開発した風力を電力に変えるまったく新しいタービン「マグナス風車」は、うまく稼働すれば1回の台風で、日本が必要とする50年分の電力を集めることができるとのこと。
成功すれば、世界初の「台風タービン」になる可能性を秘めているわけです。プロペラをもたず、回転する円柱に風が当たる際に発生する揚力を使って発電するという日本発の特許が売り物となっています。石垣島での実証実験を経て、今年8月にはフィリピンでの本格稼働が始まりました。
日本も神風ならぬ台風の通り道に位置する地の利を生かした「風力大国」を目指す時ではないでしょうか。実は、パリのエッフェル塔にも風力発電機が設置されています。その例に倣って、東京タワーや東京スカイツリーをはじめ、各地に台風タービンを設置すれば、日本発のグリーンエネルギーの象徴となるに違いありません。
現在、洋上風力発電の新規導入量は中国が世界1位です。オランダ、ベルギー、イギリス、ドイツなどが後を追っています。日本は中国やヨーロッパ諸国とも連携し、世界的に風力発電の供給網を構築すべきでしょう。南シナ海や東シナ海を対立の場にするのではなく、自然エネルギーの共同開発の実験場にできれば、「平和の海」に生まれ変わるはずです。
(了)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。関連キーワード
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