2024年11月05日( 火 )

出会い、つながり、奥田流~北九州・希望のまちプロジェクト(2)

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 「大きな家族をつくる」。認定NPO法人・抱樸理事長・奥田知志氏(58)はそう語った。33年前から続けてきたホームレス支援などの活動が新たな段階に入ったことの宣言でもあった。特定危険指定暴力団工藤会(北九州市小倉北区)の本部事務所跡地に全世代型の福祉拠点を建設し、ホームレスを生み出す社会そのものの変革を目指すという大事業だ。しかし、それは抱樸の「1人ひとりと向き合う支援」がなくなるということではありえない。個々の出会いを大切にしてきた活動の原点である“炊き出し”の精神は今も変わらない。

炊き出し

勝山公園横であった炊き出し
勝山公園横であった炊き出し

 「あんたもわしも おんなじいのち」と書かれたテントが張られ、明かりがともされる。夜もまだ生ぬるい風が吹く9月下旬、北九州市小倉北区の勝山公園近くの広場で恒例の炊き出しが行われた。抱樸スタッフやボランティアが弁当のほか衣服や靴、せっけんや歯ブラシ、蚊取り線香などの生活物資を手際よく並べていく。集まったホームレスら生活困窮者が周囲を取り囲む。

 コロナ禍での炊き出しは神経を使う。手指のアルコール消毒やマスク着用は当然のこと、ボランティアは事前申し込みとし、多すぎる場合は事務局が参加日を振り分ける。また、以前は弁当配布後、一緒に食べて話をするなどしていたが、持ち帰って1人で食べてもらうことにした。抱樸の原点である炊き出しはやめるわけにはいかないが、この場が感染源になってはいけない。

 コロナ対策に関しては画期的といえることがあった。住民票がないなどワクチン接種が困難とされるホームレスの3人が接種することができたのだ。ワクチン接種券は住民登録された自治体が発行するため、住民票がない人、登録された住所とは別の住所に住んでいる人への対応が課題となっていた。北九州市では抱樸が市に協力するかたちで、夜間巡回などで希望者からの申し込みを取り次いだ。実際に接種した日もスタッフが市から預かった接種券をもって接種会場に付き添った。しかし、実は接種を申し込んだのは6人で、3人はキャンセルしたのだという。このことを明らかにしたのは奥田氏である。

真骨頂

テントには「あんたもわしも おんなじいのち」と書かれている
テントには「あんたもわしも おんなじいのち」と書かれている

 奥田氏は炊き出し後の集会で、スタッフやボランティアらにコロナワクチン接種への対応について説明した。

 「5月に市民への接種が始まったときに、市に『路上にいるから打てないというのはおかしい』と申し入れて、それはそうだと市も受け入れてくれた。昔は行政とけんかばかりしていたけれど、今、いろいろな経験を重ねてきて、うまくやっています」

 うまくやってきた例としては、リーマン・ショック後の2009年の定額給付金受給、コロナ対策としての2020年の一律10万円の受給などで、ホームレスへのワクチン接種もその延長線上にある。他自治体からの問い合わせもきているといい、全国的に先駆けとなる行政とNPOの協力だった。

 奥田氏はこの日の炊き出しで、ワクチン接種を予約していながら接種しなかった男性に会ったことに触れた。「なんで受けんかった?」。そう問うと、「副反応があるやろ。路上で熱出たらどうする? 怖いよ」。このような会話があった。

 「大事なのは、支援とは何かということです」と、奥田氏は声を張り上げた。

 6人が申し込んだのに3人は受けなかった。どうしてチャンスを逃すのか、せっかくおぜん立てしたのに。そう考えてはだめなのだという。

 「支援というのは選択肢を増やすこと、そして選んでもらうこと。こちらがいいと思っても強制はできない。そこをはき違えると、とくに専門家になると『これが最善なのに、なぜこれを選ばないか』となる。我々は良くも悪くも素人集団なので、当事者目線で、自分だったらどうするかと考える。1人で路上にいて、ワクチン打って熱が40度出たらどうしようって、その人の立場になったら気持ちはわかる。上から見ると『なんでそうなのか』ってなるけれど、選ぶ選ばないは本人が決めることだから。その人の尊厳の問題だから」

 これが奥田流の考え方、その真骨頂である。

(つづく)

【山下 誠吾】


<プロフィール>
奥田 知志
(おくだ・ともし)
奥田知志氏1963年生まれ、滋賀県出身。日本バプテスト連盟・東八幡キリスト教会牧師。認定NPO法人抱樸理事長。関西学院大学神学部大学院修士課程修了、西南学院大学神学部専攻科卒業、九州大学大学院博士課程後期単位取得。(公財)共生地域創造財団、ホームレス支援全国ネットワーク、生活困窮者自立支援全国ネットワークなど代表。第1回(2016年度)賀川豊彦賞、第19回(2017年度)糸賀一雄記念賞受賞。著書に『もう、ひとりにさせない』(いのちのことば社)、『いつか笑える日が来る』(同)、『ユダよ、帰れ』(新教出版社)など。

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