出会い、つながり、奥田流~北九州・希望のまちプロジェクト(6)
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認定NPO法人・抱樸は33年間、1人の路上死も出さない▽1人でも多く、1日でも早く、路上からの脱出を▽ホームレスを生まない社会を創造する――の3つの使命を掲げて活動してきた。特定危険指定暴力団・工藤会の本部事務所跡地(北九州市小倉北区)に全世代型福祉施設を建設する「希望のまちプロジェクト」は3つ目の使命をはたすための拠点となる。抱樸理事長・奥田知志氏(58)は「希望のまちを中心に大きな家族をつくる。みんなで話し合って新しい家族のかたちをつくりたい」と語る。
市民参加型
10月半ば、北九州市小倉北区の魚町商店街にあるイベントスペースで「希望のまち準備ミーティング」があった。抱樸スタッフやボランティア、元ホームレスの自立者ら関係者の意見を集め、今後の整備に生かす目的。全国各地でまちづくりなどのプロデュースを手がける「スタジオ―L」が意見調整をする。ミーティングは今夏に始まっており、これが2回目。今後、地域住民からのヒアリングや意見交換などを経て、市民参加型の“希望のまち”整備を一歩一歩進めていく計画だ。
この日は、1回目のミーティングで出た意見を一覧できるパネル展示や、抱樸のこれまでの活動をまとめた年表が掲げられた会場に多くの関係者が訪れた。頃合いをみて、スタジオ―Lのスタッフがブレインストーミング形式の話し合いを呼びかける。そのときに会場にいた約15人が2グループにわかれて「希望のまちに欲しい施設」の意見を出し合う。家族やサークル仲間との語らい、食堂や休憩所、庭園などの多種多様な写真を見てイメージを喚起し、欲しい施設とその理由を話す。
「家族で団らんできるレストランが欲しいね」
「緑が多い方がいい。木々がたくさん植栽された公園のような庭がいい」
「夏場には小さな子どもたちも遊べるようなプールをつくって」▼おすすめ記事
利他…、「情けは人の為ならず」というけれど…(前)話し合いが終わるとグループごとに発表。皆でそれぞれの希望を共有し、整備する施設のコンセプト案をまとめて次の段階に進む。スタジオ―Lのスタッフは「民間主体の事業で“希望のまち”ほどの規模は珍しい。対話を大切にして丁寧に進めたい」と話していた。
神の配剤
「今だからできる事業です。5年前だと踏み切れなかった」
奥田氏が工藤会本部跡地の購入を決断したのが2019年11月。所有者が売る意向をもっているとのニュースを見て、北橋健治市長に電話し購入したい旨を話すと、すぐに担当者が駆け付けたという。そして翌春には購入手続きが終わった。ただ、購入代金1億3,000万円の借金は残っている。現在、約8,000万円寄付が集まっているが、施設建設費などで今後も多額の費用が見込まれる。
抱樸は2013年に宿泊施設を備えた支援拠点「抱樸館北九州」を建設している。
「その直後に決断できたかというと、難しいですね。2億円かけて大勝負した後ですから。あのときに住民反対運動などを経験して、いろいろな人との出会いがあり、新たな事業の経験を積んで今がある」抱樸では2018年ごろから社会福祉法人を立ち上げようとの構想が浮かんでいた。NPO法人による自由な支援と、社会福祉法人による制度面からの支援、その両輪でさらに「1人ももらさない体制」をつくろうという計画が持ち上がっていたという。抱樸の事業はさらに拡大する。そこへタイミング良く工藤会本部跡地の売却話が浮上した。
「神の配剤、ですかね」
奥田氏はぽつりとつぶやく。
「5年前だと背伸びをしても届かない。今なら少し背伸びをすれば届く。そういう時にそういう話がきた、そんな感じですね。もっともすべて借金ですが」笑顔を見せる奥田氏に、これまでの活動の集大成ですか、と問うてみた。すると、こんな答えが返ってきた。
「いや、集大成というと結論になりますが、これが答えだという発想が、私を含めて抱樸にはないのです。施設をつくってそれを継続していけばいい、ということではなく、私たちは1人ひとりとの出会いからやっていくので、どんどん変えていく。ニーズがなくなったらやめるということになるし、逆に収入はないけれどやらなきゃならないことは寄付を集めてでもやる。いま必要なことを、できる最大限でやるというだけなのです」
もはや解説の要はない。これが奥田流である。
(第1部・了)
【山下 誠吾】
<プロフィール>
奥田 知志(おくだ・ともし)
1963年生まれ、滋賀県出身。日本バプテスト連盟・東八幡キリスト教会牧師。認定NPO法人抱樸理事長。関西学院大学神学部大学院修士課程修了、西南学院大学神学部専攻科卒業、九州大学大学院博士課程後期単位取得。(公財)共生地域創造財団、ホームレス支援全国ネットワーク、生活困窮者自立支援全国ネットワークなど代表。第1回(2016年度)賀川豊彦賞、第19回(2017年度)糸賀一雄記念賞受賞。著書に『もう、ひとりにさせない』(いのちのことば社)、『いつか笑える日が来る』(同)、『ユダよ、帰れ』(新教出版社)など。関連キーワード
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