『競争と情報』~未来予測力と危機管理力の強化~(2)
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日本ビジネスインテリジェンス協会会長
日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科講師
東京経済大学経営学部・大学院経営学研究科元教授中川 十郎 氏
続・情報力の強化
世界金融危機後、グローバル・ビジネス競争はますます熾烈になってきており、情報の収集、分析、活用が企業の死命を制しつつある。我が国も欧米の情報先進国に対抗するため、官・産・学・軍の情報教育の強化が喫緊の課題である。
欧米の情報教育は過去20年間、軍の競争情報の手法を応用し、競争相手国や企業の情報の収集、分析に注力している。しかし、筆者は過去20年間の情報研究を通じ、競争相手の情報収集だけに集中することには批判的である。組織・企業の競争優位を獲得するためには、収集した各種情報を分析、評価し、付加価値を付けた情報・インテリジェンスを戦略策定に活用することに主眼を置くべきだと主張してきた。だが、情報研究者の間では依然として競争情報研究が主流を占めているように思える。
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BISが情報研究会を開催、「経済安全保障」など12演題筆者の情報研究の恩師、デデイジェール博士や『Real World Intelligence』(『CIA流戦略情報読本』筆者共訳)の著者で元米国国家情報評議会副議長のハーバート・E・マイヤーなどは筆者と同意見である。大前研一氏も近著『大前研一戦略論』で「ライバルとの勝負は戦略を立案した後で考えればよい。最優先すべきは顧客価値を創造する戦略だ」と強調している。
米国のサブプライム問題に端を発する金融危機を当該国政府や金融機関は、なぜ事前に予知できなかったのか。それは前述の競争情報専門家協会をはじめとする情報調査機関、世界銀行、IMF、FRBなどがミクロの情報分析に偏り、マクロの中長期の金融、経済予測に失敗したからではないだろうか。
2008年9月15日のリーマン・ショックは瞬時にヨーロッパに飛び火し、さらに世界中を危機の波が襲った。金融資本主義のリセットには、金融資産にとどまらず、労働、社会、エネルギー、環境、健康、教育、企業倫理など幅広い成長の質の向上に向けた世界経済社会の再構築が大切である。
21世紀のアジアの経済社会再構築では、アジアの倫理、儒教を基に、万人の幸せを求める正義と徳の社会を目指すべきである。そのためには情報を活用した世界経済の未来予測力と危機管理能力を強化することが必要である。
今まさに“知は力、知は徳”の時代が訪れているのである。情報のビジネスへの活用に際しては、大倉喜八郎などとともに明治から昭和にかけて政・財界で偉大な業績を残し、“日本近代化の父”とうたわれる渋沢栄一の『論語と算盤』の経営哲学もこの機会に反芻(はんすう)すべきである。
(つづく)
<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)
東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会顧問、中国競争情報協会国際顧問など。著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。関連記事
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