【連載4】The Trump Shocked (トランプショック)

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シリーズ『ドナルド・トランプとは何者か』第4回
 トランプ米大統領が突如発動した関税攻勢──その矛先は中国のみならず日本やEUにも向けられ、世界は激震に包まれている。各国が「Trump Shock」と騒ぐなかで、日本はこの外圧をどう受け止めるべきか?関税問題の本質と、日本に突きつけられた「開国の圧力」を考える。

「Trump Shock」で露わになった世界経済の脆弱性

イメージ    米国のトランプ大統領が世界各国に対し、長年の米国の貿易収支不均衡問題を提起。対中国を筆頭にEUや日本、全世界に対して、誰もが信じられない、とんでもない課税率で相互関税率などを発表。間髪入れず、昨日からこれを発動し実行している。各国から「前代未聞の愚行」と非難の声が噴出して大混乱になっている。

 米国内、ならびにカナダ、イギリス、オーストラリア、EUなどの英語圏のメディアでは、これを「The Trump Shock」と表現し、異常事態だと報道している(過去を遡ると「ニクソンショック」が記憶に新しい)。

 さらに、中国共産党の習近平政権は瞬時に反応、米国が“やるならやり返す”として、報復措置を発動、泥試合に発展する様相だ。日々のニューヨーク株式市場、東京市場、その他は大変危険な状態となっている。世界中の経済学者からは「第三次世界大戦が起こりかねない?」「その引き金になりかねない?」など、過剰反応ともとれるコメントが飛び交っている始末だ。

 これらの関税発動問題を「Trump Shock」と表現し、世界的な経済環境破壊は大変危険だというが、これらを本当に理解しているのは、プロの経済アナリストだけで、米国もヨーロッパも、我が国も、一般の人たち、俗にいう‟庶民“には何が何だかわからず、その判断などできるはずもない。

 とくに、米国の一般的な庶民、俗にいう、トランプ大統領の熱烈なファン層と自らの利益の為に動いている「金魚のふん」=共和党の大半とイエスマンなどの取り巻きたちは、間違いなくこれに「欣喜雀躍」している。まだ始まったばかりで、この結末を分かっている人たちなど誰もいるはずもない。誰しも経験則がないのだ。

日本の対応は機能しているのか~孫正義だけが際立つ存在に

 さて、我が国の対応はどうか?石破首相を筆頭に、政府、行政、民間の人たちはどうだろう?毎日のように報道される日本側のすべての対応はいかがなものか?

 筆者は、ソフトバンクグループの総帥・孫正義さんのすばらしい対応、「一挙手一投足」しか、最近は眼に入ってこない。安倍元首相が凶弾に倒れる前から唯一、彼だけが素晴らしく、米国に対する強かな対応が眼につく、このような対応ができている日本人は、他に誰一人いないのだ。強いていえば、麻生太郎元首相も、これに近い対応力をもっている。共に九州人で郷土・福岡人である。要は、自ら英語でものを考え、直接自分の言葉で相手と話せる人間でないと、その資格すらない。

 この「The Trump Shocked」は、世界で最も異色で、唯一の‟社会主義的資本主義“と呼ばれる我が国に、世界中の‟自由資本主義”を基盤にする国々とは異なる、別の好影響をもたらす可能性があると考えられる。

 それは、トランプ大統領が石破首相に恐喝まがいの、さらなる「市場開放」、すなわち多種多様な関税障壁の撤廃を要求していることなのだ。これらは、まさに米国トランプ大統領が正しく、我が国にとっては、またとはないすばらしいチャンス、外圧であるととらえるべきだ。自らの重い病を治せないだけに、この外圧力はすばらしい劇薬となるだろう。この国ほど、世界中の経済人にとって、わかりにくい先進国はないのである。

 従って、戦後から長く続いてきた平和と高度経済成長以降の豊かさを勘違いしているこの国の環境を変えるには、戦争か革命が起こるなどしないと不可能だと筆者は思っていた。我々団塊の世代からみれば、何と息苦しいこの国の組織、社会だろうか。だが、それを変えるすばらしい機会が到来している。

 俗にいう、「失われた30年」の停滞感、コンプライアンスにガバナンスという言葉を自らの保身に使うサラリーマン幹部職の組織人たち、少しでも失敗したら「多勢に無勢」で叩きまくる、何とも度量の狭いマスコミとネット社会、これらの事例は枚挙に暇がない。米国は自らが重病人だと揶揄して、今回、大手術を施すとしている。まさに、これらは我が国の大病を治すべき時期だといえる。

トランプの圧力は“劇薬”たりうるか~いまこそ日本に必要な外圧改革

 トランプ大統領は「米国では日本の車が何百万台も走っているのに、日本では米国の車は走っていない」と言っている。極論ではあるが事実であり、ほとんどの我が国のコメンテーターは「責任は米国自動車メーカー側にある」と我田引水だ。

 ハード面でみた左ハンドルが問題なのではなく、これだけ故障のない近代の車の車検制度をなくすくらいの「規制緩和」が最低限必要なのだ(米国のみならず車検制度がない国の方が世界的にはスタンダード)。これは永久的な国民への大きな生活補助金にもなる。自民党も野党も情けないくらいの能力不足である。

 これらのコメントは決して正しくはない。米国や世界からみれば、そのように強く感じることが当たり前で、それが我が国の特殊な文化であり、商慣習、行政機関のルールや規制の多さ、複雑さから判断され敬遠されているこの国の現状なのである。同じ日本人でも、それが良くわからないのだ。本当に特殊な国、我が国、日本国なのである。

 よって、これらをシンプルに解説すると、トランプ大統領は対米貿易収支の米国赤字額の解消をしろと言っている。要は、昨年でいうと、その差額、約8兆2,000億円の均衡輸入を速やかに実行、達成しなければならず、それは誠に困難な額なのである。

 これらを達成するには、それに関わる規制の緩和や解除など、多岐に渡って行わなければならない。さらに国内業者との既得権益など、かつて、いずれの政権も経験したことのない規模で、多種多様な業種の「市場開放」をせざるを得ないだろう。一種の革命を起こすに等しい。

 今後、どのような政権、政治環境になっても、誰一人、米国大統領の発動した「Trump Shock」に抗える人物はいない。従って、この機を我が国の新たな「開国維新」とし、旧態依然のすべての規制、ルールの見直し、改定などが、米国の圧力によって変われば、誠にすばらしいことである。刷新すべきはフジ・メディア・ホールディングスのような「オールドボーイズクラブ」だけではなく、我が国、日本なのである。

【青木義彦】

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