日本の人手不足の構造とこれからの外国人雇用の行方

(弁)Global HR Strategy
代表社員 杉田昌平 氏

(弁)Global HR Strategy 代表社員 杉田昌平 氏

 日本は歴史的な転換点に立たされている。本格的な人口減少社会へと突入し、社会経済を担う働き手が減少を続ける構造的な難問に直面するなかで、日本に住む外国人は年間35万人の純増を記録した。これからの人手不足のなかで、外国人労働者の位置づけをどのようにとらえていけばよいのか。弁護士、社会保険労務士、行政書士として外国人雇用問題に長年携わり、政府の検討委員会などでも議論を重ねてきた(弁)Global HR Strategy代表社員・杉田昌平氏に、詳しく話を聞いた。

1年間で35万人純増
外国人増加のインパクト

 ──日本では現在、どれくらいの外国人が居住しているのでしょうか。

 杉田昌平氏(以下、杉田) 日本に住む外国人の数は、直近1年間で35万人増加し、2024年時点で376万人となっています。また、雇用状況の届出数も直近1年間で25万人増加し、働く外国人は230万人となっています。これは日本全体の派遣労働者の数である約215万人(22年度)を上回る規模です。この増加ペースは非常に速く、直近1年間の35万人の増加規模は、奈良市(35.4万人)などの人口規模に匹敵し、福岡市博多区(25.2万人)をはるかにしのぐ外国人が1年間で増加している計算になります。

 とくにコロナ禍から回復して以降の増加が著しく、水際措置が解除された22年3月以降の3年間で、日本に住む外国人は合計で100万人増加しています。これは北九州市(93.9万人)、あるいは宮崎県全体(104.2万人)に匹敵する規模であり、そのインパクトの大きさがうかがえます。

 在留資格別に23~24年にかけての増加の主な内訳を見ると、「技能実習」(+5万2,039人、全体に占める割合14.5%)、「特定技能」(+7万6,041人、同21.2%)、「技・人・国」(技術・人文知識・国際業務、+5万6,360人、同15.7%)、「留学」(+6万1,251人、同17.1%)、「家族滞在」(+3万9,578人、同11.0%)となっています。このなかでも技能実習と特定技能を合わせると12.8万人で全体の35.7%と大きな割合を占めています。

人手不足の根本原因
「なんとかなってきた」からくり

 ──日本の人口減少と外国人雇用増加の関係について教えてください。

 杉田 外国人雇用の増加の背景は、もちろん少子高齢化にともなう働き手の不足があります。ただ、一口に人口減少といいますが、その内実はまず若年人口の減少から始まり、次に生産年齢人口、最後に総人口から高齢人口が減っていくという構造になります。

 生産年齢人口(15歳~64歳)のピークは1995年の8,716万人、総人口のピークは2005年の1億2,729万人であり、働き手が総人口よりも先に減り始めています。総人口が後追いするかたちでしか減らないため、社会のなかの仕事の量はすぐに減らず、働き手だけが先に減ることで人手不足が生じます。この状況は40年ごろまで慢性的に続くと予測されています。

 つまり、生産年齢人口が減少して30年、総人口が減少して20年がすでに経過していますが、これまでは「なんとかなってきた」といえます。その最大の要因は、女性・高齢者の労働参加の促進です。とくに女性雇用者数は1995年から2023年の間に745万人増加しており、これは今日本に住む外国人の数の2倍弱に相当します。この30年間に約750万人の女性の労働市場への参加があったからこそ、日本は人口減少下でも「なんとかなってきた」のです。

生産年齢とそれ以外の年齢の人口推移

 これは1990年代に専業主婦世帯と共働き世帯が逆転し、共働き世帯が増加を続けたことと関係しています。まだ当時は人口増加社会であった日本において、文化的な背景もあり「壮大なワークシェアリングとしての専業主婦」という人材プールが存在していました。男性が賃金労働、女性が家庭内での非賃金労働という分担は、人口が多かった時代には全員分の仕事がないなかで成り立っていた形態だったのです。

 しかし、近年、この女性・高齢者という「人材プール(貯蓄・貯金)」がいよいよ「枯渇」する状況になったといえます。すなわち、これ以上の労働参加率の劇的な向上は見込みにくくなっている状況です。これによって人手不足がいよいよ本格的な始まりを迎えていると思われます。

ロボット・AIと外国人
それぞれの対応範囲

 ──人手不足をカバーする代替労働力として、外国人労働者とともにロボティクス・AIへの期待が高まっています。

 杉田 本格的な人手不足に直面するなか、今後の対策としては、①女性・高齢者のさらなる活躍促進、②ロボティクス・AIの活用、そして③外国人雇用が考えられます。このうち①女性・高齢者の労働参加については、先述の通りすでに限界が見えつつあります。

 次に②ロボティクス・AIについては、とくにフィジカルな、いわゆるエッセンシャルワーカーの仕事(農業での収穫、漁業、食品工場での作業など) での活用が期待されますが、経済産業省の資料によれば、人間と同程度の行動範囲をカバーできるロボットの実用化は2040年ごろと予測されており、直近の15年程度のタイムラグがあります。

 AIはたしかに多くの仕事、とくに中間的な事務職などのオフィスワークを置き換える(奪う)可能性があります。しかし、AIによって仕事がなくなった都市部のホワイトカラーが、たとえば地方の農業や漁業といったフィジカルワークに容易に移動するかというと、それは起きにくいでしょう。彼らは生活基盤が都市にあるため、簡単に地方へ移住することはできません。

 結果として、AIによる仕事の置き換えは都市部の事務職の賃金上昇を抑える効果はあっても、フィジカルワークを担う働き手不足は解消されない可能性があります。むしろ、AIに仕事を奪われた都市部の人が、都市部内のタクシードライバーやビル清掃員といったフィジカルワークに流れる可能性はあり、都市部のフィジカルワークの賃金に影響を与える可能性を示唆します。

 このように、女性・高齢者の労働参加には限界があり、ロボット・AIの実用化にはタイムラグがあるなかで、人手不足、とくに物理的な労働を担う人材の不足というギャップを埋めるためには、当面は外国人労働者に頼らざるを得ないことになるでしょう。

送出し国の状況と
日本の国際的な位置づけ

 ──日本が外国人労働者を必要にしても、昨今の円安の影響で外国人労働者にとって日本で働くメリットが減退しており、日本に来なくなるのではないかともいわれています。

 杉田 外国人材の受け入れを考えるうえで重要なのは、送出し国の状況と日本の位置づけです。主要な送出し国としては、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、フィリピン、ミャンマー、タイ、スリランカ、インド、ブラジルなどがあります。これらの国々から海外へ働きに出る労働者の数は、19年時点で年間370万人に上ります。これに対し、日本が技能実習や特定技能といったフィジカルワークの分野で1年間に採用している人数は、冒頭で述べた通り22.6万人です。

 世界の出稼ぎ労働者は明らかに供給過多で、日本が特定国からの人材の受け入れということに拘ることがなければ、日本が外国人材を採用できなくなるということは当面起こりえないでしょう。日本の外国人増加は、日本が特別に選ばれているというよりも、途上国から先進国への大きな人の流れのなかで、アジアにおける終着点の1つとして日本が存在しているという構造的な要因が大きいです。

 また外国人材を受け入れている他の先進国との競争という点についてですが、日本の周辺でライバルと見なされている先進国、韓国(人口5,171万人)、台湾(同2,342万人)、オーストラリア(同2,666万人)をすべて合わせても日本の人口1億2,450万人には満たないため、仮にこれらの国が日本と同規模で人材を採用しても、世界で働きたい人の数の方が圧倒的に多い状況が継続すると思われます。

 実際に、海外へ働きに出る370万人の大半は中東(サウジアラビア、UAE、カタール等)や隣国へ移動しており、彼らの多くは可能なら先進国に行くことを望んでいると思われますが、費用などの事情で行ける人はごくわずかです。

送出し国の所得 今後の見込み

 ──送出し国の所得増加は外国人材の動向にどのような影響を与えるでしょうか?

 杉田 送出し国の所得が向上すると、外国人材の移動の質はたしかに変化します。たとえば、中国ではGDPが1.2万ドルを超えたあたりから、技能実習で来る人が減り、留学が増加しました。これは、留学を入り口として技術・人文知識・国際業務などのホワイトカラーとして来日する人が増えたことを意味します。

 しかし、タイやベトナムといったほかの主要送出し国がすぐに中国と同水準まで所得が上がるとは見込みにくい状況です。これらの国々がGDP成長を続けたとしても、タイレベルに到達するには約10年、インドネシアに追いつくには20年かかると思われます。

 よって多くの国からのフィジカルワーカーの供給は今後も続くでしょう。また、現在は北米への移住も難しくなってきています。途上国から先進国への大きな流れのなかで移動できる先は多くなく、日本は雇用吸収能力が高い受け入れ国として機能し続けると思われます。

外国人材の受け入れと
未来の日本の在り方

 ──従来、日本にやってくる外国人労働者は一時滞在型と言われていました。しかし、人口減少が続くとなれば、定住型の外国人労働者を増やすことについて議論が高まることが考えられます。

 杉田 今後の人手不足を補うために「一時的な滞在」外国人を増やすのか、それとも「定住型」外国人を積極的に受け入れて人口減少そのものに歯止めをかけるのか、この選択は国や社会の在り方を大きく変える可能性があります。もし後者を選び、たとえば日本の人口を1億2,000万人で維持するために毎年85万人以上の外国人を定住型で受け入れるとすれば、日本の社会の中身は大きく変わるでしょう。

 日本は実質的にモノカルチャーに近い状況であり、異なる文化を持つ人々を受け入れるための土壌や設備(多言語対応の行政サービス、道路標識、教育機関など)がほとんど整っていません。このような状況で大量の定住外国人を迎え入れると、他の先進国が経験してきたように、「移民に仕事を奪われた」といった議論が生じたり、社会の分断を招くリスクが高まる可能性もあります。

 また、日本の将来の経済構造を考えるうえでも、外国人材をどのように受け入れるかは重要な問題です。先進国が中間層を支えるには手厚い製造業の存在が有効です。資本集約型の製造業は、個人の能力を問わず設備投資による生産性によって、中間層へも比較的高い所得分配を可能にするためです。しかし、先進国では製造業の維持が難しくなっていくのがグローバル経済の傾向です。

 この状況を踏まえ、日本の将来のかたちとして2つの選択肢が考えられます。1つは所得水準を非常に高く保ち、学歴も高くして、金融やITといった高付加価値産業に特化する「大きなシンガポール」のような国を目指すことです。

 この場合、AI化によって中間層のホワイトカラーは不要になると思われ、人口減少はむしろ有利に働くかもしれません。その代わり、AIに置き換わらないレベルの優秀な人材を世界から引きつけ続ける戦略が必要となります。もう1つは、所得を抑えつつも生産効率の高い製造業を維持し、人口もある程度維持する「大きなタイ」のような国を目指すことです。どちらの戦略を選択するかによって、外国人材の活用方法も変わってきます。

 人手不足対策として「一時的な滞在者」でギャップを埋めることは、どちらの戦略を取るにしても当面の対策として必要です。しかし、定住型の受け入れを増やすかどうかは、まさに日本が将来どのような国を目指すかという国民的議論を経て決定すべき課題です。

【寺村朋輝】


<PROFILE>
杉田昌平
(すぎた・しょうへい)
弁護士(東京弁護士会)、入管届出済弁護士、社会保険労務士、行政書士。慶應義塾大学大学院法務研究科特任講師、名古屋大学大学院法学研究科日本法研究教育センター(ベトナム)特任講師、ハノイ法科大学客員研究員、アンダーソン・毛利・友常法律事務所勤務などを経て、現在、(弁)Global HR Strategy 代表社員弁護士、社会保険労務士法人外国人雇用総合研究所 代表社員、(独)国際協力機構国際協力専門員(外国人雇用/労働関係法令および出入国管理関係法令)、慶應義塾大学大学院法務研究科・グローバル法研究所研究員。


<COMPANY INFORMATION>
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“Beyond Borders with Compliance 国境を越えるというすべての挑戦を、法が支える世界を目指して”をMISSIONに活動するBusiness Immigration Law Firm。東南アジア・南アジアを中心とした諸外国と日本との間の人の国際移動を円滑に行うための一切の手続を行う。在外経験のある専門家が集まり、企業活動に関わる入管業務や外国人雇用に関する法務・労務を従来の企業法務のレベルで提供することを目的に2020年12月設立。

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