芸術家の覚悟
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劇団エーテル主宰・画家 中島 淳一 氏
直感と本能の赴くままに
「ニューヨークで個展と一人演劇の公演をするのもいいけれど、福岡に凄い人がいると噂されるような芸術家になって欲しいな」というメールが知人から入った。数年前、マンハッタンのメキシコ料理店のカウンターでバーテンダーにカクテルを注文している時だった。
ふと華夷弁別(かいべんべつ)という吉田松陰の言葉が蘇った。己の生まれし処を世界の中心と考えるという思想である。松陰を舞台で演じて以来、その言葉は折に触れて脳裏を過ぎる。いつでも何処でも、己が立っているところがアトリエであり、舞台であると信じ全身全霊の旅を続けてきたが、はたして福岡で私という存在感を示せているのか。福岡の観客の魂を震撼させるほどの舞台を出現させたことはあるのか。甚だ疑問だが、もはや過ぎ去りし日々のことはよしとしよう。
気がつけば来年は古希。されど年齢など気に留めている暇はない。芸術家は生きている限り、ただひたむきに直感と本能の赴くままに蝶のように乱舞するしかない。認められなければ華やかな宴に招かれることもなく、奇人変人狂人と呼ばれ闇に消え去る運命にある。そんなことは百も承知だ。だが、認められようという世俗的な欲に駆られると必ず道を外す。作品の帰する結果を思い、報酬への期待感に胸を膨らませる芸術家に芸神は決して微笑んではくれないのだ。
真の芸術とは
芸術の根源的動機はキリストのように純粋でなければならない。自分の名利のために創作するのではなく、人類のために喜んで茨の道に立つ覚悟こそが求められているのだ。何よりも自由を愛するからといっても、放埒であってはならず、断じて人倫を蹂躙してはならない。さりとて、劇作家は空想のなかでは神から悪魔までを演じる万能の魔術師でなければならない。神の呼吸、悪魔の鼓動を感じながら、役者の肉体と魂に注入する言葉を紡ぐ。差し迫った公演のためだけではなく時空を超えた未来の観客のために心血を注ぐのである。貴婦人の涙腺は美しい睫毛を震わせるだろうか。人生の苦境の淵で呻吟している人々の魂に希望の火を灯すことはできるのか。いや、真の芸術は感動を超え、人類の運命を創造するほど崇高なものではないのか。それくらいの気概をもって創作をしなければ、人生の終焉に残るのは苦い後悔だけであろう。
<INFORNATION>
代表:中島 淳一
所在地:福岡市西区拾六町2-6-6
TEL:092-883-8249
URL:https://junichi-n.jp/
<プロフィール>
中島 淳一(なかしま じゅんいち)
1952年、佐賀県唐津市生まれ。75〜76年、米国ベイラー大学留学中に、英詩と絵を書き始める。各国の絵画展で多くの賞を受賞。86年より、脚本・演出・主演の一人演劇を開始。2017年にはニューヨーク・日本クラブのギャラリーで個展を開催するなど、国内外で、日夜、精力的な芸術創作活動を行っている。劇団エーテル主宰。関連キーワード
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