2024年12月22日( 日 )

いま、ここから。新しい歴史が始まる 劇団わらび座 リスタートに向けた決意(後)

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(一社)わらび座 代表理事 今村 晋介 氏

わらび座新代表に聞く――どう収益化するのか

(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 児玉 直)

一般社団法人「わらび座」の代表理事に就任した、今村晋介氏
一般社団法人「わらび座」の代表理事に就任した、
今村晋介氏

 ――倒産関連の記者会見には数多く立ち会いましたが、オンライン配信は初めての体験でした。東証一部上場企業である(株)システムソフトから事業再生の支援を受けるとのことですが、すでに経営支援は受けているのでしょうか?

 今村晋介氏(以下、今村) システムソフトの経営幹部の皆さまとお会いして、まさに“目から鱗が落ちる”という体験をさせていただきました。チケット収入だけに頼るのではなく、公演ができなくなったとしても安定して組織を継続できる基盤をつくらなければならないというご提案のもと、今は毎日のようにご指導をいただいています。

 ――仕事に一生懸命になるほど本業に没頭してしまい、周りのことは案外わからなくなりがちです。すばらしい芝居をすればお金はついてくるというのが理想ですが、なかなかそうはいきません。

倒産関連 オンライン配信 今村 これまでの演目をマネタイズ(収益化)でき、財産になることに気づかされたのは大きいですね。実は、わらび座創始者の原太郎が常々引用していたのが、世阿弥の『風姿花伝』にある「この芸とは、衆人愛敬をもて、一座建立の寿福とせり」という一文でした。つまり、人々に愛され、敬われてこそ一座の幸せがあるということです。好き勝手に表現するのが芸術ではない、人から喜ばれてこその劇団一座なんだと。そういうこともあって、コロナ禍のなかではどのような劇団が人に必要とされるのかを考えてきました。一般の企業ではオンライン勤務が多くなって社員同士の絆を構築できないなかで、私たちの発信するものがお役に立てるのではないかと、今後の可能性として感じています。

 これまでは公演を基にした収入しか想定していませんでしたが、うまくいけばさまざまなコンテンツが収益化されることで事業として安定させることができます。この経営モデルで再生していくことは、ほかの同業の方たちにも勇気を与えるのではないかと思います。

 ――創立から70年間の動画を拝見しましたが、昭和60(1985)年から平成5(93)年ごろまでが事業としての上り坂で、修学旅行の子どもたちがたくさん芸術村にてきいました。海外公演もされたようですね。

 今村 当時の時代背景というか、何か面白いことをやろうとか、我が町に劇団を呼ぼうとか、そんな空気があちらこちらにあった時代でしたね。平成初頭にバブルがはじけると、共同体がバラバラになってしまったような気がします。舞台でも自分の興味のある分野だけにしか目がいかなくなり、個人が分断された時代に入っていったという感覚はあります。そういうものに合わせてわらび座自体もかなりかたちを変えて、ミュージカルに挑戦してみたり、温泉を掘ったり、地ビールをつくってみたり、可能な限り時代に合わせてきましたが、コロナ禍における急激な変化にはさすがについていけませんでした。

 ――世の中の動きが先行していたのですね。しかし、そのなかでも根本から考え方を変えることはなかなかできないことです

 今村 私が入社したのが2002年で、ずっとチケットをどうやって売りさばくのかを模索してきました。そのときに実感したのですが、人とのつながり、とくに苦労して獲得した人とのつながりに非常に助けられたということです。たとえば最初のころに関係を築いた方とは、いまだにお付き合いがあります。一方で、人とのつながりに頼ったチケット販売は経営としては効率の悪い面があり、数字に見合わない部分もありました。そうした古い手法に代わるものを生み出せなかったのが悔やまれます。

 ――今後わらび座はどう変わっていきますか。あるいは、何を変えずに継承していくのですか

 今村 コロナ禍で大変ななか、70周年の舞台を何とかやり遂げることができました。その過程で、これまでわらび座の先輩たちが成し遂げたことも実感しましたし、引き継いでいかなければならない財産を会社全体で共有できたと思います。応援いただいた皆さまには多大なご迷惑をおかけすることになりましたが、70年事業そのものを存続させることが社会の役に立つことになると確信しています。わらび座の舞台を見ることで生きる元気をもらったというご意見などをたくさんいただいています。これからも舞台をつくり続けることで社会に対して何らかの良い影響を与えていきたい、今はそう決意を新たにしています。そこにこそ、再生のための道筋を見つけることができるのだと。ぜひ、今後の“新生”わらび座に注目してください。

(了)

【データ・マックス編集部】

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