「政商」SBI北尾吉孝CEOの野望~金融庁OBを迎え入れ、大願成就に王手(2)
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新生銀行が白旗を掲げた。買収防衛策を取り下げ、SBIホールディングス(HD)傘下に入ることを決定したのだ。SBIHDによる新生銀の株式公開買い付け(TOB)が成立すれば、北尾吉孝社長CEOが掲げる「第4のメガバンク構想」実現に向けて大きく前進する。北尾氏の銀行買収の狙いは何か。竹中平蔵・元金融相、五味廣文・元金融庁長官、そして金融庁という3つのキーワードのもとに説明していく。
北尾氏の野望は「銀行を傘下にもつこと」
SBIHDの北尾吉孝社長CEOの思惑はこうだ。新生銀を買収し、地銀連合の核に据える。旧長銀が発行した「リッチョー」や「ワリチョー」といった、かつての金融債で築かれた地銀との関係は、今も新生銀に残る。新生銀を核とする「第4のメガバンク」をつくり、SBIが大株主として君臨するというシナリオだ。
ソフトバンクグループから決別した北尾氏が1999年にSBIHDを創業してから20年余りで、証券から暗号資産、ヘルスケアまで幅広い事業を展開する金融コングロマリット(複合企業)に成長した。残る悲願が銀行業への本格進出だ。
北尾氏は19年に「第4のメガバンク構想」を掲げ、10行近い地銀に次々、出資したが、完全なコントロール下に置いている銀行はない。
そこに格好の獲物が目の前に現れた。筆頭株主の米投資ファンド、JCフラワーズが手を引いた新生銀だ。
米ブルームバーク通信(21年9月30日付)は北尾氏の野望をこう報じた。
〈SBIHDの総資産は約7兆円。対する新生銀行は約11兆円。TOBが成立すれば、グループの総資産は2倍以上に膨らむ。事業ポートフォリオに占める銀行の割合も飛躍的に大きくなる。証券会社が大手行を傘下に収めるのも日本で初めてだ。〉
「小が大を呑む」買収によって、北尾氏は大手行・新生銀のオーナーの座を手に入れることができるのである。
金融庁からの天下りを次々と受け入れる
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新生銀行はどうなる?SBIは買収可能か?~米ファンドに食い物にされた20年(前)北尾氏は野望の達成に向けて、役員陣の金融庁シフトを敷いた。霞が関からのSBIへの天下りの数は「異例」を通りこして「異常」だ。
6月29日付で元財務省事務次官の福田淳一氏と元農林水産省事務次官の末松広行氏が社外取締役に就任した。16年6月から社外取締役に就いている元金融担当相の竹中平蔵氏と合わせて、15人の取締役のうち3人が政官界のトップ経験者になる。
顧問には渡辺秀明元防衛装備庁長官、常勤社外監査役には市川亨金融庁検査局総務課主任統括検査官、アドバイザリー・メンバーには、五味廣文元金融庁長官が名を連ねる。
SBIHD傘下の中核である(株)SBI証券の執行役員には元証券取引等監視委員会統括責任者の木村行成氏と山崎浩志氏。
SBI生命保険(株)の代表取締役社長には小野尚元財務省関東財務局長、保険監督経験者を取締役や執行役員として採用している。保険会社を統括する持株会社のSBIインシュアランスグループ(株)の会長兼社長は乙部辰良元財務省関東財務局長、執行役員は元金融庁監督局のOB。今や、金融庁の出先である「SBI出張所」と皮肉られる有り様だ。
菅義偉首相の後ろ盾を得る
北尾氏は政界にも人脈を広げる。
〈午前7時25分、官邸発。午前7時33分、東京・虎ノ門のホテル「The Okura Tokyo」着。同ホテル内のレストラン「オーキッド」で北尾吉孝SBIホールディングス社長と会食。午前8時39分、同ホテル発〉
2020年10月5日の首相動静は、菅義偉首相がインターネット金融大手SBIHDの北尾吉孝社長と約1時間朝食をしたと伝えた。
後日、北尾氏は菅首相(当時)と朝食を共にした際、地方銀行に出資して収益底上げを図る「地銀連合構想」について、「『いいじゃないですか』と言われた」と評価されたことを明らかにした。
総裁選中、菅氏が「将来的には(地銀の)数は多すぎるのではないか」と発言した際、SBIの北尾社長が政策に関与しているのではないかとささやかれた。
北尾氏の後ろ盾だった菅政権が倒れ、旧日本長期信用銀行出身の岸田文雄政権が発足。新生銀が有利との観測が囁かれたものの、SBIHDは金融庁からの天下りを多数受け入れた効果により、新生銀の反撃を封じ込めた。
(つづく)
【森村 和男】
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