【ラスト50kmの攻防(27)】未整備の新鳥栖-武雄温泉間に低速FGТは可能か(後)
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来秋の西九州新幹線武雄温泉~長崎間の開業まで1年を切った。ここにきて佐賀県は、国に未整備区間の新鳥栖~武雄温泉間に時速200kmの低速FGТ(軌間可変電車)の投入を提案した。高速FGТの開発を断念した国が受け入れる可能性は、はたしてあるのか。
低速FGТ開発のメドは立っているはず
国交省と佐賀県の5回目の「幅広い協議」。低速FGТ協議をめぐる川島雄一郎幹線鉄道課長と山下宗人地域交流部長がせめぎ合う中、口を挟んだ高塚明地域交流部副部長現の発言で流れが決まった。
高塚氏によると、2005年6月、当時の幹線鉄道課長がすでに時速220km~240kmのFGТ実用化のメドが立ち、今後は270kmまでの開発を引き続き進める、と佐賀県側に伝えたという。
この時期前後の経緯はこうだ。04年12月、当時の古川康知事(現・自民党衆院議員)が長崎線肥前山口~諫早間はJR九州が運行し、鉄道は佐賀県、長崎県が保有する「上下分離方式」を条件に経営分離に同意すると表明。政府・与党は両県の調整を待って軌間可変電車方式(FGТ)による整備を目指すと申し合わせた。
しかし、佐賀県では経営分離に対する沿線市町の同意が得られず、すべての同意取り付けが終わったのは06年3月だった。そして08年4月に武雄温泉~諫早間がスーパー特急(FGТ)方式で着工した。
この間、職員が国と市町の間で板挟みに苦しんでいたのは想像できる。高塚氏は、当時の思いを代弁したのだろう。
「その現場の経緯を詳らかに知っているわけではない」。川島氏は深入りを避けながら「低速FGТであっても明確に技術的にメドが立っていない」と拒んだ。山下氏は「(あなたが)メドが立っていないか確認されていないだけで、私はもうできている(開発済み)と本気で思っている」と追撃。さらに国交省が武雄温泉駅の対面乗換をフル規格に切り替える理由の1つに時間短縮を挙げている点を突き、「200kmの低速FGТでも長崎~博多間は、全線フル規格と比べて4分しか違わない」と指摘した。
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【ラスト50kmの攻防】長崎新幹線〈新鳥栖―武雄温泉〉の周辺を探る押されたかのように川島氏は、低速FGТを次回協議対象にすることに同意。11月24日、斉藤鉄夫国交相も追認し、「全国の新幹線網がつながることが重要。九州、西日本の未来にどんな整備の在り方が望ましいか議論を積み重ねる」と語った。
鉄道新線の建設か、新型車両の開発か
整備方式をめぐる国交省と佐賀県の協議は、鉄道新線の建設か、新型車両の開発か――。どちらを優先した方が、国民のメリットがあるかの問題でもある。その視点に立って新型車両の開発を再考するのもムダではない。何より佐賀県の不信感を払拭するには欠かせない。
FGТの代名詞、タルゴ社が開発した軌間可変電車はスペインの鉄道網再編につながった。1981年、フランスの高速列車TGVのバルセロナ乗り入れを機にスペインは標準軌新線を建設。現在、首都マドリードとバルセロナ、あるいは北西部バリャドリッドとの間に標準軌の高速新線が走り、広軌の在来線と直通する軌間可変電車が活躍する。同社のホームページには時速330kmの「タルゴ・アヴェリル」と「タルゴ350」が掲載されている。
日本も1993年、タルゴ社からライセンスを取得したが、FGТは実用化されていない。スペインなど欧州の鉄道は、1両~2両程度の動力車 (機関車)で列車をけん引または押す「動力集中方式」。列車の多数の車両が動力をもつ「動力分散方式」の日本と異なるため、日本の技術がスペインに劣るわけではない。
事実、日立製作所は10月、スペイン初の民間高速鉄道会社に高速鉄道の車両納入と保守の契約を結んだ。高速車両は分散動力方式の採用が世界の潮流になりつつあるとされており、日本メーカーがFGТ開発に力を入れなくなったのかもしれない。
いずれにしろ、国交省は低速FGТがなぜダメなのか、技術面だけでなく多角的に佐賀県に説明してほしい。FGТは3次試作車まで開発され、山陰線米子~安来、日豊線別府~佐伯、予讃線多度津~松山などで走行試験を繰り返した。
偶然かもしれないが、各路線の沿線自治体はFGТによる新幹線との直通を望んでいた。ミニ新幹線が走る山形・秋田新幹線の沿線自治体なども含め、潜在的な低速FGТの需要は全国的に高いとみられる。
来秋は部分開業とはいえ、九州新幹線長崎ルートが1973年11月の整備計画決定以来49年目にして初めて前に進む。残る新鳥栖~武雄温泉間は九州・山陽新幹線との接続区間になり、フル規格であれ、FGТであれ、全国の高速鉄道網に組み込まれる。どちらの選択がベターなのか。人口減少で先細る地方の再生も視野に入れた熟議が望まれる。
(了)
【南里 秀之】
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