【常勝企業がなぜ負けた(2)】エイチ・アイ・エス(HIS)~創業者・澤田氏、増資引き受けのため澤田HDを売却(後)
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新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染者が確認されたものの、国内のコロナ感染者数は減少し、大打撃を受けた旅行業界にも需要回復の兆しが見え始めている。政府が再開を検討する観光支援事業「Go Toトラベル」への期待が高まっているが、その矢先に大手旅行会社、エイチ・アイ・エスの子会社で「Go Toトラベル」の不正が発覚した。
元ソニー会長が取締役会議長を務める投資会社に売却
澤田HDの売却先は、投資会社のMETA Capital(株)(東京都港区)。元ソニー(株)会長・出井伸之氏が取締役会議長を務める投資ファンドだ。METAが組成したウプシロン投資事業有限責任組合が20年2月20日、澤田HDのTOB(株式公開買い付け)を実施すると公告した。約208億円を投じて、50.1%を取得して子会社化する計画。
澤田HDの筆頭株主で会長・澤田氏(所有割合26.81%)と資産管理会社(同2.77%))はTOBに応募する契約を交わしている。すべてを売り渡せば、手にする額は約123億円。それをHISの増資を引き受ける原資にする。
しかし、TOBは今年7月16日に不成立となるまで343日におよぶ異例の展開となった。モンゴル中央銀行が支配株主の異動について事前承認を与えない状況が続いたためだ。
事態は急展開する。TOB不成立後に、モンゴル中央銀行から事前承認を得られた。ウプシロン投資事業は、澤田氏とワールド・キャピタル(株)、(有)秀エンターの3者から相対取引で株式を取得した。
その結果、11月1日付で、筆頭株主が異動した。ウプシロン投資事業が32.01%を保有する筆頭株主になり、筆頭株主だった澤田氏の保有比率は26.81%から12.58%に減少し、3位株主に後退した。
12月14日の臨時株主総会で、新経営体制が発足。商号はHSホールディングスに変更、澤田氏は会長を退任したのである。
新オーナーは、セイコー本家の「御曹司」
HSホールディングスの新たなオーナーは、社外取締役に就いた服部純市氏。投資会社META Capitalに個人で260億円の大金を拠出。これが、澤田HD買収の軍資金となった。
服部純市(戸籍上は純一)氏は、世界的時計ブランド「SEIKO」を生み出した服部金太郎翁の直系のひ孫にあたり、本家の長男として、次のセイコーグループの総帥と目されていた。
2006年11月、グループの製造部門を担うセイコーインスツル(株)(SII)の臨時取締役会で、服部純市会長が解任された。本家の御曹司を追放するクーデターの舞台裏を『週刊ポスト』(2006年12月8日号)がスッパ抜いた。
〈解任された服部セイコー創業家の御曹司・服部純市には、経営を指南する“美人占い師”がいた。タイへの集中投資、子会社の上場延期、環境ビジネスへの進出と、事業を迷走させる「お告げ経営」に振り回された役員らは、「殿、ご乱心」とばかりに2人をセットして引導を渡した。“占い師”のもう1つの顔は東条英機元首相の孫娘(である)〉
セイコーを追われた服部純市氏は17年に、ソフトウエア開発会社、ジャパン・データコム(株)の代表取締役に就き、経済界に復帰。今回、澤田HDの買収資金を拠出し、オーナーの座に就いた。「美人占い師のお告げか」とひとしきり話題になった。
「旅行業」から脱け出せなかった、悔やむ澤田氏
澤田秀雄会長兼社長は昨年12月11日の大リストラを発表した席で、不動産売却に言及。コロナ禍が長期化する場合は、本社やハウステンボスの売却も選択肢とした。ハウステンボスは「売却すると700億~800億円になる」と具体的金額を示した。
HISは本社を売却。澤田氏は、澤田ホールディングスを売却した。次は、長崎県佐世保市のテーマパーク、ハウステンボスを売却する番だ。
澤田氏は、流通専門紙『日経MJ』電子版(10月3日付)のインタビューで、『「旅行業」超えに挑む』と語っている。
ハウステンボスについては、すっかり情熱が醒めた様子がうかがえる。
〈ハウステンボスは苦しい状況です。今は入場制限はかけていませんが、人の移動そのものがなくなり、売上が低下しています。
立て直しを頼まれて10年くらい情熱をそそぎました。私は『再生屋』みたいなところがあります。多くの人ができないことをやってみたいと思う。それが地域のためになるならやってみたいのです〉
澤田氏がハウステンボスに情熱を失った理由は、NetIB-Newsの「【コロナで明暗企業(8)】海外旅行が蒸発したエイチ・アイ・エス~ハウステンボス売却計画の衝撃!(1)」を参照していただきたい。
では、HISはどこに向かうとしているのか。
〈今はHISといえば旅行業ですが、4~5年後にはそう言われなくなるのではないでしょうか。トータルグローバル産業とでもいえるかもしれません。(中略)企業の寿命は30年ほどといわれるなか、旅行業で創業してもう40年経ちました。派生して新しいことを始めなければ成長できない。それをもっと早くやらなかったから、いまコロナ禍でこんな目に遭っているのです〉
コロナ禍で、HISの海外旅行”一本足打法”体質が浮き彫りになった。コロナ前と比べて、連結売上高は85%激減。旅行業界で、最も打撃が大きかった。ベンチャー起業家の雄、澤田氏は2022年2月に71歳を迎える。ハウステンボスを蘇らせたころのように若くはない。「旅行業」を超える新規事業を生み出すことができるだろうか。
(了)
【森村 和男】
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