2024年11月24日( 日 )

西九州新幹線整備の課題とは(後)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

実現可能性低い「フリーゲージトレイン案」

 国は佐賀県に対し、フリーゲージ断念に至る技術的な根拠を示す必要に迫られている。

 このように国と佐賀県は、考え方が異なることは事実であるが、フル規格新幹線やフリーゲージトレイン以外の方法も紹介したうえで、筆者の考え方も提示したい。

 フル規格新幹線でも、フリーゲージトレインでもない方法といえば、「ミニ新幹線方式」と「スーパー特急方式」が挙げられる。

 前者は、山形新幹線や秋田新幹線で実現しているが、この方法は在来線のゲージを新幹線と同じゲージ幅に変える方法である。これを行うとなれば、橋梁や駅のプラットホームの改良をともなうだけでなく、工事期間中は在来線を止めて、バスで代行輸送を行う必要がある。山形新幹線や秋田新幹線であれば、ローカル輸送が少なかったため、この方法でも対応が可能であった。

 だが武雄温泉~新鳥栖間には、佐賀市などがあるため、通勤・通学の需要が多く、バスでは到底運びきれないため、非現実的である。仮に西九州新幹線が、全線フル規格で建設されたとしても、新鳥栖~武雄温泉間が並行在来線として、JR九州から経営分離されることはないと、筆者は見ている。

 在来線のゲージのままで高速化する「スーパー特急方式」であるが、在来線には踏切が多く、安全性の面からも、現在の130㎞/hが限度である。完全に高架化すれば踏切は解消されるため、200㎞/h程度まで最高運転速度を引き上げることが可能になるが、この方法では、費用を要する割に所要時間の短縮効果が少なく、かつ武雄温泉で乗り換えを強いられるため、導入する利点がない。

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 筆者の考えは、「武雄温泉~新鳥栖間はフル規格新幹線で建設するが、在来線特急は存続させる」である。フリーゲージトレインの開発にメドが立ったとしても、新鳥栖~博多間で200㎞/hしか出せないフリーゲージトレインなど、JR九州としては運転して欲しくないというのが本音である。そんなことをされると、ダイヤ設定能力が落ちてしまう。また、九州新幹線の博多~鹿児島中央ルートは、将来的に最高運転速度を300㎞/hぐらいまで引き上げたい筈である。300㎞/h運転の列車が走る線路に、最高速度が200㎞/hしか出せないフリーゲージトレインなど、運転して欲しくないだろう。

 そうなるとフリーゲージトレインという案も、実現する可能性が低いといえる。

 西九州新幹線が、仮にフル規格で博多まで開業したとしても新幹線の恩恵に享受しない長崎県第二の都市・佐世保や、ハウステンボス、早岐、そして佐賀県の有田へ行く人にとれば、武雄温泉で乗り換えを強いられ、ある面では不便になる。

 またハウステンボスは、小さい子どもを連れた家族が訪問したりするため、博多からの直通列車が欲しいところである。

 さらに西九州新幹線が全線フル規格で開業した場合、佐賀県北西部に位置する伊万里などを訪問する人に対し、武雄温泉~伊万里間やさらに延長して松浦、たびら平戸口間に、特急列車を設定すれば良いだろう。

「地元不在」で議論不十分

ハウステンボス号 イメージ    有田から伊万里や松浦、平戸へは、松浦鉄道という第三セクター鉄道に乗り入れるかたちになる。松浦鉄道は、国鉄松浦線を転換して第三セクター鉄道であるため、経営的に苦しい。そこに少子高齢化や過疎化が加わって、一段と厳しさが増している。

 松浦鉄道沿線から、武雄温泉へ乗り入れる特急列車が運転されれば、京阪神や岡山・広島からの訪問者が増え、松浦鉄道の活性化が期待される。

 この場合、車両はJR九州が製造するが、松浦鉄道に入れば、松浦鉄道の乗務員が担当するようにすれば良い。

 佐賀県は、全線がフル規格新幹線として開業した場合、在来線の特急列車が廃止されるのを恐れている。博多~長崎間を結ぶ「かもめ」は、廃止されるのも致し方ないかもしれないが、博多~佐世保間で運転される「みどり」や博多~ハウステンボス間で運転される「ハウステンボス」は、博多~早岐間は併結で運転して、早岐で佐世保行きとハウステンボス行きに切り離す運転で継続させるのが望ましい。

 昨今は、佐賀県もフル規格新幹線については、譲歩の余地を示しつつあるが、地元不在で議論が不十分だという認識は変わっていない。

 国も「フル規格新幹線が開業したら、在来線特急は全廃」というように、何が何でも新幹線に誘導する政策を展開するだけではいけない。西九州新幹線がフル規格で開業したとしても、佐世保や早岐、ハウステンボス、有田などは恩恵を享受できない。在来線特急を存続させるだけでなく、武雄温泉で松浦鉄道へ乗り入れる特急列車を設定し、西九州新幹線の速達性を、より広い範囲まで享受できるような施策が必要だといえる。

(了)

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