2024年11月24日( 日 )

どうなる暴力団 工藤会トップに死刑判決出たが……(1)

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元朝日新聞編集委員 緒方 健二 氏

 日本で唯一の特定危険指定暴力団「工藤会」(本拠・北九州市)のトップに2021年8月24日、福岡地裁が死刑判決を言い渡しました。ナンバー2とともに元漁協組合長殺害など福岡県内であった市民襲撃4事件に関与したとして殺人などの罪に問われていました。現役の指定暴力団トップが死刑判決を受けるのは初めてとみられ、工藤会以外の暴力団関係者にも衝撃を与えたようです。1992年に暴力団対策法が施行されてから間もなく30年、日本警察の悲願でもある暴力団壊滅は死刑判決を機に実現するのでしょうか。

判決は

判決 イメージ    判決の対象となった事件は①元漁協組合長の男性(当時70歳)射殺(1998年2月、北九州市の路上)、②元福岡県警の男性警部銃撃(2012年4月、北九州市の路上)、③女性看護師刺傷(13年1月、福岡市の路上)、④男性歯科医師刺傷(14年5月、北九州市の駐車場)です。

 これらについて福岡県警は14年9月から、工藤会トップで「総裁」の野村悟被告(75)と、ナンバー2で「会長」の田上不美夫被告(65)を断続的に逮捕しました。福岡県警だけではなく警視庁や大阪府警なども捜査に加わった、日本警察挙げての大規模捜査でした。組員約3,600人を擁する国内最大組織、山口組(本拠・神戸市)ならいざ知らず、組員約270人で勢力範囲が福岡、山口、長崎の工藤会対策にこれだけの態勢で臨むのは異例です。「首脳を逮捕し、二度と娑婆に復帰させぬことで組織をつぶす」(警察庁幹部)との意気込みで、事件捜査に定評のある警察官僚複数を福岡県警に送り込み、検察や国税とも連繋して臨んだ「頂上作戦」です。「頂上」は組織トップ級の首脳を指します。

 身柄送致を受けた検察は両被告を殺人、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)、銃刀法違反の罪で起訴しました。19年10月の初公判から数えて63回目の判決公判で、福岡地裁は野村被告に求刑通りの死刑、田上被告に無期懲役(求刑は無期懲役、罰金2,000万円)を言い渡したのです。両被告はこれを不服として翌8月25日、福岡高裁に控訴しました。

 両被告は一貫して無罪を主張してきました。事件の実行犯への指示や指揮についての直接的な証拠がないためです。検察側は、元組員や捜査員ら延べ90人を超える証人尋問などで「間接証拠」を積み重ね、さらに下位の者が上位の者に絶対服従の「上意下達」という暴力団組織の特異性を主張してきました。

 判決は「両被告が意思疎通しながら最終的には野村被告の意思により決定された」と結論付けました。4事件の被害者がすべて一般市民であることに触れ、「極めて悪質な犯行で地域住民や社会に与えた影響は測り知れない」とも指摘しました。

 4事件のうち被害者が亡くなったのは1件です。これまでの判例に照らし野村被告について死刑ではなく無期懲役ではとの見方もありましたが、判決は「被害者が1人の場合でも保険金や身代金目的の殺人事件では死刑が選択される傾向にある」としたうえで「反社会的集団である暴力団組織により計画的に実行されている点でもはるかに厳しい非難が妥当。人命軽視の姿勢が著しく、極刑の選択がやむを得ないと認めるほかはない」と結論付けました。

 主文が告げられた後、野村被告は裁判長に向かって「公正な裁判をお願いしていたのに全然公正じゃない。生涯このことを後悔することになる」「推認、推認」などと言ったそうです。田上被告も裁判長に「ひどいねえ、あんた、〇〇さん」と呼びかけたといいます。

 脅しと解釈されかねない発言です。弁護団が後日、地元記者団に「真意」を説明しました。それによると野村被告は「こんな判決を書くようでは裁判官としての職務上、生涯後悔することになるという意味で言った。脅しや報復の意図で言ったのではない」と語ったそうです。

 判決確定までにはまだかなりの時間を要すると思われます。

(つづく)


<プロフィール>
緒方 健二
(おがた けんじ)
緒方 健二 氏元朝日新聞編集委員(警察、事件、反社会勢力担当)。1958年生まれ。毎日新聞社を経て88年朝日新聞社入社。西部本社社会部で福岡県警捜査2課(贈収賄)・4課(暴力団)、20余年いた東京本社社会部で警視庁捜査1課(地下鉄サリンなどオウム真理教事件)・公安、国税、警視庁キャップ(社会部次長)5年、社会部デスク、編集委員、犯罪・組織暴力専門記者など。2021年5月に退社。

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