どうなる暴力団 工藤会トップに死刑判決出たが……(2)
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元朝日新聞編集委員 緒方 健二 氏
日本で唯一の特定危険指定暴力団「工藤会」(本拠・北九州市)のトップに2021年8月24日、福岡地裁が死刑判決を言い渡しました。ナンバー2とともに元漁協組合長殺害など福岡県内であった市民襲撃4事件に関与したとして殺人などの罪に問われていました。現役の指定暴力団トップが死刑判決を受けるのは初めてとみられ、工藤会以外の暴力団関係者にも衝撃を与えたようです。1992年に暴力団対策法が施行されてから間もなく30年、日本警察の悲願でもある暴力団壊滅は死刑判決を機に実現するのでしょうか。
「勉強会」開く暴力団も
この判決は、ほかの暴力団にも影響をおよぼしたようです。「末端の組員が逮捕されたら、実際にその組員に指示や命令をしていなくてもトップが逮捕されるのではないか」(関東の暴力団関係者)との不安が広がっています。警察幹部によると、「勉強会」を開いてトップに捜査がおよばないための対策を検討する組織もあります。
組員関与の犯罪で、トップの責任を問える仕組みはすでにあります。08年改正の暴対法で、組員が組の威力を利用して資金を得た場合、組の代表者も賠償責任を負うと規定されました。これを活用してトップの責任を問う動きが広がっています。お年寄りらから大金をだまし取る「特殊詐欺」をめぐっての提訴が目立ちます。
相次ぐ取り締まりで資金獲得に窮する暴力団が頼りにしている手段の1つが、特殊詐欺です。筆者の取材先の組員や元組員も「手っ取り早く確実に大金を得られる」と盛んに関与しています。
詐欺被害者らが指定暴力団・住吉会(本拠・東京)のトップらに損害賠償を求めた東京高裁の訴訟で21年6月、和解が成立しました。被害者側に支払われた和解金は被害金を約3,500万円上回る約6億5,200万円でした。
とはいえこれは民事上の話です。刑事事件にも同じ仕組みが適用されるかといえば難しいでしょう。でも捜査幹部の1人は「今回の判決は、暴力団というのは完全な上意下達のピラミッド型組織であり、末端組員が自分の意思で犯罪に関与することはあり得ないと認定してくれた」と話し、殺人などの重大刑事事件でトップを立件できる可能性が大きくなったととらえています。
これまでも暴力団は表向き「堅気(一般市民)に手を出すな」「薬物犯罪厳禁」「詐欺や窃盗はご法度」と組織に指示していました。ところが実際は上部組織への「上納金」調達などに迫られ、こうした犯罪にかかわる実態が続いてきました。今回の判決を受け、首脳による内部への締め付けが徹底すれば暴力団による犯罪が減る可能性がなくはないですが、私はそう楽観していません。
警察は実態をつかめているのか
警察当局によると20年末現在、全国の暴力団勢力は約2万5,900人です。これは組員ではないが外部にいて組織を支える「準構成員」約1万2,700人を含みます。暴対法施行の1992年には約9万1,000人でした。「波状的な取り締まりで大きく減った」と当局は言いますが、鵜吞みにはできません。暴対法に基づき公安委員会が指定する「指定暴力団」は2020年末現在、全国に24あります。うち山口、九州、沖縄地域に本拠を置く組織は計7あります。
そもそも警察の実態把握に疑問があります。かつては組事務所に組員名を掲げていましたが、いまそんなところはほとんどありません。取り締まりから逃れるためです。捜査員が事務所を訪ねたり、組員と接触したりすることも減ったようです。情報を取るために接触していたつもりが組員に取り込まれ、捜査情報を漏らす捜査員が時折いるためです。警察内部で「非違事案」と呼ぶ不祥事を嫌い、組員との接触を禁じる警察幹部もいます。部下が懲戒処分を受けると自身も監督責任を問われ、昇進や昇任に響くためです。これでは組織を潰すのに有用な事件情報の入手など望めません。そんな幹部が間違って組織犯罪部門の責任者になれば、核心に迫る捜査がますます遠のきます。
私のこれまでの取材では、意図的に組織を抜けて取り締まり対象から外れ、暗躍する層が増えています。山口組の傘下組織にいた男性は、東京に本拠を置く指定暴力団の組員と組んで特殊詐欺に関わり、さらに中国の犯罪組織の指示に従って大金を詐取していました。
中国の犯罪組織の男性に会って日本での犯罪を詰問した際には、なぜか途中で日本の組員と元組員が同席しました。結託して強盗や詐欺を繰り返していることを明かさせました。これらは私の古巣の朝日新聞紙上に書きました。
止まらぬ特殊詐欺の背景
特殊詐欺の標的は主にお年寄りです。加害者側は警察官や銀行員を装って電話をかけ、言葉巧みにお金を支払うよう誘います。警察庁によると21年1月~10月の被害額は全国で約222億円に達しました。
海外の犯罪組織と暴力団、それに複数の組織の元組員が一緒になって特殊詐欺をやる事例も取材しました。詐欺の拠点は中国南部のマンションの一室です。日本国内でスカウトされた元組員らが続々と中国に渡り、この部屋に缶詰状態にされて終日、日本に電話を掛け続けてお年寄りらをだますのです。日本警察は中国で捜査ができません。せいぜい情報提供をする程度です。その後、中国人が詐欺被害に遭うケースが増えたため、中国当局による取り締まりが進みました。そうなると詐欺グループは拠点をタイなどに移して詐欺を続けるのです。
電話をかける先のお年寄り名簿は、「名簿屋」と呼ばれる日本国内のグループから調達しています。名簿屋の1人は元組員で、私の取材に「百貨店の高額商品購入者リスト、一人暮らし高齢者リストが高値で売買される。入手先?それはまあ」と言葉を濁しました。これらの摘発は一部にとどまっています。「所有者をたどれないスマホと口座、それに電話を掛ける『掛け子』をアルバイトで調達すればいつでもどこでも誰にでもできる」(特殊詐欺にかかわる元組員)のですから。
(つづく)
<プロフィール>
緒方 健二(おがた けんじ)
元朝日新聞編集委員(警察、事件、反社会勢力担当)。1958年生まれ。毎日新聞社を経て88年朝日新聞社入社。西部本社社会部で福岡県警捜査2課(贈収賄)・4課(暴力団)、20余年いた東京本社社会部で警視庁捜査1課(地下鉄サリンなどオウム真理教事件)・公安、国税、警視庁キャップ(社会部次長)5年、社会部デスク、編集委員、犯罪・組織暴力専門記者など。2021年5月に退社。関連キーワード
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