2024年11月22日( 金 )

【賢人からの提案(1)】スペインがどんな国か知っていますか?(1)

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福岡大学名誉教授 大嶋 仁 氏

スペイン サグラダファミリア イメージ    スペインといえば「情熱の国」「フラメンコと闘牛」、そんなキャッチフレーズで満足する日本人がかつては多かった。今はなんといってもサッカー王国、レアル・マドリード、バルサの国として知られる。だが、本当のところ、日本人はこの国を何も知らない。

 そもそも日本人が知る西洋はイギリス・フランス・ドイツ、そしてアメリカ。なぜかといえば、これらの国だけが日本近代化のモデルとなったからである。別の言い方をすれば、近代化という尺度で測れないスペインやポルトガルは後進国となる。このような見方が正しいはずがない。

 スペインを理解するには、その歴史を見るしかない。古代はローマ帝国の一部だったが、ゲルマン民族大移動で帝国が崩れ、スペインは西ゴート族が支配する国となった。7世紀になると、今度はイスラム帝国の支配下となる。当時のイスラム帝国は世界一の文明世界。その支配が800年も続いたのだから、スペイン文化の土台はイスラム文明というのが正しい。

 15世紀末にはイスラム勢力が撃退され、カトリック教国としての骨格を整えた。しかし、フランスやイタリア、ドイツ、イギリスといったヨーロッパ諸国とはなにか大きく異なる。

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 現在のスペイン人の多くは、イスラム文明などは過去のものと割り切り、自分たちには関係ないと思い込んでヨーロッパの一員を自認しているが、これは日本人の根底に朝鮮文化が浸透していることを無視してかかるのと似ている。自分たちのルーツを知らないのだ。

 しかし、そうはいってもアルジェリアやモロッコ、ましてやイラクやサウジに比べれば、スペインはやはりヨーロッパだ。そのことを認めたうえで、スペイン人の気質と社会を見れば、やはりアラブ的と言わざるを得ない。アラブ的とは、歴史家のアメリコ・カストロの言葉を借りれば「思考と感情の一致」である。日本でいえば九州人の気質に近く、朝鮮半島の人々にも共通する特徴と言ってよい。理知と感情の分別は近代人の特徴だが、それがスペイン人にはないのだ。

 ヨーロッパに留学する日本人がスペインに行って初めてほっとするという話をよく聞くが、その理由はスペイン文化の非近代性にある。日本人も近代化したのが遅く、それだけに心のどこかに非近代を残しているのだ。

 スペインは大航海時代の王者だった。南北アメリカ大陸に触手を伸ばし、その多くを我が物にした。現在もスペイン語が国語となっている国が多いのはそのことを示す。では、それほどの大国がEUの「お荷物」といわれるようになってしまったのは、一体どうしてか。

 理由は、スペインがアラブ的であるからだ。言い換えれば、近代化を阻むものが文化の基底にある。アラブ的であるがゆえに産業資本を蓄積することを知らず、科学革命にも産業革命にも乗り遅れ、その地位をイギリスに奪われてしまったのだ。この国に功利主義と効率主義は似合わない。宗教は似合っても、科学が根付かないのだ。

(つづく)


<プロフィール>
大嶋 仁
(おおしま・ひとし)
 1948年鎌倉市生まれ。日本の比較文学者、福岡大学名誉教授。 75年東京大学文学部倫理学科卒業。80年同大学院比較文学比較文化博士課程単位取得満期退学。静岡大学講師、バルセロナ、リマ、ブエノスアイレス、パリの教壇に立った後、95年福岡大学人文学部教授に就任、2016年に退職し、名誉教授に。

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