M&Aで九州・中国エリア圧倒的No.1へ コロナ禍経て英進館が得たものとは?(前)
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英進館(株) 代表取締役社長
筒井 俊英 氏学習塾運営・英進館(株)は2021年10月、CLSAキャピタルパートナーズがアドバイザーを務めるSunrise Capital IIなどから株式を取得し、広島市を中心に中国地方で学習塾・田中学習会を運営する(株)ビーシー・イングス(広島市、以下BCI)を子会社化した。広島県内の多数の公立高校の入試で合格者数 No.1を誇る同社を傘下に収めることで、英進館グループは九州・中国地方で他社の追随を許さない学習塾グループとなった。同社の筒井俊英社長に、M&Aの狙いやコロナ禍の学習塾運営などについて話を聞いた。
広島最大の学習塾をM&A
──学習塾・田中学習会を運営するBCIの子会社化により、中国地方で最大規模の学習塾を傘下に収めることになりましたが、その狙いについてお聞かせください。
筒井俊英氏(以下、筒井) 九州と隣接する中国地区に基盤を置くBCIを事業パートナーとすることで、地理的にも事業運営的にも相互補完の関係を築き、今後より一層の指導力向上を目指していくことが狙いです。BCIは「田中学習会」「東京学習社」のブランド名で、未就学児童から高校生向けに、広島県・岡山県・香川県・大阪府において校舎を展開しています。2021年9月時点で生徒数1万3,000人を有する中国地方最大規模の学習塾ですが、英進館と同じく、教育を通じて人間性を育む塾運営がモットーで、隣接エリアということもあり、大きなシナジーを得られると判断しました。
11年にグループ会社化(20年4月に英進館が吸収合併)した鯉城学院や医学部予備校など、これまでも何度かM&Aを活用する機会がありましたが、結果的にBCIの子会社化は過去最大規模となりました。
──BCI子会社化のきっかけは?
筒井 守秘義務がありますのでお答えできない部分もあるのですが、コンサルティング会社からの打診があったのがきっかけです。そもそもBCIはファンドの下でIPOを目指しており、一時は当社とともにグループとしてIPOを、という話もありました。非常に難しい判断でしたが、これまでもオーナー企業であることが経営に大きく作用してきましたし、オーナー企業だからこそできたことが多かったことから、最終的に今回のようなかたちに落ち着きました。当然、私も以前から田中学習会のことは中国地方トップクラスの学習塾として認識していましたし、協業できれば英進館としても大きなメリットがあると思っていました。
コロナ禍のなかで「天神本館2号館」建替え
──オーナー企業としての強みとは何でしょうか。改めて英進館としてIPOを目指す予定はありますか。
筒井 学習塾業界には競合も多く、またエリアごとにその特性は大きく異なります。スピード感をもって手を打たなければならないケースも多く、自由に意思決定できる環境が奏功したことはこれまで何度もありました。短期的には収益に直結しない投資も数多く行ってきましたが、こういったことはステークホルダーが増えれば増えるほど、判断が難しくなります。長期的な目標に向けた大胆な経営判断、意思決定のスピードがどうしても遅くなることは大きなリスクだと考えます。こういったことから、これからも外部資本を入れる予定はありませんし、今のところ、当社としてはIPOを目指さない方針です。
──21年4月に「天神本館2号館」を竣工させました。
筒井 建替えの検討を始めたのは4~5年ほど前からでした。コロナ禍での竣工となったことは残念でしたが、天神エリアの1号館と3号館がフル稼働の状態になってきたところだったので、タイミング的にはちょうど良かったと思っています。ただ、私は当初、東京オリンピックを控えて建築コストが高騰してきたこともあり、建替え案には慎重でした。旧2号館も築年数こそ経過していましたが、しっかりした建物でしたし、当時は稼働状況にも余裕がありましたので、建替えは時期尚早だと思っていたのです。それでも、生徒数はもちろん本部の従業員も増え、非常に手狭となっていたところでしたので、建替えにゴーサインを出したのです。
19年に着工し、21年4月に完成を迎えるのですが、完成間もなく3回目の緊急事態宣言が発出されるなど、新2号館の船出は多難でした。とはいえ、学習塾を含む教育業界は比較的コロナ禍の影響も小さく、ありがたいことに完成から8カ月を経た今(22年1月初旬)では、常時8割以上が稼働している状況となっています。結果的には最適のタイミングだったと思っています。
1週間でオンライン配信に完全移行
──貴社の主力である「集団塾」という形態は、コロナ禍において生徒や保護者にはどのように受け止められましたか。
筒井 20年4月に最初の緊急事態宣言が出されたときは、我々もまったく先が読めない状況でした。おっしゃるように、当社は集団塾であることが大きな強みだと考えていますが、それを真っ向から否定されるような状況となったからです。
ただ、大きな発見もありました。当社では、最初の緊急事態宣言から1週間ですべての授業をオンライン配信に切り替えました。切り替えた当初は、保護者の方々から「授業料を払っているのは対面授業に対してだ」といったお叱りの声をいただいたこともありました。ご指摘はもっともでしたので、対面授業の時よりも授業のコマ数を大幅に増やし、試験問題の解説も一部ではなくすべての設問について記載するようにしました。また、一方通行の配信からZoomを活用した双方向の配信へ転換を進めるなど試行錯誤を繰り返し、遠隔地でも英進館らしい対面授業の価値を提供する仕組みを急ピッチで構築していきました。
数多くのトラブルをその都度克服しながら、20年5月には、「いつまで緊急事態宣言が続いてもオンライン配信で対応できる」という水準まで達したのです。皮肉にも直後に緊急事態宣言が明けるのですが、この経験は大きな財産となりました。
──組織として変化に素早く対応できた要因はどこにあると考えていますか。
筒井 英進館は1979年に電機メーカー出身の私の父が創業した学習塾です。電機メーカーは市場がグローバルですから、熾烈な競争環境に晒されるのが当たり前です。一方、学習塾は今でこそ厳しい競争環境にありますが、当時は相手が子どもということもあり、「努力することが大事」「結果も大事だがプロセスが大事」という風潮が大勢を占めていました。そこに私の父は、とことん結果を求める学習塾を創業したのです。
結果を求める社風は今でも受け継がれており、「結果(=生徒の志望校合格)」が全従業員の最優先課題として共有されています。過去と比べて合格率が芳しくなかったときは、社内がピリつき、「どうすれば改善できるか」について喧々諤々の議論が交わされることも珍しくありません。危機感をもってがむしゃらに頑張るというのも当社の社風かもしれません。これはコロナ禍のオンライン配信対応で改めて感じることができましたし、そういった従業員たちは本当に頼もしく、また心より感謝しています。
(つづく)
【聞き手・文・構成:永上 隼人】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:筒井 俊英
所在地:福岡市中央区今泉1-11-12
創 業:1979年4月
資本金:5,000万円
売上高:(21/3)126億円
<プロフィール>
筒井 俊英(つつい としひで)
1969年生まれ。88年久留米大学附設高校卒、同年東京大学に入学し、92年東大工学部を卒後、英進館(株)に入社。在職中の95年に九州大学医学部に合格し、2001年首席で卒業。九大付属病院に勤務後、02年英進館に復帰。04年11月代表取締役社長に就任。(株)メビオ、(株)YMS代表取締役社長、経産省「未来の教室」とEdTech研究会委員、(公社)全国学習塾協会副会長など兼任。社長業の傍ら現在も教壇に立つ。法人名
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