2024年12月23日( 月 )

ポストコロナ時代の新薬開発は血液ビジネスがリードする!?

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、1月28日付の記事を紹介する。

血漿 イメージ

    いまだ収束の兆しが見えない「新型コロナウイルス」による感染拡大ですが、2月4日から北京冬季五輪が開幕する中国では、ワクチンとは別にコロナの治療方法として「血漿」に注目する動きが出ています。これはコロナに感染したものの、回復した患者の血漿から抗体を抽出し、新たに感染した患者に注入すると「回復が急速に進む」との治験が得られたことによるものです。

 実は、この方法はトランプ前大統領も適用を受け、驚異的に素早い回復につながったと言われています。日本ではまだ本格的な導入は行われていませんが、その可能性には関心が寄せられていることは間違いありません。なぜなら、中国ではすでに10年以上前から、こうした血液ビジネスが医療現場で効果を発揮しているからです。

 各種ウイルスに対抗できる抗体を含む血液を製造する研究は中国に限らず、欧米の医療研究機関や製薬メーカーの間で試行錯誤が続いています。コロナ禍の影響を受け、日本赤十字が行っている献血活動にも支障が出ているようです。このままの状況が継続すれば、医療の現場での輸血用の血液不足という深刻な問題にもつながりかねません。そのため世界各国では人工血液の生産に関する研究に拍車がかかっているわけです。

 ところで、血液はどこから生まれてきたものでしょうか。長年、「骨髄造血」という考えが医学界の常識でした。ところが、2017年、アメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームによって、肺も新鮮な血液の供給源の1つであることが明らかにされたのです。正に、医学界の長年の常識が覆された瞬間に他なりません。それ以降、人工造血の研究には新たな希望が生まれることになったようです。

 一事が万事で、医学や医療の分野ではさまざまな新発見が相次いでいます。新たなウイルスとの戦いを戦争に例えれば、「ワクチン開発や治療薬の製造、備蓄は安全保障そのもの」と言っても過言ではないでしょう。現在、日本が緊急輸入しているモデルナのワクチンにしても、アメリカ国防総省の予算を活かして、すでに10年以上前から研究が始まっていたものです。テロ集団が生物化学兵器を使って攻撃を仕掛けてくる可能性を念頭に、治療薬の研究、製造に取り組んでいたために、今回のCOVID-19に対しても速やかな対応ができたといえます。

 この点は日本にとっても大きな教訓とすべきものです。塩野義製薬の澤田副社長曰く「ワクチン開発には安全保障の観点も必要。モデルナが素早くワクチン開発に成功したのは、早い段階から国防の観点でウイルスやワクチンの研究を始めていたからです。理解すべきは、ファイザーやモデルナが日本への緊急輸出を認めたのはアメリカ国内向けのワクチン製造が進んでおり、日本へ回す余裕があったため。それがなければ、国内優先の政治判断が下されたはずで、日本への提供はあり得なかったと思います」。

 この指摘は傾聴に値するものです。澤田副社長が懸念するように、医薬品の開発は国家の安全保障という側面があります。残念ながら、こうした観点は日本では重視されてきませんでした。1970年代まで日本はワクチン先進国だったことを思えば、忸怩たる思いに駆られます。

 いずれにせよ、現状では、中国やロシアは安価あるいは無料でワクチンを提供するという「ワクチン外交」を展開しているわけで、これこそ広い意味での「安全保障」政策に他なりません。自国の国益を最優先するのが外交であれば、海外に無償提供するには背景に隠された意図があると理解すべきです。そうした視点で「ワクチンや経口薬などをどう開発し、活用するか」は今後の日本にとっても大きな課題となるでしょう。

 その意味で、血液ビジネスという観点で見れば、中国人も日本人も、大半のアジア人はモンゴロイド系人種であり、欧米のコーカサス人種とは違うため、人種対応のワクチンを開発することができれば、アジア全体で歓迎されることになるはずです。実際、今のところ、この分野では中国が世界をリードしています。

 確かに、中国は人種も人口も多く、国策としてのワクチン外交を推進するのは理解できますが、周辺国を含め国際社会は中国による血液ビジネスの独占体制には警戒心も強いものがあります。その分、カウンターパートとしての日本への期待が高いことは論を待ちません。

 要は、日本が地政学的にもコスト的にも、中国に引けを取らない開発ができるかどうかです。ビジネスの現場では先に述べた塩野義製薬は中国最大の保険会社である平安保険と合弁会社を立ち上げ、新たな医薬品開発に中国のビッグデータを活用する取り組みを始めました。どこまで日中の合作が世界のモデルとなるのか期待が高まっています。

 さらに注目に値するのは血液構造分析によって、人体の各種臓器がどこまで酸化しているかの確認もできるようになる可能性です。たとえば、脳への血液供給が不足すると、脳圧が上がり、脳血管が破裂する可能性が高まり脳出血にも直結してしまいます。細胞がどの程度まで酸化しているかを血液構造の分析で知ることができれば、病気の予防にもなるでしょう。

 このように血液ビジネスには大きな可能性が秘められているわけです。いうまでもなく、中国にもアメリカにも強みと弱みがあります。そのことを冷静に判断し、国際的な医薬品と治療法の開発には総力戦で取り組む必要があるはずです。岸田政権が唱える「新たな資本主義」政策にも、こうした視点が織り込まれているはずで、その先行きに大いに期待したいものです。


著者:浜田和幸
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