2024年10月01日( 火 )

九州が日韓の交流活性化を先導 将来を見据え、戦略産業振興の協力を(後)

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駐福岡大韓民国総領事
李 熙燮 氏

 新型コロナウイルス感染症などの影響により、韓国など隣国との人的往来がほぼ断絶した現在、駐福岡大韓民国総領事の李熙燮氏は、九州が日韓の交流活性化を先導することを提唱する。李氏は昨年、長年の懸案事項を解消し、日韓の交流促進の環境改善に努めた。今年は引き続き、草の根・民間および地方自治体間の交流を促進するとともに、将来を見据え、グリーンニューディールなど戦略産業の振興や超広域経済圏の実現のための協力を模索する。

自治体間交流・協力により地方創生を牽引

李総領事
李総領事

    ──九州・福岡―韓国関係の展望について中長期的な視点からうかがいます。

 李 九州・福岡は日本のどの地域より韓国との人的交流および地方自治体間の交流が活発に行われています。コロナ禍以前、九州地域と韓国間には毎週航空便18路線380便、旅客船3路線80便が運航しており、のべ300万人以上に達する人的交流が行われていました。九州地域を訪れる外国人において、韓国人が占める割合は約50%に達していました(2018年時点)。

 コロナ禍により、人的交流がほぼ断絶した様相を呈しており、非常に難しい状況にあるものの、地方自治体間、経済団体間の会議・協議は方式をオンラインに切り替えて交流・協力を中断することなく続けています。韓日間の代表的な地方自治体間交流協議体である「日韓海峡沿岸県市道交流知事会議」(韓国:釜山広域市、全羅南道、慶尚南道、済州特別自治道、日本:福岡県、佐賀県、長崎県、山口県、1992年に発足、毎年開催)、「九州・韓国経済協力会議」(韓国:韓日経済協会、日本:九州経済連合会、93年に前身の経済交流会議が発足、概ね毎年開催)および姉妹・友好交流都市間、いずれも同様です。
双方が韓・日地方自治体間交流について、地方創生を牽引、促進する重要な活路になるという思いを根底にもっていると感じます。

 釜山広域市と福岡市は地理的に非常に近く交流も頻繁であり、「一日生活圏」にあるといえます。両市は2008年に「超広域経済圏」形成に向けた中長期的目標を定め、経済協力協議会をスタートさせており、6分野について15項目の協力課題を選定、経済協力事務所を双方に設置し、交流協力を深化させています。このような経済圏が軌道に乗り、国境を越えた1つの広域経済圏として機能することになれば、長期的には韓国東南圏メガシティ(釜山広域市―蔚山広域市―慶尚南道メガシティ)と九州との超広域経済圏(19年時点で両地域の人口は2,100万人、地域内総生産(GRDP)は 6,300億ドル)へと拡張していくことが期待されます。

 韓日両国はそれぞれソウル・東京への一極集中というなかで、地方創生という共通の課題を抱えています。韓国の南東部と九州はそれぞれ国境に接していますが、見方を変えれば国境の向こうに多くの人が住んでいる隣国があり、お互いに市場があるということです。福岡県および市などが進める国際金融機能誘致などに関しても、釜山市がサポートする一方、釜山市が立候補している30年の国際博覧会(万博)に対して福岡県・市のサポートが得られれば、より大きな波及効果がもたらされると思っています。

 ──地方に関して、韓国ではコロナが地方への移住を促す傾向は見られますか。

 李 韓国において、政府が企業の地方への移転、市民の移住を政策面で促進するのは日本より難しい条件がそろっています。韓国は日本より国土が小さく、東京と比べてソウル首都圏への集中の度合いは高く、人口の50%以上が集中しているほどです。地方も企業の工場誘致などのために優遇策を打ち出しているが、地方都市の競争ではソウル首都圏に属する地方都市が競り勝つことが多いです。

 ソウル首都圏は、住宅価格など生活コストが非常に高いものの、就業機会が集中し給与水準も高いため、人が集まる状況に変わりはありません。一方、地方都市のなかには生活インフラなどが十分に整っていない地域もあり、地方都市への転勤を望まない市民も多いようです。日本では、福岡市のように地方都市でもコロナ以前から人口が増えているケースがありますが、韓国では、釜山広域市を含めソウル首都圏以外の地方都市の人口は総じて減少傾向にあります。私もこの状況を懸念して地方創生の促進を訴える記事を釜山のメディアに寄稿するなどしています。

 これら地方自治体間、機関・団体間交流に加え、釜山と福岡の両都市の財界、言論界、学界、医療界、法曹界など各界のリーダーで構成された民間提言会議体である「釜山―福岡フォーラム」は、友好親善の増進および交流協力の裾野拡大など潤滑油としての役割をはたしつつ、活発に活動しています。

 しかし、これまでの交流には改善すべき点もあると思います。従来、九州地域は韓国との交流において、観光客誘致を通した地域経済活性化に重点を置いていたこともあり、今回のコロナ禍による人的交流の断絶でダメージを最も受けている地域の1つになっているといえます。視点を変えれば、コロナ禍は、観光分野に偏重気味であった交流・協力の分野を多角化し、実質的な協力分野を拡大していくことの必要性を新たに認識するうえで、良い契機になったとプラスに考えることもできるでしょう。 

 ──経済面での交流、協力についてはいかがですか。往来がしにくい、日本で韓国産商品の店舗での取り扱いが増えているように思えます。

 李 大韓航空の仁川―北九州間の貨物定期便が、コロナ以前の週2便から20年12月に週3便に、21年11月に週4便に増えました。コロナ禍で韓日間の人的往来が制限されるなか、相手側の商品に対する需要には根強いものがあります。将来、コロナが落ち着いて両国間の往来の制限が大きく緩和されると、航路、便数が増えて便利になるでしょう。現在、便数の制限などもあり、韓国から日本に輸出される際には大半の商品がまず東京に運ばれてから、その後九州に運ばれてきます。福岡で2店舗運営されているイエスマートなどもそう聞いています。今後、制限が緩和され、九州に直接運ばれるようになれば、非常に大きな伸びしろがあります。

 経済協力では、韓国と九州地域の間で未来型戦略産業における交流・協力を拡大していきたいと思っています。昨年12月14日、北橋健治北九州市長の招待を受け、北九州市エコタウンセンターおよび次世代エネルギーパーク、海上風力発電施設およびその関連会社などグリーン成長戦略関連施設を視察し、非常に深い印象を受けました。韓国の成長戦略も日本と同様にグリーンニューディールに重点を置き、推進しています。これらのケースを含むこの分野での協力は、今後の九州地域と韓国間の未来志向的協力の良いモデルになると考えています。

北九州市エコタウンセンター視察
北九州市エコタウンセンター視察

(了)

【茅野 雅弘】


<プロフィール>
李 熙燮
(イ ヒソプ)
1962年生まれ。85年延世大学校卒業、87年外交部入部。北東アジア課長、駐オーストラリア大使館公使参事官、駐インドネシア大使館公使、大統領秘書室勤務、駐日本国大使館公使などを経て、2020年11月に駐福岡総領事として着任。慶應義塾大学に留学。

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