2024年09月30日( 月 )

和食を世界へ発信する「日本料理ながおか」店主の挑戦

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ
「日本料理ながおか」店主の長岡周吾氏
「日本料理ながおか」店主の長岡周吾氏

    福岡・西中洲にある「日本料理ながおか」の店主、長岡周吾氏は、「和食を世界に広めたい」という強い思いを胸に料理の道を歩んできた。その原動力には、長岡氏が若いころに体験した海外での出来事が大きな影響を与えている。

 1990年代後半、長岡氏は高校を卒業後、2年かけて海外を渡り歩き、約50カ国を訪問した。現地で生活費を得るために、レストランの厨房などで働きながら生活していた。当時は両親が経営する食堂を手伝っていた経験から職を選んだにすぎず、食に関わる仕事を目指すつもりはなかった。だが、オーストラリアで、さまざまな国籍の若者たちが集まるシェアハウスで暮らした際の経験が、長岡氏のその後を大きく変えることになった。

 シェアハウスでは、多国籍の住人同士が交代で自国の料理を振る舞うというルールがあった。順番が回ってきた際、長岡氏がかつ丼をつくったところ、同居人らは大いに喜んでくれた。この体験がきっかけとなり、長岡氏自身が和食の素晴らしさに改めて気づいたという。当時、海外で日本料理といえば「寿司」「天ぷら」「照り焼き」といった限られたメニューしか認知されていなかった。しかし、海外の人にまったく初めての和食を食べてもらうことによって、和食には季節感を表現する繊細な料理から、B級グルメと呼ばれる庶民的な料理まで幅広い魅力があることを再認識した。

 この経験を通じて、長岡氏は「和食の魅力を世界に広めたい」と強く感じるようになった。そして、自分自身が和食の魅力を正しく伝えられる存在になりたいと思い立ち、料理人を志すこととなった。

 帰国後、長岡氏は迷うことなく日本料理の道を選び、自分の腕を磨くことに専念した。専門学校を卒業し、アムステルダムにある「ホテルオークラ」の和食店「山里」で4年間修業。その後、福岡・中洲の割烹「味美」で経験を積んだのち、2010年に「大人のごちそう 周」を薬院で開業した。

 開業当初は立地の影響もあり、プライベートで店を訪れる客がほとんどだったが、徐々にビジネス利用の客も増えていった。16年には、現屋号「日本料理ながおか」に改名し、より交通アクセスの良い西中洲に移転オープンした。

落ち着いた雰囲気漂う店内
落ち着いた雰囲気漂う店内

 移転オープンという大きな決断を後押ししたのが、15年のミラノ万博での体験だった。長岡氏はスローフード協会の縁で、日本を代表するシェフの1人として参加した。「30年後の食」をテーマにした万博で、長岡氏は農家から提供された味噌や米などを使い、日本料理を披露。さらに他国のシェフたちとのディスカッションにも参加した。そのとき他国のシェフたちから、「日本料理」という名のもとに、本来の日本料理とは大きく異なる料理が増えているという現実を指摘された。その大きな原因の1つとして、日本人自身が和食の真の魅力を海外へ向けて十分に伝える努力をしていないことが挙げられた。長岡氏は、生産者や流通業者の努力によって支えられている日本の食文化を守るためにも、もっと積極的に和食の本質を発信していく責任があると感じた。

 「まずは日本料理に関心がある外国人シェフに、本来の日本料理を知ってもらい、それぞれの母国で正しい日本料理を広めてもらうことが、最も確実な方法ではないか」と考えた長岡氏は、自身の店を海外の料理人にとっての学びの場にしたいと考えるようになった。それ以来、日本料理を学びたいと長岡氏のもとを訪ねて来る外国人シェフを自らの店で一定期間受け入れ、育てることを続けている。

 現在、長岡氏は「日本料理ながおか」で懐石料理を提供しながら、日本酒バーの料理監修や、海外展開を視野に入れた活動にも取り組んでいる。長岡氏が海外で生活していた1990年代後半と比べれば、健康志向の高まりなどを背景に、日本料理は世界的な知名度を得るようになった。しかし、まだまだ日本料理のかたちを模倣しただけのメニューが並ぶお店も多く存在し、本来の魅力が十分に伝わっていない状況が見受けられる。

毎年予約を受け付けている正月用おせち
毎年予約を受け付けている正月用おせち

    長岡氏は今後の展望として、自店舗の海外出店も考えているが、まずは日本を訪れる外国人客に和食の真髄を体験してもらうことを重視している。その理由について長岡氏は、「おいしい和食を食べた感動が彼らの帰国後にも残り、それが少しずつ広がっていくことが、和食の真価を世界に伝える方法だと思う」と語った。

 長岡氏の挑戦はまだまだ続く。和食を世界に広めたいという強い思いと、これまでの経験を活かして、これからも日本料理の真の魅力を発信し続けていく。

【岩本願】

法人名

関連キーワード

関連記事