【郵政】「局長会消えてよし」~断定できる理由(2)
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ライター 黒川 晶
「旧態依然」の小規模郵便局制度
「郵便局」と一口に言っても、日本郵便の直営局と外部委託による簡易郵便局の別があるのは周知の通りである。だが、その直営局にも2つのカテゴリーがあることを知っている一般利用者は少ないのではないか。「単独マネジメント局」と「エリアマネジメント局」である。
「単独マネジメント局」は郵便・物流機能や金融渉外機能を有し、損益管理を単独で行う大規模な郵便局のことで、全国に約1,200局ある。「エリアマネジメント局」はそれ以外の約1万9,000局を占める、窓口サービスのみの小規模直営郵便局。損益管理も複数の郵便局で構成するエリア単位で行う、民営化前に「特定郵便局」と呼ばれていた郵便局だ。これが実に特異な体制で運営されている。
過去38年間にわたり顧客から総額約16億円もの金を詐取していた長崎住吉郵便局の元局長は、父も息子も同局の局長という「局長一家」だが、エリマネ局にはこのような「世襲局長」がかなりの割合で存在する。しかも、彼らの多くは職場である郵便局の局舎や建物の所有者でもあり、日本郵便から賃料を支払われている(朝日新聞の報道によれば、直営局の局舎のうち約4,600局が「従業員等」からの賃貸。元郵便局長から借りている局舎も6,000近くあるとのこと)。いうなれば、会社が社員から借りた土地と建物で支店を運営し、しかもその社員の一族を代々営業所長に据えるような体制なのだ。
これには我が国の郵便制度の成り立ちが深く関係している。明治政府は近代国家建設の一環として郵便制度の整備を急いだが、発足後間もない政府には郵便局網を広げる資金も人手もなかった。そこで駅逓権正・前島密(1835-1919)は各地方の庄屋層に協力を仰ぐ。すなわち、彼らの自宅を局舎として提供させるとともに、それぞれ「郵便取扱人」に採用して官吏に準ずる身分を与え、本業のかたわら郵便局の運営に当たらせるようにしたのである(1872年1月26日大蔵省議)。
1885年の逓信省創設および翌年の地方逓信官官制制定により、各地の郵便局はそれまでの五等級制から三等級制に再編、地方名士=民間人の運営する「郵便取扱所」は「三等郵便局」に位置づけられた。1903年には「渡切経費」制度がスタート。局長は局運営に必要と見積もられる一定額を経費として支給され、その使途を任せられるようになる。
昭和の戦時経済体制の下で「三等郵便局」は「特定郵便局」と改称されたが、こうして、民間人所有の土地・建物を局舎としその所有者を局長とする、従ってそのポストも土地とともに子孫へ相続されるという、郵便局の1つのカテゴリーが出来上がった。これが戦後に局長が国家公務員となったのちも、さらには2007年の民営化後も継承されたというわけだ。局舎は国/日本郵便が借り上げ家賃を払うというかたちにして。局長の採用方法も、「欠員状況等を勘案」しつつの「随時選考」とし、「地域の信望を担い得る者と判断される者」を選ぶという、世襲を妨げない規定にして。
事実上競争なく職を得たうえ、昇進をかけて同期としのぎを削ることもなければ転勤もない。毎月振り込まれる給料に加え、親から相続した不動産=局舎からの上がり(国会で明らかになった04年3月の賃貸借料の月額平均は約40万円)も安定的にあり、退職後も一定の収入をもたらし続けてくれる。原稿1本1本に命を張る氷河期世代の一プレカリアートからすれば誠に羨ましい“身分”だが、会社にとっては正直、頭の痛いところもあるのではないか。
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日本郵政「創業以来の危機」かんぽ不正で役員含む573人を懲戒処分ノルマでも課されぬ限り生産性を上げようという発想は希薄であろう(実際、80年代に郵政省は採算の取れない多くの特定郵便局を「廃局」で脅しつつ、従来の2割増しものノルマを課した)し、郵便局の所在地によって業務量も大きく異なるために、局長間の軋轢も生まれよう。なにより局舎=自宅で多額の金銭を、しかも地域の顔見知りの顧客からのそれを扱う毎日が公私の境界線を曖昧にし、場合によっては“誘惑“に駆られることもあろうことは想像に難くない。
実際、国会の議事録などを繙(ひもと)いてみてもわかる通り、特定局長による着服は戦後を通じて常に問題であり続けてきた。21世紀に入っても、02年度は16人で8億3,000万円、03年度は20人で2億4,000万円、04年度は15人で13億円というように改善の気配はまったく見られず、郵政公社は局長を1週間以上自局から離れさせ、近くの局長に業務を代行させる制度を導入したほどだ。
民営化後も、秋田県・大館常盤木町郵便局長(08年発覚、被害総額980万円)、岡山県・岡山芳賀佐山郵便局長(同13年、約8億3,000万円)、長野県・小諸市諸簡易郵便局長(同14年発覚、約8億9,000万円)、熊本県・湯前町郵便局長(同15年、1億数千万円)等々と、地方小規模局長による横領事件は後を絶たなかった。ここ数年でも一挙に発覚し世の注目を集めることになったが、決して今に始まった話ではないのである。
もちろん、犯罪に手を染めるのは「世襲局長」だけではない。そこでしばしば局長個人の「資質」が問題になるわけだが、局長に就任するのが「偶然」資質を欠いた者ばかりというのも腑に落ちない。むしろ、特定郵便局長というポストに就いたがゆえの特殊な事情も介在しているのではないか。
02年度まで続いた「渡切経費」制度による“どんぶり勘定”感覚も、局長の椅子とともに承継されるのかもしれない。(山口県・奈美郵便局長や長崎住吉郵便局長のように)「後で埋め合わせておけばいい」といった安易な発想でことにおよび、自転車操業に陥るケースも目立つ。
だが、逮捕された局長たちが動機として挙げたものといえば、パチンコや競艇、先物取引といったギャンブルばかり。このことは、彼らには給料で生活を維持する以外に、金銭的にも精神的にも追い詰められるような、何らかの状況があることを匂わせる。そしてそれは、郵便・郵貯・簡保の「郵政三事業」に次ぐ特定局長の「第四の事業」と呼ばれるほどに彼らが力を入れてきた、政治活動と無関係ではないと筆者には思われるのである。
(つづく)
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