【郵政】「局長会消えてよし」~断定できる理由(3)
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ライター 黒川 晶
「第四の事業」で身銭を切らされる局長たち
全国の小規模郵便局長たちが代々「全国特定郵便局長会」(現・全国郵便局長会、通称・全特)という任意団体に加入してきたこと、選挙時には自民党支援の選挙運動を展開してきたことはよく知られている。国家公務員法第102条により政治活動を禁じられてきたため、元郵政官僚などを候補者として擁立し、後援会を通じて「応援する」というかたちを取ってきた。
その集票力は凄まじく、1980年6月の参院選では擁立候補の長田裕二が103万票を獲得。最近でも全特元会長の柘植芳文候補が60万票を獲得し、自民党比例代表のトップ再選をはたしたことは記憶に新しい(2019年7月参院選)。
目的は「特定局制度の」維持発展である。戦後、これの廃止を主張し、社会党と結んで激しい攻撃を仕掛ける「全逓信労働組合(全逓)」(現・日本郵政グループ労働組合(JP労組))に対抗するため「全特」はつくられた。
もちろん“局長会”という組織そのものは、前島密の時代から制度としてあった。各地に散らばる小規模郵便局への業務連絡を円滑に行い、かつ局長間の交流を促進するためである。太平洋戦争中の43年には、(ほかの業界も日中戦争が始まったころから次々そうされてきたように)国家総動員法に基づき戦費調達機構として再編され、「特定郵便局長会連合会」を頂点とするトップダウンの組織となる。
戦後GHQの命令により解散させられた(51年7月)が、佐賀県の佐伯玄洞・相知郵便局長のイニシアティブの下、「全国特定郵便局長会」として復活(53年11月)。政権党である自民党に働きかけて陳情を繰り返すとともに、郵政大臣に就任したばかりの若き田中角栄を味方につけて、見事国会で「特定郵便局の制度は、これを認める」という一言を引き出した(58年1月14日特定郵便局制度調査会答申)。
以来、自民党の「集票マシン」と化すことで政治に介入し、制度撤廃や民営化の動きを封じてきたというわけである。問題は、「集票マシン」にたりえてきたそのやり方だ。
局長の人事権は事実上、任意団体にすぎない全特が掌握している。GHQ命令による全特解散後、郵政省は郵便局間の業務連絡用に「特定郵便局長業務推進連絡会(特推連)」を設置し、事業の指揮命令系統に組み込んだが、その幹部が全特のそれと一致するようなつくりにしてきたからだ(歴代の郵政トップは「たまたまそうなっている」と繰り返してきたが)。
そして、採用にあたっては「選挙活動ができること」を条件とし、採用後は自動的に自民党に加入、選挙時には過酷な集票ノルマを課して選挙運動に追い立ててきたことが知られる。
各報道によれば、全特執行部から指示される擁立候補支持者の獲得ノルマは局長1人あたり30~50票。この数を確実ならしめるため、同意を得た有権者100~130人分もの署名および捺印をリストにした名簿を提出させてきた。
参院選の年に限り1人あたり8人の党員獲得ノルマも。集票力のない局長は全特内における出世=特推連/日本郵政における出世の道を閉ざされるのみならず、仲間内から「地域社会で人望のない局長」などと侮蔑を受ける。だから選挙前には、局長OBらでつくる「大樹会」や局長の妻たちの親睦団体である「特定郵便局長夫人会」を表に立てつつ、それこそ家族総出で票集めに走り回る――時には、01年の「高祖事件」のように、堂々と業務を放り出してまで。
地縁を確立していない新参局長などはとくに悲惨である。前任者の名簿を使い回す、知人に協力を仰ぐなどして何とか数をそろえようとするが、やはり顧客をターゲットにせざるを得ないようだ。支援者名簿はコピーされ、全特執行部を通じて自民党本部にも提出されるため、顧客データを流出させることになるが、そうしたことにも鈍感になっていったはず。
彼らが選挙のたびにどれほど消耗するか、山脇岳志氏は著書『郵政攻防』(朝日新聞社、05年)のなかで、特定郵便局長に転職した経験をもつ元毎日新聞記者・本間修一氏の次の一言にすべてを語らせている。「あれほどいやな業務はなかった(…)全特という組織も恐ろしかった」(P183)。
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なにより、有力政治家との「持ちつ持たれつ」に係る出費である。再び世川氏のレポートによれば、全特は毎年5月に「総会」を開催、毎回1万人の特定郵便局長が全国からツアーを組んで開催地に集結する。このツアーの申し込みの大半が、京都府を地元とする「自民党実力者Mの実弟」が社長を務める「L社」という旅行代理店を通じて行われていた。
近辺の史跡名所見物もメニューに組み込まれており、「1万人の特定郵便局長がこの総会出席に使う旅費は1人平均約15万円」とのこと。加えて、たとえば「近畿地方特定郵便局長会(近特)」に属する郵便局長たちは、「頻繁にL社とツアープランを立て」ては親類縁者も誘って参加せよという同会事務局の指令にも従わなければならない(「M先生の恩に報いなあかんって事務局からつっつかれると、なかなか断りづらくてなあ」、P87-89)。
「自爆営業」のうえ、この手の「政治家のビジネス要請」にいくつも付き合わされることが末端の局長たちにどれほどの経済的負担をもたらすか、そこへもってきてあの特異な職場環境がどんな“誘惑”を用意するものか、推して知るべしであろう。
(つづく)
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