2024年10月01日( 火 )

ウクライナ情勢が日本経済に与える影響(前)

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経済安全保障専門家 北島 優斗

ウクライナ ロシア イメージ    プーチン・ロシア大統領が2月21日、ウクライナ東部で親ロシア派武装集団が一方的に独立を宣言している2つの人民共和国(ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国)を独立国家として承認する大統領令に署名し、24日にロシアのウクライナへの侵攻が始まった。

 プーチン大統領は「ウクライナは単なる隣国ではない、我々の歴史、文化、精神的空間は不可分だ」と発言し、3日現在で、ウクライナへの軍事行動を停止する構えを一切見せていない。すでに多くの民間人が犠牲になるなど大きな被害が出ており、国際社会のロシアへの圧力も強まっている。

 そのようななか、世界経済への影響も拡大している。当初、欧米諸国は世界経済への影響を最小限にするため、ロシアに対して限定的な経済制裁措置に抑える姿勢だった。とくにロシアへの制裁となれば、安全保障を米国、天然ガスをロシアに依存する欧州諸国の経済的打撃は避けられず、イタリアやドイツなどは極めて難しい立場にあった。

 しかし、ロシアの軍事行動がエスカレートするにつれ、欧米諸国の態度も一層硬化し、ついには世界の送金網SWIFT(スウィフト)からのロシア排除という非常に重い決断を下した。ロシアは石油や天然ガスの豊富な資源大国であるだけでなく、世界最大の小麦輸出国でもあり、それによる悪影響は避けられない。

 では、日本経済へはどのような影響があるのだろうか。まず懸念されるのは日露経済への影響だ。米国のブリンケン国務長官は25日(米国現地時間)、林外務大臣と電話会談を行い、日本が対ロシア制裁に踏み切ったことを高く評価し、今後もウクライナに侵攻したロシアに対して協力して対抗していく姿勢を示した。

 岸田政権は欧米諸国と足並みをそろえ、ロシアに対してより強い制裁を科す姿勢を堅持しており、日露経済の悪化は避けられそうにない状況だ。すでに在日ロシア大使は記者会見で、日本に対して対抗措置を講じる姿勢を明らかにしている。

 以上は事実関係だが、もう少し踏み込んで考えてみたい。まず、この問題によって日露関係は長期的に不安定な時代に入る恐れがある。国際社会の要求に応じて、ロシア軍が今すぐウクライナから撤退し、プーチン大統領が謝ったとしても、すぐに侵略以前の国際関係に戻るわけではない。侵攻した以上、プーチン大統領は強気の姿勢を維持し、あらゆる手段で対抗してくるだろう。従って、日露経済に多くを依存する日本企業は、より深刻な影響を受ける可能性が高いことを肝に銘じておく必要がある。

 また、近年は北極開発が世界で注目されているが、それに関連する企業も注意が必要だ。地球温暖化の影響で北極海の海氷面積は毎年最小を記録し、世界で未発見の石油の13%、天然ガスの30%が北極海に眠っているといわれるが、ロシアは北極最大の沿岸国であり、日本がロシアへの経済制裁を強化すればするほど、日本企業の北極開発は制限を受けることになるだろう。

 さらに、日本と欧州を結ぶ国際線フライトは基本的にロシア上空を通過するが、今後はそれができなくなり、中東や中央アジアなど南回りを余儀なくされる可能性が高い。すでに欧州各国はロシア航空機の上空飛行を禁止しており、ドイツやオランダなどの航空会社もロシア上空の飛行を停止している。企業にとっては、駐在員の派遣や帰国といった面で大きな制約が出始めている。

(つづく)

(後)

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