2024年10月01日( 火 )

ウクライナ情勢が日本経済に与える影響(後)

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経済安全保障専門家 北島 優斗

地球儀 イメージ    日本企業が注視すべき動向はそれだけではない。ロシアによるウクライナ侵攻により世界で緊張が続くなか、中国の今後の出方に注目が集まっている。

 米国や英国、フランス、ドイツなど西側諸国はロシアへの経済的締め付けを強化しているが、経済大国である中国は欧米と一線を画し、制裁対象となるロシアを経済的に支援する姿勢を示している。近年、人権デューデリジェンスなどで中国と欧米との経済対立が激化しているが、今後は中国とロシアの経済的接近によって世界経済を取り巻く情勢がいっそう複雑化する恐れがある。

 外交・安全保障専門家の間では、ある1つのことに注目が集まっている。それは、前述の「ウクライナは単なる隣国ではない、我々の歴史、文化、精神的空間は不可分だ」というプーチン大統領の発言であり、これを中国の習近平氏がどう考えるかという点だ。習氏はこれまで台湾について、「台湾は中国の内政問題で不可分の領土であり、祖国の完全な統一は必ず実現しなければならない歴史的任務だ」「諸外国によるいかなる干渉も許さず、それには武力行使も辞さない」などと言及してきた。

 プーチン大統領は発言のなかでウクライナを“隣国”と呼び、習氏は台湾を“内政”と呼んでいるが、どちらも“不可分”という点では同じ。建国以来、対外的拡張を進めてきた中国(習氏)がプーチン大統領の発言に触発され、台湾への行動をエスカレートさせる可能性も排除できないだろう。

 近年、中国軍の戦闘機や電子戦機、爆撃機などが台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入するケースが後を絶たないが、今回のロシアのように武器弾薬を使うと国際的非難をすぐに招くことから、台湾へのサイバー攻撃や電磁波攻撃、台湾に存在する親中勢力への支援などをいっそう強化し、台湾を内部から破壊する工作をエスカレートさせる恐れがある。

 周知の通り、台湾有事における米軍の関与は沖縄本島から始まるため、それは即日本有事となる。また、欧州や中東、アジアから日本に向けて航行するタンカーや商船は必然的に台湾周辺を通ることから、台湾のウクライナ化は日本経済に大打撃を与えることは間違いない。

 さらに、欧米によるロシアへの制裁が強まるなか、中国がロシアへの経済的接近を強化することによって、世界経済の二分化がいっそう進む恐れが懸念される。米中対立の激化によって日本は難しい外交の舵取りを余儀なくされているが、ロシアのウクライナ侵攻によって日中外交でも亀裂がいっそう深まり、日中経済関係が冷え込む可能性がある。

 実際、過去に日中関係が悪化した際に、中国が日本に対抗措置を取ったことがある。2010年9月、尖閣諸島で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突して中国人船長が逮捕されたことをきっかけに、中国は対抗措置として日本向けのレアアースの輸出停止・制限に乗り出した。

 また、05年に当時の小泉首相が靖国神社を参拝したことにより、中国では反日感情が高まり、各地で日本製品の不買運動が発生した。12年には日本政府が尖閣諸島国有化を宣言したことで、中国各地で反日デモが拡大し、パナソニックの工場やトヨタの販売店などが放火され、日系のスーパーや百貨店などが破壊や略奪の被害に遭った。

 ロシアのウクライナへの侵攻によって、すでに世界経済に影響が出ている。しかし、潜在的な脅威はもっと後にやってくる。日本企業はこの問題を中長期的な視点で考え、中国が政治経済的にどのような行動を取ってくるのかを考える必要がある。

(了)

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