2024年11月28日( 木 )

大石あき子vs橋下徹の徹底バトルに「無罪請負人」が参戦

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 元大阪府知事の橋下徹氏が、元部下の大石晃子衆院議員(れいわ新選組)を名誉毀損で訴えた第1回口頭弁論が11日、大阪地裁で開かれた。2021年12月17日付『日刊ゲンダイ』のインタビュー記事で橋下氏の社会的評価が低下したとして、大石氏と日刊現代に300万円の損害賠償請求を行ったのだ。記事のタイトルは「『日曜討論』で糾弾したれいわ・大石あきこ議員を直撃 吉村府政の問題点とやり口、岸田政権どう見る?」だった。

 開廷の午前11時前に大石氏とともに法廷に現れたのは、「無罪請負人」の異名を持つ弘中惇一郎弁護士ら5人の弁護団。一方、橋下氏側の弁護士はたった1人で本人は欠席した。

 裁判は書面のやりとりで終わることも多いが、この日は大石氏が証言を求めて意見陳述(※注に全文)。14年前に橋下府知事に朝礼でかみついた府職員時代を振り返りながら、「元上司が元部下を口封じのため訴えた裁判」と強調したのだ。

 続いて、弘中弁護士も「言論には言論で対抗すべき」と橋下氏の提訴を疑問視したうえで、訴えを取り下げるべきとも訴えた。

 次回期日が5月27日に決まって閉廷。すぐに大石氏と弘中弁護団は隣の弁護士会館に移動、記者会見に臨んだ。まず弘中弁護士が「今回の裁判は非常に重要な裁判だと思う」と切り出して、次のように続けた。

 「橋下徹氏は自分のことをあたかも一介の市民のように『弁護士でコメンテーターで、政治から身を引いた』と言っているが、誰もそれを信用する人はいないと思う」「この訴状はまさにブラックユーモア的。『報道の自由は最大限保障されるものであって取材の自由を妨げたことはない』と高らかに言って、『そういったことを妨げたのは最大の名誉棄損である』と主張。『最大に尊重しないといけない報道の自由をいかに彼(橋下氏)が妨げてきたのかを立証してみろ』ということだから、『大いに主張、立証してみましょう』というのが今回の裁判だ。次回期日までに『俺がいかに報道機関に公平にやってきたのか。そうでないなら言ってみろ』という橋下さんの挑発に乗って、『いかに報道に問題のある態度を取ったのか』ということを立証していきたいと思っている」。

 次に、大石氏が法廷で読み上げたばかりの意見陳述の文書に沿った説明をした後、質疑応答となった。

大石晃子衆院議員(左)と弘中惇一郎弁護士

 ――(関西テレビ)意見陳述書と重複する部分はあるが、裁判のなかで弘中先生が「言論には言論で対応すればいいものを裁判を起こすのか」とおっしゃっていたが、改めて裁判というかたちで起こされたことをどういうふうにお感じになるのかを聞きたいのと、今回の裁判で最も訴えたいことを大石さんに聞きたい。

 大石議員 誰でも裁判を起こす権利はあるが、私よりも、多くの人が見て社会的影響力が大きいテレビにバンバン出ている人が、弱小政党の国会議員の私を口封じで訴えてきたと私は思っているので、「不当だ」と思っている。

 問題なのは、橋下さんのような方々が市民の方に対して嫌がらせ、私にやったことを通して、「いらんことをいうなよ」みたいな空気を振りまいていった(こと)。メディアの方にも、もしかしたら悪影響があるかもしれない。みんなが委縮しないように、だから私も最大限慎重にやって、この裁判を絶対に負けないようにしたい。橋下徹さんに『こんなことをやったらアカンのやで』『二度とこんなことをやるなよ』ということが伝わるような裁判に(するために)自分なりに努力したいなと思っている」。

 ――(横田)橋下さんは「私人」と言いながら、維新批判の急先鋒である大石さんに対し、訴訟を通じて批判的言論を封じようとしたように見えるが、そういう位置づけ、理解でいいのか。橋下さんは維新の創業者(創設者)なので、自分が産み落としたかわいい維新の国会議員、吉村知事・(維新)副代表を含めて援護射撃をしたいという意味合いを込めた訴訟ではないかと思うが。

 弘中弁護士 私は大阪に住んでいないものだから、維新の会が大阪でどれだけ強力なのか、横暴なのかという実感が湧かない。橋下さんの取っている対応が非常に傲慢で、それが維新の問題だろうと思うが、その実感は大石さんに話をしてもらうことにして、いずれにしても非常に重要な問題。つまり政治批判、政治関係者のメディアに対する姿勢への批判を封じようとする裁判だったら何としても勝たないといけない。それが大事だと思っています。

 大石議員 おっしゃったような要素があるでしょうし、私は今日、弘中弁護士から「このようなやり方はおかしいだろう」、「野党議員から痛烈な批判が行われるというのは、健全な民主主義を維持するために不可欠なことなのだよ」とおっしゃっていただいたのは力強いことだと思う。「野党議員の痛烈な批判というものが、この社会において民主主義のために必要なのだよ」ということであり、野党議員のみならずマスメディアにおいても、このような批判は絶対に必要なのだと。

 もし、その批判のなかで間違いがあるとか、何か異議があると思うのなら、それは言論と言論で互いに話し合いながら間違っていたら訂正をすればいいし、より良いものをつくっていけばいい。それが民主主義だと思っているが、そこを踏み破って野党議員なりマスメディアを今回訴えてきているわけだから、そういう言論弾圧というふうに私は見るし、それを許さない戦いとして戦っていきたいと思っている。

 いま、どんどんどんどん息がつまるような空気になっていると思う。もしかしたら維新の方だけではないかもしれない。なので、社会全体ですね。マスメディアで来られている方が違うと思うかもしれないが、私はマスメディアが委縮していると思っているし、もっともっと批判が許され、記者だって間違うことがあるではないですか。そこでガンガン「勉強不足だ」とか「もう、おまえは来るな」とか、そういうやり方ではなくて、「権力者、行政は誠実にメディアに対応しないといけない」という当たり前の空気というものを取り戻したいなと。微力ですが、そういうふうになればいいと思う。

※注:会場で配布された意見陳述の文書は以下の通り

<意見陳述 2022年3月11日 大阪地方裁判所第25民事部 御中 被告 大石晃子

被告の大石晃子です。3年前まで大阪府庁で公務員をしていました。いわば元上司であった橋下徹元知事が、元部下である大石晃子を、口封じのため訴えてきた。そういう裁判だと思っております。

改めて自己紹介をしますと、14年前に橋下徹知事に朝礼でかみついた女性職員が私です。橋下徹・大阪府知事が就任最初の朝礼で、
「本当は始業前に朝礼をしたかったが、超過勤務になると言われてできなかった」
「民間では始業前に準備や朝礼をするのが普通。そんなことを言ってくるなら、勤務中のたばこや私語も一切認めない。給料カット!」
と声を荒げました。そんな知事として、そして維新の創設者として橋下徹さんは人気を保ち、今なお毎日のようにテレビのコメンテーターとして維新を絶対評価し、政治的社会的影響力を誇っておられます。

さて裁判の話ですが、原告である橋下徹さんは、訴状において、自らには「社会一般から肯定的な評価を得るイメージが備わっており、それが大石の発言によって傷つけられた」と主張しています。それはおかしいと思いますけれども、ご本人はそう主張されています。

橋下徹さんは、大石の発言が自身のそのようなイメージを傷つけるから本件訴えを提起したといいます。こうした橋下徹さんの行動は、まさに、私が発言を問題にされた記事の取材において言及した、自らに批判的なメディアに対する抑圧的な態度と一緒です。

今回、橋下徹さんが抑圧したのがメディアではなく、元部下の大石だったという構図です。

かつ、この裁判は、社会的影響力が大きい者が、小さい者に対して行うスラップ訴訟の要素が大いにあると私は思っています。

私は現職の国会議員ですので、社会的影響力が小さいとは申しません。しかし、今回の裁判は、社会的に大きな影響力を行使する原告・橋下徹氏が、自らに盾突く弱小政党の新人国会議員の発言をやり玉に挙げることによって、被告大石だけでなく社会一般に対して、自分を批判することがどのような結果を生むことになるかを見せつける、そのような意味合いをもった訴訟であると思います。

だからこそ、私の口を封じても無駄ですよ、と言わなければなりません。

私は今回やり玉に挙げられた取材の記事の内容のように、現在の大阪維新府政・市政の問題について徹底批判を続け、主に橋下徹さんの元知事・元市長としての責任を問うていきたい、世の中の多くの方に、維新や橋下徹さんの問題を訴えていきたいと考えております。>

 『日刊ゲンダイ』のインタビュー記事で橋下徹氏が問題にしたのは、「大石議員が度々、府政の問題を指摘しているにもかかわらず、なぜ、大阪では吉村人気が高いのでしょうか」との問いに答えた以下の部分だ。

 「橋下元知事は気に入らないマスコミをしばき、気に入らない記者は袋叩きにする、ということを丁寧にされていました。新聞社に対しても『あの記者どうにかせぇ』『あの記者やったら、おたくは外す』と。その代わり、『言うことを聞くんやったら、特別の取材をさせてやる』とか、それはやっちゃだめでしょということまで平気でやっていた。飴と鞭でマスコミをDV(ドメスティック・バイオレンス)して服従させていたわけです」。

 この内容に関する質問を続けた。

 ──(横田)「橋下府政時代に気に食わない記者は袋叩きにする」と。批判的記者に対して抑圧的だという具体例があれば教えてほしいのと、ヨイショ記事を書く記者には温かく当たって、批判的な記者には冷たいという差別的な報道対応は、今の吉村府政を含めて続いていると考えているのかを聞きたい。

 大石議員 2カ月後(5月27日の第2回公判)まで「ネタバレ注意」ということで(コメントを)控えさせていただきます。(差別的な報道対応が続いているのかについて)今でもそのような問題があるからメディアが委縮しているという私の理解。『日刊ゲンダイ』で答えたことなので、そのように思う。

 ──(共同通信)抑圧的対応の本筋から逆の質問をするが、先ほど弘中先生は冒頭で維新あるいは吉村府政のメディアに対する姿勢に加えて、メディア側にも少し言及されたと思うが、大阪では在阪民放各局を中心に、橋下さんですとか吉村さんを出演させて批判されてきた経緯があるわけだが、この点に関して、大石さんはどのように認識されていて、今まで弘中弁護団としてはどういうふうに論点を整理されて、今後どう臨むのかを教えてほしい。

 要は、敵対的メディアに対しては抑圧的な対応をしてきたという主張だが、逆に、一方で(維新関係者を)広く出演させてきて議論になっているが、この点について大石さんがどういう認識をしていて、弘中弁護団としてはどう整理しているかを聞きたい。

 大石議員 先ほどのネタバレの話に若干通じるかもしれないが、お正月にMBS(毎日放送)で橋下徹さんと吉村知事と松井市長が出たということがBPOになったことが有名だとは思うが、それは正月ですので、私が念頭に置いていた時期(『日刊ゲンダイ』のインタビューは12月)とは違うが、世の中の一般として私からしたら、たとえば、山本太郎代表と私と多賀谷(亮)さんがお正月番組に出られるのかと。出れないと思う。(維新関係者だと)視聴率が取れるからということがあるだろうが。

 そういった行政と政治家の方がある意味、癒着してしまうことは一般的にも問題にされていると思うが、私の認識としてはそういう問題があると思っている。

 弘中弁護士 一般論でいえば、映画「パンケーキを毒見する」で菅総理を囲むメディアの会があったが、ニュースを取るために政権なり権力者に媚びることはあると思う。今回、裁判のなかでは、これは橋下さんの戦略だと思うが、「『袋叩きにする』とか『しばく』とかについてはこちらから有効に反論するだろうな」ということは、向こうは読んでいるのではないかと思う。もう片方の「(報道対応における)アメとムチ」の「アメ」の方、つまり、「いい記事を書いた記者にはご褒美を出した」というところは、こちらがどう反論するのかを向こうは待っているのではないかと。そちらのほうが立証の方法がワンランク難しいという気がする。だから具体的にどうするのかは作戦を練っていかないといけないが、向こうが2本立てで問題提起をしてきた以上は、こちらもどう対応するのかを検討したい。

 ──(大阪日日新聞)大石議員が「今回の訴訟はスラップ訴訟の要素が大きい」と言っているが、弁護団としても「今回の裁判はスラップ訴訟の要素が強い」と思われているのかを聞きたい。2点目としては、スラップ訴訟に対して、どのような対応をしないといけないのかを弁護士の立場としてお答えください。

 弘中弁護士 大石さんが冒頭で言われた通り、「スラップ訴訟」というのはよく考えないといけない論点だと思っているが、スラップ訴訟の裁判例を踏まえて、どの段階でこの問題を考えるのかを詰めたいと思っているので、今のところ、すぐにスラップ訴訟の主張をすることは約束できないが、大きな論点の1つとお考えください。

 ──(大阪日日新聞)(大石氏に対して)スラップ訴訟への国会議員としての取り組みについて。

 大石議員 裁判になっているので、慎重に考えていきたい。ただ一般的な空気として、強い者が弱い者、あるいはメディアを委縮させている傾向があると思うし、強い方は何を言ってもSNSは凍結されないが、そうでない方が凍結されたりというのも今問題になっていると思う。だから強い者が、より侮辱罪とかSNSでの侮辱に対して法整備を強化するという話をされているが、「おまえがいうな」ということもあり得ると思う。

 今まで(侮辱的発言を)散々やってきた側が、もしそのような条例とか法律をつくられるとしたら、それは悪い運用を目的にしてつくられる可能性が極めて高いわけだから、もしそうなのであれば、絶対に問題視していかないといけない。「いいものだよね」と同意をして蓋を開けてみれば、より政権とか権力批判を委縮させるために運用されてしまうことも、マスメディアの方もそのような観点で疑って、その問題を考えてほしいと思う。この裁判でどうこうというのは、今は想像もつかないが、そのように思います。私が訴えられている時系列のなかで、SNSでの誹謗中傷だとかを仰えられる方も近い方がいますので、そこは慎重に分析をしていきたいと思います。

 弘中弁護士(会見終了直前に補足説明) 侮辱罪で刑が重くなったのはかなり重要な問題だと思っている。昔、『噂の真相』という雑誌が刑事起訴されて有罪になった。その雑誌は、権力批判、検察批判をバンバンしていたのですが、検察官や、直接問題になったのは作家に対する名誉棄損ということで、刑事事件として起訴された。それを使うのは検察官。検察官が狙い撃ち的に侮辱罪を使って、ライターや報道関係者をやるということはあり得る話だ。だから侮辱罪の刑が重くなったことについて、メディアの方もどんどん問題提起していいのではないかと思うが、そのへんの問題提起が弱いのではないかと思うのでぜひお願いします。

(左から)弘中弁護士、大石議員
(左から)弘中弁護士、大石議員

    会見終了後、写真撮影タイムになり、大石議員と弘中弁護士が並んでファイティングポーズをとる場面もあった。意見陳述の最後で大石議員は「私の口を封じても無駄」と強調、批判を続けると締めくくった。

 橋下氏に訴えられても大石議員は委縮するどころか、さらに批判のボルテージが上がりそうな雰囲気を醸し出していた。次回公判は5月27日だが、その間も橋下氏や維新への徹底批判を繰り返すのは確実。今後も大石議員から目が離せない。

【ジャーナリスト/横田 一】

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