消費税減税の風説を粉砕!

政治経済学者 植草一秀

 消費税を美化する者を信用してはいけない。「政治は支持率のためにあるのではない。不人気な政策であっても国の未来のためにやらねばならないことがある。社会保障制度を維持するには消費税が必要不可欠。消費税を減税して社会保障制度が崩壊していいのか。」こんな「美談」に騙されてはいけない。

 2024年10月の衆院総選挙、25年7月の参院選で自民大敗をもたらした石破茂元首相が消費税減税批判を展開している。「消費税減税を実行すれば財政不安が広がり為替は円安に進む。円安になれば金利は上がり、物価も上がり、消費税減税の効果は打ち消される。」こんな話がまことしやかに流布されている。しかし、この主張は「一つの説」でしかない。確定していないことについて「一つの主張」が提示されているに過ぎない。上記の説明には多くの「ウソ」、あるいは「真偽不明の判断」が含まれている。

 三つの誤りを指摘しておこう。第一は社会保障の財源が消費税でなければならないという大ウソ。第二は消費税減税を実行するときに円安になると限らないこと。通常のマクロ経済理論の枠組みでは財政拡張は通貨上昇要因。財政赤字拡大は円高をもたらすというのが標準的な経済理論の結論。真逆の「風説」が流布されている。第三は消費税減税の財源がないと騒がれるが財源があること。巨大な自然増収がある。その自然増収を減税で国民に返還しないと「税の取り過ぎ」になる。

 01年に小泉政権が超緊縮財政を強行した。私は超緊縮財政が日本経済を危機に陥れると警告した。実際に警告したとおりの惨状が現実化した。私は積極財政を主張したのではない。行き過ぎた緊縮を批判した。行き過ぎた緊縮が経済を悪化させ、資産価格を再暴落させ、その結果、日本は第二次金融危機に突入した。

 このときの政策論議は次のものだった。財政拡張を行うと金利が上がり、その金利上昇が円高をもたらす。その円高が財政拡張の景気支持効果を消す。「マンデル・フレミング効果」という言葉が使われて、財政拡張は「円高」をもたらすと喧伝された。つまり、消費税減税が円安をもたらすとはまったく言えない。過去の経済政策論議では財政拡張は円高をもたらすとされていた。それが、今回は財政拡張が円安をもたらすとされている。いい加減なものなのだ。

 食品の消費税率を2年限りで1%に引き下げたところで、財政破綻が生じる可能性はゼロだ。したがって、この政策を実施して日本円が暴落することはあり得ない。また、社会保障の財源が消費税でなければならないということはない。そんな規定は日本のどこにも存在しない。

 社会保障の財源は所得税でも法人税でも構わない。国債発行でも問題はまったくない。社会保障の財源として消費税と所得税・法人税のいずれが適切かとの設問があれば、答えは明白だ。所得税・法人税の方が適切である。

 日本の税制は1990年度と2020年度で大逆転した。
       1990年度    2020年度
所得税     26兆円     19兆円
法人税     18兆円     11兆円
消費税     5兆円     21兆円
税収合計    60兆円     61兆円

 税収規模は約60兆円で同水準。しかし、構成が真逆。格差拡大の時代に、どちらの税収構造が望ましいか。消費税が小さく、所得税と法人税が大きいことが望ましい。消費税減税が正しい政策対応である。

 消費税減税に誰が反対しているのか。反対している本尊は「財務省」である。「消費税減税阻止」は「ザイム真理教」の核心中の核心。財務省は大企業と富裕層の税負担を減らし、その穴を消費税で埋めることを目指している。

 消費税の特徴は「大衆課税」。大衆に税を負担させて、その金で大企業と富裕層の減税を行う。理由は大企業と富裕層が財務省に「天下り」という利益を供与する存在であること。消費税の最大の特徴は「逆進性」。所得の少ない人に過酷で所得の多い人に優しい。消費税減税を行うと富裕層の減税額が多くなるとの反論が示される。こんな話に騙されてはいけない。税負担を考察する際の「基準」は「負担額」ではなく「負担率」。年収100万円の人は全額を消費する。すると年収の約1割が消費税で奪われてしまう。年収10億円の人が1年に1億円消費する場合。この人の消費税負担率は年収の約1%。圧倒的に低い。

 所得税の場合、年収が一定水準に達するまでは税負担がゼロである。「課税最低限」までは税金がゼロ。他方、所得が増えるにしたがって税率は上がる。年収が増えれば増えるほど高い税負担率が適用される。格差を是正する視点からは消費税よりも所得税の方がはるかに優れている。

 法人税では大企業が圧倒的に優遇されている。大企業は史上空前の利益を計上しているが税負担率は圧倒的に低い。各種租税特別措置や投資減税によって大企業の税負担率は著しく低い水準に維持されている。したがって、所得税と法人税の課税を強化すれば消費税を減税できる。

 「自然増収」で消費税減税を実現できるが、これ以外に、所得税と法人税の「増税」で消費税減税を実現することも良策である。所得税について、所得が増えれば増えるほど税負担率が上がると記述した。しかし、現実は少し違う。実際には所得が増えるほど税負担率が低下するという現実がある。これがいわゆる「金持ち優遇税制」である。

 どういうことか。利子・配当・株式譲渡益について「分離課税」が認められている。超富裕層の収入の大半は金融所得。利子・配当・株式譲渡益について税率20%での分離課税が認められている。このため、超富裕層の税負担率は収入の増加に伴い20%に向けて低下する。「利子・配当・株式譲渡益」の分離課税を撤廃すればよい。しかし、財務省は超富裕層のために動く。超富裕層が財務省に天下りを提供するからだ。

 「金持ち優遇税制」では「分離課税」を撤廃して「総合課税」に一本化するべきなのだ。要するに、財務省は大企業と超富裕層の利益増進に動いている。その減税財源として庶民課税拡大を推進している。だから、消費税減税は絶対反対なのだ。その「知られざる真実」を隠すために「社会保障のために消費税は必要不可欠」であるとか「消費税減税を実施すると円安になって物価高対策の効果を消す」などという風説を流布している。多くの人やメディアが似たような風説を流布しているが、その背後は「すべて財務省」。この「カラクリ」を知っておかねばならない。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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