2024年07月16日( 火 )

懸念されるロシア発の世界経済危機(後)

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劉 明鎬 氏

経済制裁の効果は限定的

石油コンビナート イメージ    1998年の「ロシア危機」の際はIMF(国際通貨基金)を中心に世界がロシアに手を差し伸べた。しかし、今回は西側諸国による経済制裁なので、西側諸国やIMFがロシアを助けることはあり得ない。ロシア経済の破綻に加え、海外の投資家も債権が“紙くず”同然になりかねないため、被害が広がることになる。

 ロシア債権の焦げ付きは、とりわけ欧州の銀行を直撃するだろう。年金基金を含む投資マネーもロシア資産の売却を急ぐことになるので、金融市場への悪影響は避けられない。しかし、一方では、「2020年時点におけるロシアのGDPは世界11位で、世界全体の1.66%に過ぎない。デフォルトによりロシアのGDPが仮に10%低下しても、世界のGDPは0.17%低下する程度にとどまるので、ロシアにデフォルトが発生しても、世界経済への影響は限定的だ」とする声もある。

 また、今回の経済制裁に対する別の見方もある。経済制裁だけでは、ロシアに戦争をやめさせるのは難しいという意見である。経済制裁はロシア国民にとっては痛手であっても、戦争を起こした張本人であるプーチンや軍部への直接的な打撃にはならないので、効果が限定的だという。

 戦争が長期化すれば、ただでさえインフレで苦しんでいる世界経済を泥沼に陥れる公算も大きい。さらに、ロシアにデフォルトが発生しても、ロシアが原油や天然ガス、穀物などを「武器化」し、もちこたえると、金融市場への混乱は続くだろうし、西側諸国の利害関係によって、内部で分裂が起こる可能性もあると専門家は指摘している。

原油高が世界経済に与えるダメージのほうが大きい

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 ロシアのデフォルトよりも世界経済に与える影響が大きいのは、ロシアのエネルギーだと言われている。ロシアは原油市場で世界の生産量の12%を占めているし、天然ガス市場においては、世界生産量の約17%を占めている。とくに欧州の場合、天然ガスの45%をロシアに依存しているので、ロシアに首根っこを押さえられていると言っても過言ではない。

 ロシアから原油が供給されなくなると、1日に約500バレルの原油供給が減ることになる。原油価格がバレルあたり10ドル上昇すると、米国のインフレ率が0.2%上昇するという試算がある。ロシアのデフォルトよりも、ロシアの「エネルギー武器化」によって世界経済が被る被害の方が懸念される所以である。

 米国が備蓄油を放出したことで、原油価格は一時的に下がっているが、市場が不安定化すると、再び原油高になる可能性も高い。韓国におけるロシアからの原油の輸入は5%に過ぎないが、代替の供給先を探す必要に迫られている。

 原材料の価格高騰、それに穀物価格も上がっており、ロシアによる穀物武器化も懸念されている。世界経済はインフレとの闘い、原油高、穀物高、供給不足など、いくつもの課題を抱えており、先行きが不透明である。ロシアがデフォルトをした後、どのような展開になるのか、世界中が注意深く、動向を見守っている。

(了)

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