建設から「創造」する企業へ進化（中）

（株）安成工務店
代表取締役社長　安成 信次 氏

綿密な戦略が生む多角化経営

　──地域貢献だけではなく、事業そのものを社会的課題の解決に転換してきたということですね。貴社の業績拡大は、その類まれなる戦略から生まれていると考えています。

　安成　建設部門ではデザインビルド、住宅部門では環境共生に力を入れてきました。この両面は、受注産業からの脱却においてとても重要な戦略です。建築分野におけるデザインビルドとは、設計・施工をセットにして提案し受注する方式で、私たちはそのような建設会社をアーキテクト・コンストラクターと呼んでいます。デザインビルドは今まで40年以上の月日をかけて磨いてきた戦略です。現在、住宅部門は100％自社設計ですし、建築部門でも医療福祉施設、事務所、工場、賃貸マンションなど全体の95％が自社設計です。デザインビルドは設計会社とチームを組んで行うパターンもあると思いますが、当社の場合は自社の設計チームを育てながら実践してきました。社員の22％が設計社員で、設計力を上げることにはとくに力を入れています。

    代表に就任した当初は悩みながら経営をしていました。奥村先生をはじめとした多くの方々、企業の方との出会いを経て、約20年前に方針を固めて以降、悩むことはなくなりました。これらの考えは、16年に最初のCSV（Creating Shared Value）レポートを作成することで、より具現化されてきました。CSVとは、社会問題の解決と企業の競争力向上を同時に実現するという概念のことです。現在、安成工務店には174人、グループ全体では408人（一部の役員数が同人）の社員がいます。どれだけ立派な理念や戦略があろうとも、共通認識に温度差があっては体をなしません。CSVレポートは真に地域・社会に必要とされる企業となるために、これらを一度整理して社内外に共有したうえで取り組みを推進することを目的としています。直近では「YASUNARI GROUP CSV REPORT 2021」として、SDGsの視点も取り入れて再編し発刊しています。

　また、その戦略があるからこそ人材が育ってきたと考えています。今のグループ内の12社のうち7社には私以外が代表取締役に就いており、今後、人を育てながら徐々に代表者を交代していきたいと考えています。

　──戦略が事業だけでなく、人材の育成にもつながっているということですね。グループでは戸建のほかにも多種多様な事業を展開していますね。

　安成　当社の売上構成は住宅事業40％、建築事業50％、商業開発10％となっています。建築事業では賃貸マンション、医療・介護福祉施設の開発が好調です。当社の設計レベルが高評価をいただいており、医療コンサルや調剤薬局グループさまなどから高い評価をいただいています。土地探し、基本計画、そして実施設計、開業と「安成に頼めば、良い品質の医療・介護福祉施設ができる」という信頼をいただいていると実感しています。

　このような医院や介護施設も近年、多くを木造で建築しています。80室規模の大型介護施設も木造で設計します。当社は木造住宅分野の実績が豊富なことから、今後増えてくると思われる大型木造施設建築は得意分野といえます。22年4月現在で147施設の医療施設を建設しており、年間平均で10施設ほどです。福祉施設は54施設です。山口県内では相当高いシェアを占めると思います。福岡市場でも事業を展開しており、糸島で糸島医療モールとして7医院の開発実績があります。

（つづく）

【文・構成：麓　由哉】

＜COMPANY INFORMATION＞
代　表：安成　信次
所在地：山口県下関市綾羅木新町3-7-1
設　立：1966年1月
資本金：7,200万円
売上高：（21/12）98億6,400万円
　　　　（21/12グループ）約172億円

＜プロフィール＞
安成　信次（やすなり・しんじ）
1956年生まれ、山口県下関市出身。日本大学生産工学部建築工学科卒。大手ゼネコン勤務後、先代にあたる父・安成信良氏が経営する（株）安成工務店に入社。副社長の折に先代が急逝し、32歳で代表取締役社長に就任する。12社を傘下に抱える（株）YASUNARIホールディングス代表取締役社長も兼任する。