2024年12月22日( 日 )

ウクライナ危機と国連安保理の拒否権問題を問う(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

元国連大使
OECD事務次長
岩手県立大学長 谷口 誠 氏

名古屋市立大特任教授
日本ビジネスインテリジェンス協会理事長
中川 十郎 氏

 ロシアによるウクライナ侵攻で、国連が抱えてきた安全保障理事会における常任理事国の拒否権の問題が明るみに出た。ウクライナ危機後の世界の政治・経済問題の展望を踏まえ、これからの日本の外交はどうあるべきかをめぐり、元国連大使・谷口誠氏と日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏が対談した。谷口氏は国連大使やOECD事務次長として国際政治経済・外交分野で活躍、中川氏は長年にわたり商社海外駐在員として国際貿易に従事するなど、両氏ともに国際経験が豊富だ。

ウクライナ問題、ロシアと欧州の関係が変化

名古屋市立大特任教授、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長 中川 十郎 氏
名古屋市立大特任教授
日本ビジネスインテリジェンス協会理事長
中川 十郎 氏

    中川十郎氏(以下、中川氏) 谷口大使は長年、国連大使、OECD事務次長として、国際的に欧米で活躍してこられましたが、今回のロシアによるウクライナ侵攻をどのように捉えていますか。率直なご見解をお聞かせください。

    谷口誠氏(以下、谷口) ハンガリー・ブタペストで1994年に開催された欧州安全保障協力機構(CSCE、現・欧州安保協力機構:OSCE)の会議では、当時の米国・クリントン大統領、フランス・ミッテラン大統領、ドイツ・コール首相、ロシア・エリツィン大統領などの世界のリーダーが集まり、欧州の安全保障の問題を協議しました。私はOECDの代表としてこの会議に出席しました。

▼おすすめ記事
【BIS論壇 No.372】経済安全保障問題

 ロシアと欧州の緊張関係は冷戦後も残っており、エルツィン大統領は「NATOの敵はどこだ」とクリントン大統領に食い下がって聞きましたが、クリントン大統領は困ってしまい、答えられませんでした。しかし、会議後の晩さん会では、酔っぱらったエルツィン大統領をコール首相がそばで支えながら、ブタペストの宮殿の階段を下りてくる場面もあり、ロシアと欧州は議論をしながらも人間関係が深かったと感じます。

 それから30年近くが経ち、ドイツ・ショルツ首相とロシア・プーチン大統領の関係もそうですが、欧州とロシアの人間関係が冷たくなっており、危機的な状況だと感じます。世界は人と人のつながりで動いており、人間関係がいかに大切かということを実感しています。ウクライナ問題では、戦争を続けてもどの国も得をしません。争いを早く終わらせることが最も大切です。

 中川 冷戦終結直後の30年前は、旧共産圏と欧米は友好的な関係で、お互いに話し合う姿勢があったのですね。欧米とロシアの人間関係が冷たくなったことが、ウクライナでの争いの発端になったということでしょうか。

国連が抱える「拒否権」の問題

元国連大使、OECD事務次長、岩手県立大学長 谷口 誠 氏
元国連大使
OECD事務次長
岩手県立大学長 谷口 誠 氏

    谷口 ロシアは国連総会で糾弾され、ロシアの非難決議は賛成141、反対5、棄権35となりました。しかし、ロシアは安全保障理事会の常任理事国5カ国の1つで拒否権をもっているため、拒否権を行使し、国連総会で大多数の賛成があったロシアの非難決議案は否決されました。

 西原春夫元早稲田大学総長が議長となり、日本外国特派員協会で2月22日に開催された「東アジアの平和を考える」会で講演したときには、日本外国特派員協会会長から「国連の拒否権をどう考えていますか」という質問を受けたため、私は常任理事国5カ国が拒否権をもっているのはよくないと反対しました。ウクライナ問題を見ても、かつての戦勝国である常任理事国5カ国が拒否権をもち、国連を牛耳っていることが、国連が大きな政治問題で機能しない最大の原因です。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
谷口 誠
(たにぐち・まこと)
 1956年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在は「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学アジア・ユーラシア総合研究所所長。著書に『21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦』(早稲田大学出版部)、『東アジア共同体 経済統合の行方と日本』(岩波新書)など多数。

中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会学術顧問、中国競争情報協会国際顧問など。著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。

(中)

関連記事