【脊振動画】春を告げるショウジョウバカマ
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10年前に先輩T、後輩Sと3人で、福岡県糸島市と佐賀県富士町に裾野を分ける羽金山(900m)近くにショウジョウバカマの観賞に行った。Tの案内で訪れると、縦走路周辺にショウジョウバカマが足の踏み場もないほど白い花を見事に咲かせていた。
いろいろな角度からこの花を撮影した。デジタルカメラが普及し始めた頃だ。帰宅してカメラのデータをパソコンに取り入れ、何度もこの花と画面上で対面した。
ショウジョウバカマとの感動的な出会いを忘れることができない。そんな感動を期待して毎年会いに行っている。この地のショウジョウバカマは福岡県側の西斜面に咲き、佐賀県側の東斜面にはほとんど咲いていない。杉林の木漏れ日のなかに自生し、杉林と共生している。
昨年は3月末に予定が詰まり、この花に会いに行くのが1週間遅くなった。縦走路の花の自生地に入ると、見頃の時期が終わり、花びらは茶色に変色していた。それでも1割ほどが白い花を残していた。強風で寒さも加わり、筆者の心の昂りが冷めてしまった。それでも花との出会いに感謝し、撮影を続けた。
今年は2月に冷え込みが長く続き、その影響で山に春の訪れが10日以上遅れている。花が咲くのが例年よりも非常に遅いのである。植物や樹木は根や幹に、気温と日照時間を感知するセンサーをもっているように思える。植物も樹木も1、2月の気温次第で開花が早くなったり遅くなったりする。
開花の時期を予測し、4月1日に後輩2人を誘って糸島市の白糸の滝から羽金山まで歩いた。前日の雨の影響もあり太平洋上に前線が残り、日本海から北風が吹き込んでいた。
縦走路では木々が揺れ、筆者たちの体も風を受けて寒さを感じた。樹林帯に入ると、シロモジの黄色い花が見え始めた。シロモジやクロモジは春の訪れをいち早く知らせる樹木だ。細い枝にとんがり帽子の黄色い花をたくさん咲かせ、実にかわいい。
羽金山までの縦走路を20分ほど歩くと、背丈10㎝ほどの白い花が少しずつ見えてきた。ショウジョウバカマである。目指す群生地の開花状況はどうだろうと、期待が膨らむ。
群生地に届いた。縦走路から倒木や棘のある植物をかき分け、私の秘密の場所に入り込む。大きな岩の下でショウジョウバカマが岩に這うようにたくさん咲いていた。「元気でいてくれたのか!」。筆者は胸のなかでつぶやいた。10年前と比べると花の数は少ない。それでも感動を覚えた。「たくさん咲いているよ」と後輩たちにも声をかけた。
後輩Hは一眼レフで、この花たちの撮影に夢中になっていた。花に向き合う自然体のHを筆者のカメラに収めた。
登山靴で入り込むと、自然の地に靴跡で道ができてしまう。踏みつけた足跡を残さないように地面をならして縦走路に戻った。植物の撮影には底が柔い長靴が適している。慣れない長靴で靴ずれができたことがあり、この日は登山靴を使った。
▼おすすめリンク
・オールドボーイの レッツ &トライチャンネル(YouTube)
・【脊振の自然に魅せられて】ゲレンデにて(前)ショウジョウバカマの観賞が一段落し、羽金山を望む河童山で昼食を済ませた。羽金山の電波塔を見学し、林道を歩いて白糸の滝の駐車場まで下山した。
視界の広くなった場所があった。霞んだ空気のなか、糸島地区の展望が広がっていた。遠くに九州大学の白い建物も確認できた。しばらく歩くと、杉林のなかの低木に咲いた花が目に飛び込んできた。
「コショウノキだ」と思わず声を挙げた。白くて淡い花を見たのは何年ぶりであろう。沈丁花科のコショウノキは、名前とは裏腹に嗅ぐと芳しい。心残りがないほど何枚も撮影した。後輩Oは道路脇のフキノトウやツクシを取っていた。
帰りの糸島街道は桜や菜の花が咲き、素敵だった。後輩たちとのんびり山歩きを楽しめた1日となった。
九州に分布するショウジョウバカマは分類上、ツクシショウジョウバカマ(筑紫猩々袴、ユリ科)である。ショウジョウバカマよりも幾分大きめで、花の色も白が多く、茎から幾重にも細長い葉をつけている。
「猩々」とはオランウータンに似た空想の動物で、能に登場する。ショウジョウバカマの葉を猩々が着けた袴とイメージしたのである。
この植物は開花が終わると、子孫を残すために茎を10倍も伸ばし、種をできるだけ遠くへ飛ばそうする。背丈は10㎝程度のものが50㎝以上にもなる。自然界の不思議でもあり、また自然淘汰も繰り返す。繁殖力の強いシダやヤブミョウガが迫ってくると、繁栄の場所を取られてしまう。実際に居場所を失ったショウジョウバカマの群生地を見てきた。
近年、この場所が山の季刊誌に紹介され、瞬く間に知れ渡った。そして花の数も少しずつ減少して行った。登山者の数が増えると、踏み荒らされてしまうこともある。それでも杉林のなかに居場所を広げている。
羽金山は53年前に大学の創立50周年を記念し、部活のワンダーフォーゲルで道標を立てた場所である。
今は「はがね山標準電波送信所」の高さ200mの巨大なアンテナがある。このアンテナから西日本一帯に電波時計の送信を行っている。東日本の大鷹鳥谷山(福島県)と合わせて日本に2本ある。
フェンス越しのインターフォンから許可をもらい、敷地内に入ることができる。空にそびえる強大なアンテナを敷地内から見上げると首が痛くなる。山頂には伊都遊歩道クラブが立てた道標がある。
2022年4月11日
脊振の自然を愛する会
代表 池田 友行▼関連リンク
花を巡る山旅 ショウジョウバカマ咲く(YouTube)関連キーワード
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