【清々しい品格(1)】経営道の原点は無心・無私欲、経営とは鍛錬・求道の場なり
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経営戦略が人材育成の要
まず結論から述べよう。(株)安成工務店代表取締役社長の安成信次氏は筆者の知る限り、福岡県・山口県の建設業界随一の経営戦略家である。また、この人の戦略の根幹には私欲がまったくない。福岡でもグループ化戦略を掲げて拡大に走る経営者がいるが、私欲丸だしの本性が見える。しかし、同氏には1点の曇りもなく、この無心をどのようにして身につけたのか、いまだ解明できないでいる。
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「建設業=受注型営業」脱却目指し、新団体設立へ筆者は「人材育成の要は企業の掲げる理念ですよね」と投げかけた。「いや違う。経営戦略によって人材は鍛えられ成長する」と強烈な反論を浴びせられた。まさしく人材は、仕事という戦場を積み重ねることで成長していく。しかし、しっかりした方向性=経営戦略に沿って鍛えられないと、育成方向に間違いが生じる。理念経営を叫ぶ経営者のなかには、社員を利益収奪の対象としか考えていない輩もいる。
冷徹な現実主義者
安成氏と知り合ったのは2005年ごろ。当社の顧問・浜崎裕治の紹介である。浜崎顧問が山口銀行を退職して安成工務店取締役に就いていた時であった。安成氏は「人口減の市場縮小地区では努力のしがいがない」と公言する。その背景には、同氏が日本海に面していた豊北町(現・下関市豊北町)で会社を起こした経緯がある。「将来性がない(人口減)」と見切って、1984年に下関市に本社を移転してきた。だが、初対面時から本音を打ち明けた。「下関市の市場もじり貧になる。人口減を止めることができない。チャンスがあれば福岡へ進出したいものだ」と。
「この率直に喝破する福岡進攻策にひと肌脱いでやろう」という気持ちが湧いてきた。縁があってオークス建設と結ばれた。この会社のオーナー、石井氏は銀行OBである。銀行からM&A案件の打診があったのにもかかわらず、安成氏に会社を譲渡した。石井氏は「安成氏に託せば必ず社員が幸せになり、会社も発展する」という確信を抱いたという。安成氏は持論をとうとうと展開しなくても、相手から信頼を得られる天賦を具備しているようである。
オークス建設のM&Aを達成したのは2006年。それから16年の歳月が流れた。九州の大市場でどのような結実を得たのか。YASUNARIグループの売上に占める福岡都市圏における比率は過半数を占めるようになった。「大市場でしか努力は報われない」という仮説も、戦いの場を得れば一瞬にしてかたちにし、立証してしまう。同時に地元・下関でのシェアも高めてきた。
計画を確定させて数字を固めていく手法は、冷厳な現実主義者でないと上手くいかない。ところが、興味深いのは、安成氏の複雑な一面に卓越した豊かな感性が混在しているところである。
凡人にない感性が事業の深化を推進
知己を得た05年ごろから、タブレットを駆使ながら説明に当たっていた光景を鮮明に記憶している。もともと建築士だったこともあるが、アピール用語も上手に活用し、説得力にも長けていた。現在は「環境共生住宅パッシブハウス」というカテゴリーの進化した高級住宅だが、当時は健康住宅が流行りであった。いかに住環境を省エネで年中一定に維持するかが競われていた。
2度目の取材時にハッと気づいた。「自社で断熱材を製造しているのか」と仰天したのだ。現在の(株)デコスである。当時、古紙を再利用し、断熱材を製造していた工程を視察した。現在はセルロースファイバー断熱材を販売している。独自の家づくりの研究開発から断熱材製造にまで変貌させる安成氏の感性に感服したわけだ。
事業継承は一族で行うものではない
安成氏が事業継承を語る際には、使命感や生きがいなどが複雑に交錯する。「YASUNARIグループには中核企業が10社ある。自分が社長を兼務している企業がまだ4社残っている。早く生え抜きから社長に抜擢することを実現しないといけないな。これが俺の取り残した仕事」。
当社の浜崎顧問は、「以前から安成社長の頭には、会社が自分の私的なものという意識はまったくなかった。社員たちの生活を守ることが自分の使命といい、私欲は皆無であった。交際費の支出を締めていた一方、社員のために厳しい教育を徹底していたようだ。ただ、持ち株会社の運営は一族で行われるだろうが」と振り返る。異色の社内抜擢社長の成果が注目される。
最後の役目は建設業界の底上げ
安成氏の信念の基盤は「見積もり請負には参加しない。こちらの提案に聞く耳を持つ施主さんには精一杯、説明する」ことである。長年、悪戦苦闘を積み上げてきた結果、「デザインビルド」という概念を構築させた。別の表現をすれば、その使命感は「建設会社の社会的地位向上」である。
同氏は近々、会長に就任する意向なのであろう。既報の通り、「新・建設業 地方創生研究会」を立ち上げた。売上高20億円以上の建設業者とともにPFIの勉強会および受注業態から脱した企画提案型建設業への転換を促す研究会を開催していく。この活動にも私心はない。自身が建設業界で経営を積むことで、自ら鍛錬と求道に励んできた。その恩を業界の社会的信用向上への貢献で返したいという切望が、行動の原動力になっているのだ。この取り組みに心からエールを送りたい。
法人名
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