2024年11月06日( 水 )

ウクライナ戦争の影響で始まった食糧争奪戦争

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、4月22日付の記事を紹介する。

世界 不安 イメージ    現在進行中のウクライナ戦争は終わりが見えないどころか、第3次世界大戦に発展する恐れも生じさせています。というのは、NATOの支援を受けているウクライナがロシアと軍事的な対立を続けているように見えますが、実態はアメリカ軍がウクライナ戦線で直接的な関与を強めているからです。

 最大の激戦地となっているマリウポリではアメリカ軍の将軍の乗ったヘリコプターが撃墜され、将軍らはロシア軍によって連れ去られたとの情報が飛び交っています。アメリカ政府は「アメリカの正規軍がウクライナに直接関与することはない」と繰り返し述べてきたため、捕虜になったと思われる将軍の所在を明らかにはしていません。しかし、アメリカ軍がほかのNATO諸国と連携し、ウクライナにおいて対ロ戦を戦っていることは間違いないと思われます。

 なぜなら、相当数のアメリカの将校がウクライナの前線において作戦の指揮を執っているからです。現地で取材を続けるフランス人ジャーナリストによれば、アメリカ軍の提供する「スイッチブレード」と呼ばれる自爆ドローンによるロシア軍への攻撃を前線で指揮監督しているのはアメリカ軍人に他ならないとのこと。

 いうまでもなく、武器や情報の提供だけではなく、アメリカはウクライナにおいて直接ロシア軍との戦いを演じているのです。しかも、こうした戦いは2019年に行われたアメリカ主導の「ロシアNATO戦争シミュレーション」のシナリオとそっくり同じ展開を見せています。

 このシミュレーションでは、最終的に「核戦争」にまで対立が激化し、ロシア軍の勝利に終わることになったようです。バイデン政権とすれば、そうならないようにするため、ロシアへの経済制裁の強化と同時進行でウクライナ軍への最新兵器の提供と現地で作戦の指揮を執らせるためアメリカの将校を派遣していると思われます。

 また、ウクライナからの要請を受け、アメリカはスロバニア軍が保有する旧ソ連製のミグ29戦闘機を提供するお膳立てをしました。こうした情勢を見れば、ウクライナ戦争は長期化が避けられないでしょう。民間人を含む多くの犠牲がこれまで以上に発生することになります。

 加えて、ヨーロッパでも最大規模を誇ってきたウクライナの農業生産は大きな打撃を被ってしまいました。世界有数の小麦やトウモロコシの産地であったウクライナですが、輸出もできなくなり、作付けもできません。その結果、世界的に穀物価格は値上がりを続けています。

 実は、ウクライナ産の穀物はヨーロッパ人の胃袋を満たしていたばかりではなく、中国人の食卓にとっても欠かせないものでした。何しろウクライナにとって中国は最大の貿易相手国でしたから。

 緊急事態に直面し、中国はアメリカからの食糧緊急輸入に舵を切りました。2021年5月以降、中国は過去最大規模でアメリカ産のトウモロコシの輸入を始め、今日に至っています。アメリカ農務省のデータを見れば、中国は100万トンを超えるトウモロコシを買い入れたことが確認できます。

 アメリカ政府の分析では「中国はかつてない勢いで食糧の備蓄に取り組んでいる」とのこと。中国の爆買いの影響もあり、トウモロコシの価格は2012年以降、最高値を更新中です。もちろん中国が買い占めに走っているのはトウモロコシに限りません。小麦や大豆も同様です。

 今後もウクライナ戦争が長引けば、中国による食料の買い占めはますます激化し、世界的な食糧争奪戦争に発展する可能性が出てくるでしょう。ウクライナやロシアからの肥料の出荷も滞っています。そのため、中国では農業生産者が苦境に陥っている模様です。

 中国の農業・地域発展大臣によれば「中国の小麦生産は過去最悪の事態に直面している」とのこと。今秋、5年に1度の共産党大会を控える習近平体制にとって、食糧確保は最重点課題となっています。この問題を克服しなければ、習近平国家主席の3期目にも暗雲が立ち込めかねません。

 さらに深刻な問題も発生してきました。何かといえば、アメリカの穀倉地帯における温暖化と悪天候による生産減少です。テキサス、オクラホマ、カンザス、モンタナといった農業州において熱波と強風の影響で小麦、トウモロコシ、大豆の生産が大打撃を受けています。

 これではアメリカ国内においても食糧不足の嵐が巻き起こる可能性すらあるわけで、食糧輸入国の日本にとってはかつてない深刻な事態が出現すると言っても過言ではありません。

 食糧の備蓄を行うとともに、家庭菜園などできる範囲で食糧の自給体制を組む努力が欠かせないでしょう。

 次号「第293回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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