2024年11月27日( 水 )

自らをイエス・キリストになぞらえる孫正義は世界を救えるのか?(中)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

東京ポートシティ竹芝オフィスタワー    思い起こせば、2018年、孫氏はサウジアラビアとの間で2,000億ドルの太陽光発電事業に関する事業計画合意書に署名しました。当時とすれば、世界最大規模のプロジェクトです。

 しかし、具体化することはありませんでした。そうした過去の「空手形」に思いを馳せれば、今回のインドネシアにおける首都移転計画からの撤退も、「またか」と思う投資家は数多くいるに違いありません。

 もちろん、ソフトバンクにも言い分はあるようです。孫氏は「インドネシアは急速な社会のデジタル化を進めており、同国のスタートアップ企業を応援する考えに変わりはありません」と弁解らしい発言を繰り出しています。しかし、インドネシア現地の報道からは、まったく違った「孫正義像」が浮かび上がってきます。

 地元メディアによれば、孫氏はインドネシア政府がとてものめないような要求を次々と切り出してきたといいます。たとえば、「投資するためには新首都の人口は5,000万人を確保してもらいたい」とか、「すべての基幹産業をジャカルタ周辺から東カリマンタンに移転すべきだ」といった具合です。

 インドネシア政府の関係者に言わせれば、「こんな無理難題を突き付けてきたのは、前言を翻し、投資しないことの言い訳にしようとしているとしか思えない」とのこと。いずれにせよ、首都移転計画の実現にこだわるウィドド政権とすれば、ソフトバンクには見切りをつけた模様です。

 責任者いわく、「恐らく、孫氏の経営状態は思わしくないのでしょう。もう孫氏をあてにしません。これからはアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアとの間で話を詰めたいものです。また、場合によっては中国にも声をかけることがあるかもしれません。UAEは中国との合弁事業も数多く積み重ねていますから」。

 とはいえ、UAEやサウジアラビアがどこまでインドネシアの首都移転計画に投資するかは定かではありません。そもそもインドネシア政府の財政事情は厳しく、必要な建設費の20%程度しか負担できないと言っているほどです。残りは内外の投資家から集めようという魂胆で、いわば「他人のふんどしで相撲を取る」ような発想にほかなりません。

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 ソフトバンクが撤退を決めた結果、インドネシア政府はUAEやサウジアラビアに加えて、アジア開発銀行(ADB)からの融資の引き出しに動いているようです。その布石として、ウィドド大統領はADBの前副総裁をヘッドハンティングし、新首都担当庁のトップに据えるという異例の人事を発表しました。

 日本企業も多数が進出しているインドネシアであるだけに、首都移転計画の今後の展開が気になるところです。加えて、中国の出方も懸念材料となっています。なぜなら、東カリマンタンは南シナ海に面しており、中国海軍の活動が近年活発化しているからです。インドネシア国防軍からすれば、「新首都が南シナ海に面した場所に移転することは国防上、好ましくない。基本的には反対せざるを得ない」となります。

 インドネシアは今年10月、バリ島を舞台にG20サミットを開催する予定です。プーチン大統領も参加の意向を示しています。ウクライナ戦争がどう影響するか、予断を許しませんが、ウィドド大統領とすればインドネシアの国際的な地位を高め、首都移転計画にも弾みをつけ、各国からの投資を呼び込みたい考えと思われます。インドネシアにおいて人脈を築いてきた孫氏とすれば、多額の投資からは手を引いたものの、個別のスタートアップ企業への関与はあきらめたわけではなさそうです。

 かつて中国の「アリババ」の創業者ジャック・マー氏の可能性に賭け、2000年に2,000万ドルの投資をした結果、14年には500億ドルに大化けしました。「リスクを厭わない」と自ら断言する孫氏のこと。インドネシアでも密かに、ビッグリターンのタネをまいているに違いありません。

 しかし、そのためにも、現在進行中の投資案件を軟着陸させる必要がありそうです。何しろ、インドネシアの政府関係者が「孫氏の企業財務は厳しく、インドネシアに約束した投資をできなくなったのもうなずける」というほどですから。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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