2024年11月22日( 金 )

「生娘シャブ漬け」発言の吉野家常務の輝かしい履歴(前)

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 「後悔先に立たず」。やってしまったことを後で悔いても、もう取り返しがつかないという意味である。牛丼チェーン吉野家の元常務取締役・伊東正明氏の不適切発言が“大炎上”。調子に乗りすぎて「敏腕マーケター」としての輝かしい人生を棒に振ってしまった伊東氏の発言の「火消し」に吉野家は追われることとなった。

「生娘シャブ漬け」発言で解任

牛丼 イメージ    (株)吉野家ホールディングス(HD)は4月19日、不適切発言をしたとして牛丼チェーン子会社、(株)吉野家の伊東正明・常務取締役(49)を18日付で解任したと発表。吉野家HDの執行役員からも外した。

 吉野家HDは、解任理由を「人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することができない職務上著しく不適切な言動があった」としている。また、吉野家HDの河村泰貴社長は責任を取って4月から3カ月間、固定報酬の3割分を減額する。

 伊東氏は16日に早稲田大学で行われた社会人向けの「デジタル時代のマーケティング総合講座」の講師だった。報道によると伊東氏は、若年女性向けマーケティングについて、「生娘をシャブ漬け戦略」と表現し、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする。男に高い飯を奢って貰えるようになれば、絶対に食べない」という発言をしたといい、受講者からの投稿がSNS上で拡散され大炎上した。

 伊東元常務の発言は、計29回、受講料38万5,000円、1回あたり約1万3,000円の社会人向けのマーケティング講座の初回授業で飛び出したもの。高い受講料を払っているのに、ウケ狙いの、それも品のない比喩を聞かされたら、受講者が立腹するのも無理はない。「失言」ではなく、「暴言」である。

P&G出身のマーケターという輝かしい経歴

 現在、日本の大企業の再生やテコ入れ、新規事業案件において大活躍しているのが、米生活用品大手P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)出身のマーケティングのプロたちだ。

 製品や販売などの戦略づくりから組織運営まで幅広い業務に携わる人材をマーケターといい、P&G出身のマーケターのことを「P&Gマフィア」と呼ぶ人もいる。

 筆者はNetIB-Newsに「集客増加策は、マーケターの出番!~吉野家は伊東氏、丸亀製麺は森岡氏に任せた」(2020年3月2日~4日掲載)と題した記事を寄稿。P&G出身の有名なマーケターについて取り上げた。

 1人は、大阪のテーマパークUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)人気を不動のものとしたことでも知られる森岡毅氏。もう1人が、外食業界で「牛丼マーケティングの寵児」ともてはやされていた吉野家の伊東正明氏だ。

 伊東氏は慶応大学商学部を卒業し、96年にP&Gに入社。衣料用洗剤「アリエール」や食器用洗剤「ジョイ」ブランドのマーケティングを担当して売り上げを回復させた。その後、米国本社、ヨーロッパ本社で消臭剤「ファブリーズ」のマーケティング責任者となり、シンガポールではアジア全体のバイスプレジデントを務め、17年11月にP&Gを退社。ビジネスコンサルタントの「OFFICE MASA」を立ち上げた。

牛丼ブランドの再生を託される

 多くの企業からヘッドハンティングされた伊東氏が、吉野家を選んだのは、河村泰貴社長の「牛丼の味へのこだわり」に共感したからだという。伊東氏は18年1月に吉野家に入社。18年10月に常務取締役に就任し、ブランディングやマーケティングを主導した。

 吉野家HDの19年2月期の連結最終損益は60億円の赤字(前の期は14億円の黒字)に転落した。原因は牛丼店吉野家の伸び悩みだ。売上高の5割超を占める牛丼事業の収益力を高められるかどうかが、グループの全体の成長を左右する。吉野家のテコ入れのために招聘されたのが伊東氏である。

 伊東氏は「コア&モア」という19年度の戦略を打ち出した。常連客(コア)の来店頻度を高めながら、女性客や子ども連れなど新しい客層(モア)を獲得するというもの。吉野家の長年の課題は客層が偏っていることで、男性比率が高いのが特徴だ。吉野家のように日常食を提供する飲食店が成長するには、客層を広げて、いかに来店回数を増やすかどうかに尽きる。そのためには女性が入りづらい店舗を改善する必要がある。それが「コア&モア」戦略だ。もう1つの柱は「メディア戦略」。伊東氏が最も得意とするマーケティング手法だ。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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