UAEのハリファ大統領逝去 MBZに期待(中)
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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸UAE詣に熱心な欧米トップ
ヨーロッパも負けてはいません。フランスのマクロン大統領はいの一番に駆け付けました。UAEのムハンマド新大統領に最初に面談したのはマクロン大統領です。というのも、フランスはUAE内に主要な海軍基地を保有しています。しかも、UAEはフランス製のジェット戦闘機「ラファール」を180億ドル分も輸入する契約を結んでくれたばかりなのです。
その後を追うようにイギリスのジョンソン首相もUAEに乗り込んだものです。イギリス王室からはエリザベス女王の意を受けて、ウィリアム王子が駆け付けました。イスラエルや対立するパレスチナ自治区やイランからも大統領や首相、あるいは特使が葬儀に参列するという華々しさです。これらヨーロッパ諸国はロシアからのエネルギーの輸入を中止ないし段階的に縮小する方針を打ち出しています。その代替源としてUAEが主導的な役割をはたしているのがOPECなのです。欧米のトップがUAE詣に熱心なのも頷けるでしょう。
さらには、世界から制裁を受けているロシアのプーチン大統領からも弔意のメッセージが届きました。日本からは岸田総理の弔文が送られましたが、諸外国のリーダーから寄せられたものと比べると、個人的な出会いがなかったせいか、「深い悲しみを禁じ得ず、日本国政府及び日本国民を代表して、アラブ首長国連邦政府及びその国民に謹んで哀悼の意を表す」とのことで、紋切型のお悔やみ文でしかなかったのは残念としか言いようがありません。
実は、小生は外務大臣政務官の時代、欧州や中東地域を担当しており、UAEを何度も訪問する機会がありました。UAEはとくにエネルギー分野において日本にとってはかけがえのない存在で、ハリファ大統領は水面下で日本との関係強化に向けて特別な配慮を見せてくれたものです。
その外交手腕はエネルギー源を振りかざすという「力技」ではなく、静かな対話を通じてお互いの理解の上に経済協力のネットワークを築くという「裏技」が特徴でした。対立するイスラエルとの国交正常化を主導し、イランとも双方と水面下でパイプを維持し、アメリカともロシア、中国とも対等に渡り合う道を選んでいるのがUAEなのです。石油という強い武器があるからできる「寝技」ともいえるものでした。日本からの交通インフラ、農業、宇宙関連技術の導入にも熱心でした。
2117年までに火星への移住計画を実現
ハリファ大統領の未来ビジョンの下、UAEは世界を驚かすような新規ビジネスにも次々と挑戦し、今日に至っています。たとえば、交通渋滞とエネルギー問題を解消するための「空飛ぶタクシー」から人類の食糧問題を解決するための「火星科学都市構想」まで、枚挙の暇がありません。すでに月面探査にとどまらず火星にも「HOPE」と名付けた探査機を送り届けているほどです。
「2117年までに火星への移住計画を実現する」との100年計画も明らかにしています。いわば、「宇宙大国」を目指しているわけです。その意味でいえば、ハリファ大統領は天国から、このUAE発の「夢と希望の宇宙時代」を見守っているに違いありません。ドバイに聳える世界1の超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」から眺める景色は壮観でしたが、思えば、火星、そして金星への探査計画を進めるUAEを象徴しているように思われます。
今後は新大統領に選出され、「MBZ」の名で知られる義理の弟・ムハンマド皇太子がUAEをさらなる高みに押し上げる使命を担うことになります。MBZは体調を崩した兄に代わり、実質的には最高指導者としてUAEを引っ張ってきた実績があります。イギリスのロイヤル・ミリタリー・アカデミーを卒業し、UAEの特殊部隊でも経験を積んできました。
彼の指導の下、UAEは中東地域における最強の軍事力を保持するまでになっています。武器の輸入額に関しては世界ナンバー1です。かつては隣国サウジアラビアの影響を強く受けていましたが、MBZの方針の下、サウジへの依存度が少なくなり、独自外交を展開するようになりました。また、アメリカ一極時代の終焉も見据え、アラブ諸国が一体化することで、新たな地政学的な極を生み出そうとする思いも感じられます。
現在61歳と働き盛りでもあり、宇宙開発事業や初の原子力発電所の建設などのけん引役としても頭角を現してきました。イギリス留学の経験に加え、イスラエルやアメリカとの国際交渉力には定評があります。何しろ、オバマ元大統領との昼食を断って、2016年には大統領選挙に打って出たトランプ候補との面談を優先したほどですから。その先見力はなかなかのものです。
(つづく)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連キーワード
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