大学研究から興すビジネス、カイコで世界の医療事情を変える(前)
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KAICO(株) 代表取締役社長
大和 建太 氏現在の創薬市場では「タンパク質製剤」がメジャーとなり、これまで治療薬がないとされていた疾病に対しても効果を現すようになった。しかし、それでもすべての需要に対応できるわけではないため、日夜このタンパク質の研究が進められている。「特集 スタートアップ」の第5回目となる今回は、カイコを使ったタンパク質の生産に取り組む大学発ベンチャー、KAICO(株)代表取締役社長・大和建太氏に話をうかがった。
大学研究をビジネスに昇華
──貴社の事業内容をお聞かせください。
大和建太氏(以下、大和) 当社で行っているのはカイコを使った難発現性タンパク質の開発です。一般的にカイコは、「繭から絹糸を紡いで使用する」という用途で知られていると思いますが、当社ではカイコを使って医療品用のタンパク質をつくることをメインの事業としています。これによってつくられたタンパク質は飼料やサプリメントをはじめ、ワクチンなどといったミクロな分野で使用されます。
──会社設立のきっかけは大和社長の九州ビジネス・スクール(以下、QBS)での出会いとお聞きしました。
大和 私は45歳でQBSに入学しましたが、その当時から起業の意志がありました。しかし、その当時はどのような業界で起業するかは決めておらず、手探りのまま。そのようななか、2年次のゼミの産学連携マネジメント講座のなかで大学研究について知り、出会ったのが日下部宜宏教授のカイコを使ったタンパク質生成の研究です。とくに、カイコ-バキュロウイルス発現(※)系の研究を行っており、遺伝子ゲノム構造に関するノウハウがありました。このノウハウがあれば、これまでの創薬市場では誕生しなかった新たなタンパク質の生成を図ることができると知り、当社を設立することとなったのです。
日下部教授は現在も研究を続けており、アドバイザーとして当社にも携わっていただいています。
九州大学では遺伝学の研究を行っています。100年以上にわたって継代飼育を行い、その記録が学内に保管・管理され、研究のためにカイコを飼育してきたため、一般的な農家での養蚕とは異なり、養蚕用系統以外にもさまざまな系統のカイコが保存されており、血統書付き近郊系数は約450種類に上ります。そのなかにはウイルスの感受性が高いものもいるため、我々の開発に大いに貢献してくれています。
創業当初は液体型の試薬や動物用ワクチンの開発を行っていました。しかし、開発の進歩とともにそのバリエーションは拡張。動物用だけでなく人間用も、液体型だけでなく粉末型のものも、と新しいかたちのワクチンを提供する道を切り拓くことができました。
現在力を入れているのは粉末型の経口ワクチンです。経口ワクチンとはその名の通り、食べることによって抗体価を上げることができるワクチンです。通常、タンパク質は経口摂取するとアミノ酸に分解されてしまうため、効果を発揮できません。しかし、当社で開発している経口ワクチンはその懸念がなく、抗体価を上げられることが確認されています。経口ワクチンについては常温保存が可能であることや侵襲性(被験者の身体的リスク。注射時の痛みなど)がないこと、接種のために医療人材を確保する必要がないことなど、さまざまな面で従来の注射型にないメリットを提供することができます。
※:カイコのみが感染するバキュロウイルスを使ったタンパク質の生成方法。目的タンパク質DNAをバキュロウイルスに挿入し、このバキュロウイルスをカイコ体内に注入することにより、ウイルスの増殖にともなった目的タンパク質を発現できる。このとき出来上がった目的タンパク質はワクチンの成分などとして活用できる。 ^
(つづく)
【杉町 彩紗】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:大和 建太
所在地:福岡市西区九大新町4-1
設 立:2018年4月
資本金:9,000万円
URL:http://www.kaicoltd.jp/
<プロフィール>
大和 建太(やまと・けんた)
1967年生まれ、東京都出身。横浜国立大学経営学部卒後、大手機械メーカーに就職。2012年4月九州大学ビジネス・スクールに入学、15年3月修了。18年4月にKAICO(株)を設立した。法人名
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