2024年12月23日( 月 )

現代アートの島巡り「瀬戸内国際芸術祭」に行ってみた(前)

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 香川県の瀬戸内海の島々や港で3年に一度開催されている現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」は、直島や豊島などの瀬戸内海に浮かぶ12の島が舞台となっている。美しい島の自然とアートを楽しみに、これまで国内外から多くの人が訪れており、前回(2019年度は118万人が来場した。現代アートと豊かな自然の魅力が多くの人を呼び、「島おこし」のきっかけにもなっている瀬戸内国際芸術祭に行ってみた。

 瀬戸内国際芸術祭の出発点となる香川県の高松港からフェリーで直島・宮浦港に向かう。所要時間は約50分。港に着くと、赤色に黒い水玉模様が印象的な草間彌生氏のアート作品、「赤いかぼちゃ」が出迎えてくれる。「地中美術館」や「ベネッセハウス ミュージアム」などベネッセアートサイト直島のアート施設が数多くあり、島の自然や町並みを生かしたアート作品を体験できる場所だ。

直島・宮浦港のフェリー
直島・宮浦港のフェリー

 古い町並みを生かしたアート作品を鑑賞できる「家プロジェクト」を目指し、直島東部にある集落、本村地区に向かった。

直島・本村地区の集落
直島・本村地区の集落

空き家などをアート空間に改修「家プロジェクト」

 「家プロジェクト」は、島の人々が暮らす本村地区の空き家となっていた古民家や神社などを改修し、アーティストが空間そのものを作品として展示したものだ。今は、「角屋」「南寺」「きんざ」「護王神社」「石橋」「碁会所」「はいしゃ」の7つのプロジェクトが公開されている。なかでも画家・千住博氏が制作した「石橋」は、古民家と作品が一体化して和の空間が築かれている印象的な作品だ。

家プロジェクト「石橋」(写真:鈴木研一)
家プロジェクト「石橋」(写真:鈴木研一)

 「石橋」は、かつて直島で盛んだった製塩業を営んでいた石橋邸を改修し、アートを鑑賞できる空間となっている。母屋の襖絵として描かれた崖の絵を、少し離れた庭の石に座って鑑賞できる作品が「空の庭」だ。日本家屋を舞台にした幽玄な世界となり、絵具である顔料を工夫することで移ろいゆく時とともに絵が変化して「一期一会」を感じる作品となっている。

千住博氏の作品「空の庭」(家プロジェクト「石橋」、写真:渡邉修)
千住博氏の作品「空の庭」
(家プロジェクト「石橋」、写真:渡邉修)

 また、石橋邸の蔵に入ると、千住氏が滝を描いた作品、「ザ・フォールズ(滝)」を見ることができる。蔵のなかの薄暗い空間で、まるで千住氏が描いた滝の世界にいるかのような感覚に陥る迫力のある作品だ。

千住博氏の滝を描いた作品「The Falls」(家プロジェクト「石橋」、写真:渡邉修)
千住博氏の滝を描いた作品「The Falls」
(家プロジェクト「石橋」、写真:渡邉修)

 瀬戸内国際芸術祭は、コロナ前の2019年開催時は訪問者の23.6%が外国人だった。海外からの旅行者にとって、アートや瀬戸内の島々の自然とともに、古民家である日本家屋を生かした日本らしいアートも大きな魅力だろう。画一的な都市の生活は確かに便利だが、旅行者は自分の国にはない文化に惹かれる。都市に暮らしていると埋もれてしまいがちな「日本らしさ」という感覚を見直すことも必要だろう。

島のくらしを体感するThe Naoshima Plan「水」

 代々、島の暮らしで受け継がれてきた住空間を体感できるのが「The Naoshima Plan『水』」だ。島を訪れた人が、直島に伝わる水や風、太陽の光などの自然の素材と共に暮らす人々の生活の知恵を伝える場所でもある。

The Naoshima Plan「水」(写真:(株)新建築社)
The Naoshima Plan「水」(撮影:新建築社写真部)

 広島を拠点に活動する建築家・三分一博志氏が2011年から2年半かけて、直島・本村地区の集落や土地で、風や水、太陽などの「動く素材」を調査し、築200年の空き家だった木造の古い家屋を改修してつくった。島民が運営しており、島の人と訪問者が交流できるように工夫されている。

 The Naoshima Plan「水」で案内をしている花岡幹大氏は、「江戸末期に海運業である廻船問屋をしていた家です。直島は昔から塩づくりが盛んで、数多くの製塩土器が出土しており、江戸時代には幕府直轄の天領地でした。この家では、直島の塩を北前船で北海道まで運ぶ商いをしていました。島の人は船の扱いや海の天候を見定めるのに長けていたのですね」と話す。

The Naoshima Plan「水」で案内をしている花岡幹大氏
The Naoshima Plan「水」で
案内をしている花岡幹大氏

    本村は古代、海の底にあり、後に海が後退して、室町時代に高原氏の都市計画で入り江を干拓してつくられた町だ。町には川がないため、井戸水は貴重だった。集落の地下には豊かな伏流水があってそれぞれの家に井戸があり、地域で共有されている井戸もあった。The Naoshima Plan「水」では、井戸から流れる水で足水を体験できる。

 本村地区の集落は、太陽の光が入りやすいように、多くの家が同じ方向を向いて建てられており、規則正しく東西に並んでいる。加えて、直島は南から北に向けて風が吹くため、風が通るように、南北に部屋が並んでいる「続き間」になっている。集落の風上にあたる棚田を抜けて水面で冷やされた風が集落を吹き抜け、家から家へと風が受け渡されていた。今はアスファルトの照り返しがあるため暑いが、昔は夏も涼しかったという。

(つづく)

【石井 ゆかり】

(中)

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